文・写真/須藤みか
 
今時のブライダルとは…
 
 
 
華やかな婚礼写真館のディスプレイ

 5月は、上海のブライダルシーズン。上海語で「5」は「ンゴ」と発音し、「我」と同じ音になるため、特に財を成すの「発」と同音の「8」のつく、5月8日、18日、28日は結婚式ラッシュとなる。

春の公園で婚礼写真アルバム作り

 今年の立春(2月4日)は春節前に訪れ、来年は春節の後に立春が来るために旧暦の2005年には立春がないことになる。春のない年に結婚すると未亡人になるという言い伝えから、春節前には駆け込み結婚がニュースとなった。

 言い伝えを信じるカップルがあれば、そうでない者たちもいるわけで、新聞の報道を見ると春節が明けても、婚姻の届け出数は例年とそう変わりはないようだ。

バックには、外資系ホテルやオフィスビルが

 原稿を書いている3月のある日曜日、新虹橋中心花園に出かけると、十組近くのウェディングドレスとタキシードに身を包んだカップルとすれ違った。

 90年代に始まり、いまや結婚の欠かせないアイテムにもなっている、婚礼写真のアルバム作り。費用は、3〜5000元(1元は約13円)。スタジオとロケを含めての撮影は一日がかりで、披露宴の二、三カ月前に行われる。五月に間に合わせるなら、3月のいまが撮り時ということになるのだ。

 「もっと見つめ合って」

 「もう一度噴水の前を歩いてみて」

 カメラマンの指示通りに、初々しいカップルたちが動く。ドレープのきいた白いドレスは緑の芝生によく生え、花が咲いたように可憐に公園を彩っていた。

拡大するブライダル市場 

家族や友人も一緒に撮影を楽しむ

 上海の婚姻届け出数は多い年で年間12万件。新婚カップルが婚礼にかける費用は平均およそ12万元と言われる。ブライダル市場は中国全体で2500億元規模、向こう5年間で現在の2倍にも拡大するという急成長産業だ。

 特に、進取の気象に富む上海では、昔ながらの飲んで食べて終わりの披露宴で満足するカップルはほとんどいない。一度しかない披露宴を華やかに、個性的にしたいと、婚礼プロデュース会社に委託をする。

 シャンペンタワーやスモーク、キャンドルサービスは珍しくはないし、欧米風のガーデンパーティースタイルの披露宴にも参加したことがある。

カメラマンの指示を受けながら撮影を進める

 来賓の挨拶だけでなく、両親へ花束を贈る、友人が歌を歌う・寸劇をする、抽選をするといったイベント性を高めようとする披露宴もあるようだから、そのうち二人が出会うまでを編集したビデオクリップなどが登場する日も近いのかも知れない。

 中国では、日本のような宗教色の強い挙式はなく、結婚式と言えば披露宴が主となる。クリスチャンの友人以外で挙式をするカップルはなかったが、最近は人前結婚式を披露宴の前に執り行う人たちも出てきた。日系の結婚式場には、教会をイメージした挙式場もあり、人気を呼んでいるようだ。

 中国では1960年代までは婚姻の手続きをした後に記念写真を撮って、喜糖(アメ)を知人や同僚に配るだけで、70年代に入って自宅で親戚や知人を呼んで酒宴を催す習慣が生まれ、それがさらにレストランでの宴会へと変わっていったと聞く。そして現在、日本の結婚式が派手婚から地味婚へと移行していったのとは対照的に、ますます華やかになる傾向だ。

「はい、もっと見つめ合って」。カメラマンから声がかかる

 派手婚が増えるなかで、結婚式司会業という職業も生まれ、かつてはなかった婚礼プロデュース会社も増え、乱立状態にもなっている。

 披露宴が華美になる一方で、プロデュース会社の段取りの悪さで一時間披露宴が中断、一生に一度の晴れ舞台を台無しにされたと訴えていた夫婦が勝訴する事件もあった。判決は、プロデュース費用の全額償還と慰謝料の支払いを命じるというもの。

 決め手となったのは、皮肉なことに会社が手配し撮影していたビデオテープだった。これもまた、結婚をめぐる新しい風景である。

 

 
 

  すどうみか 復旦大学新聞学院修士課程修了。フリーランスライター。近著に、上海で働くさまざまな年代、職業の日本人十八人を描いた『上海で働く』(めこん刊)がある。  
     


  本社:中国北京西城区車公荘大街3号
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