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ジェトロ北京センター所長 江原 規由
 
 

昨今の「衣」「食」「住」「行」

 
   
 
江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。
 
 
 中国は実質世界第一位の経済成長を遂げていますが、昨年に続き景気過熱を避ける必要から、今年はその成長率を、昨年の9%台から8%台にスローダウンさせる方針です。今日、成長率を下げることに腐心する国は、中国をおいてほかにないでしょう。

 こうした状況下で、人々の生活実感はいったいどうなのでしょうか。人民の「衣」「食」「住」「行」(車、観光など)に見られる消費動向をスケッチしてみましょう。

衣食足りてダイエット

 まず、「衣」について。

 中国では、数年前から「買200、送100」(200元の買い物をすれば、100元のものが買える)などの新手の商法が大いに流行っています。こうした大胆な値引き商戦を目の当たりすると、「いったい本値はいくらなんだ」と言いたくなります。

 商店も、値引きを見込んだ値付けをしているようです。消費者もその辺の事情はよく知っており、「衣」の購入については、値引率の高い季節の変わり目に、去り行く季節の商品を買うなど、生活防衛に知恵を絞っています。

 ただ、ある調査によると、「衣」への消費は、衝動買いが多いとのことです。流行している品で「いいなあ」というものがあると、買ってしまう傾向があるというのです。特に女性は景気の良し悪しにかかわらず、「衣」(特に、綿など天然素材に人気がある)への消費は切り詰めないようです。

 注目は子供服市場で、今後、年率10%以上の消費の伸びが期待されている点でしょう。これは「一人っ子」政策と大いに関係があります。かわいい子どもに良い服を着せたい、そのためにはお金を惜しまないという親心が反映されています。

 問題は、デザイナー不在で、中国ブランドが育っていないところでしょう。世界の有名ブランドが中国で委託生産されており、技術的には高い水準にあるので、世界に通用する中国ブランドが生まれるのも、そう遠くはないでしょう。

 次に「食」について。

 国連食糧農業機関(FAO)によると、エンゲル係数(家庭総支出に占める食品支出の比率)が30〜40%は富裕社会、30%以下は最富裕社会とされています。北京の場合、2003年のエンゲル係数は31・7%であり、今年は恐らく30%を切るのではないでしょうか。

 目下、北京人は「食」に対して「栄養」「上品な味」「手軽さ」を重視するといわれています。注目すべきは、最近、「食」 フ安全がクローズアップされているということでしょう。

 昨年、乳児が死亡した偽粉ミルク事件など、不幸な事件がありましたが、これでかえって「食」への安全意識が向上し、例えば、「中国飲食健康日」を制定し、国民の休日にしようなどといった声が高まりました。また、北京市は中国初の「食品安全指数」を公表すると発表しています。

 安全であることを示す「緑色」(安全、無公害、有機などの意味)の二字が大いに目立ち、中国は、「食」の安全に大きなこだわりを持ってきています。

 最近、中国ではエステとダイエットが流行っています。この最先端をゆくサービス産業の興隆は、「衣食足りた」後の、人々の生活の付加価値といってよいでしょう。

三種の神器も身近に

 

 いま、中国の三種の神器は「マイホーム」「マイカー」そして「海外旅行」といわれています。つまり「住」と「行」に関係しています。

 都市化の進展や所得向上などで、この新しい「三種の神器」は、庶民にとって、もはや「高嶺の花」ではなくなりました。しかし昨年、不動産、鉄鋼、セメント、アルミなど関連業界が、マクロコントロールの主たる対象とされたので、「三種の神器」をいつ買うべきか、今が買い時か、待つべきか、消費者の心理は大いに揺れ動いています。

 マイホームについて。

 中国では景気過熱に伴う住宅建設などに対し、投資規制が続いています。その一方で、超豪華別荘ブームが進行中といわれます。昨年の中国の「豪邸ベスト10」の最高価格は4億6000万元(約6億円)とのことです。

 北京では、新聞などのチラシで一番多いのはマイホーム関連であり、人々の最大関心事の一つがマイホームの入手にあることは間違いありません。昨年上半期の平均商品住宅販売価格は1平方メートル当たり4500元で、この価格で159平方メートルの住宅を買うとすると、67万5000元(約870万円)となります。

 これを単純に、北京の一人当りのGDP(2003年は3819ドル)で割ると、約21年分となります。すなわち、三人家族の場合、全収入の半分をつぎ込めば、ほぼ14年間の支払いとなる計算です。もちろん、家庭により収入も違いますし、銀行ローンなどもあり、単純に計算できませんが、マイホームがますます手の届く買い物になったことだけは確かなようです。

 政府は2020年までに「小康社会」(いくらかゆとりのある社会)の実現を公約しています。「住」は「小康社会」の柱であり、高度成長を維持し、人々の所得を向上させ、「住」の確保を保障したいところでしょう。

 昨年はマクロコントロールにより、不動産投資のペースがスローダウンし、住宅価格の上昇率が次第に下がる傾向にありました。今後は都市化の進展で、都市人口が増える一方、所得向上も期待できることから、マイホームへの需要は高まる状況といえます。

調整期に入ったマイカーブーム

 次に、マイカーについて。

 中国では、マイカーは最高のステータス・シンボルです。昨年、中国で世界の超高級車であるベントレーが85台売れたとのことです。

 昨年のマイカーの売れ行きを総括しますと、「炎夏之後是寒冬」(炎夏の後はこれ寒冬)といわれます。

 年初(1〜3月)こそ、前年同期比40%超増の売行きと好調でしたが、4月以降、売行きは前月比マイナス、5月は同約20%減と落ち込み(「黒五月」と形容された)、10月になっても同8%減と不振が続きました。

 原因はいろいろですが、自動車保険の500元以内免責条項、ガソリン価格の値上がり、そして2005年の輸入車関税の引下げを見越した買い控えなどが指摘できます。値下げに継ぐ値下げ競争で、薄利でとにかく売りぬこうというのが市場の流れであったといえます。

 一方、生産の方は、世界のトップメーカーが参入し、業界再編成が急ピッチで進みました。中国は世界の自動車生産基地としての陣容を整えつつあり、中国自動車市場の将来的展望は明るいと見る向きが多いわけですが、旺盛な潜在的需要を抱えながら、市場が調整期に入ったといえます。

 いま、中国ではゴルフが静かなブームとなっています。郊外の住宅からゴルフバッグを自家用車に積み込み、ゴルフ場に向かう中国人の姿が、今後ますます目立つようになるでしょう。


  本社:中国北京西城区車公荘大街3号
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