今回は、日本ではあまり知られていないのですが、重要な緑茶を紹介します。
★蒙頂茶
蒙頂茶(蒙頂石花・蒙頂甘露等)は、四川省雅安市名山県蒙頂山で産出されています。年間の平均気温は摂氏15・4度、降水量は1501ミリ。湿度も高く霧も多いので、緑茶の生産に適しているのです。
蒙頂茶は唐代から献上の品とされ、清代まで毎年朝廷に献上されていました。お茶の歴史の中で、このように歴代続けて献上されたのは蒙頂茶だけです。
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蒙山甘露の名前の由来となった甘露泉
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前漢末期に甘露寺の普慧禅師(呉理真)が、蒙山の主峰に茶の木八本を植えました。「高く成長しないし、枯れることもない」と言われ、これを盗もうとしても白虎が護り、今日まで伝えられたとされていて、後世に仙茶と呼ばれたのです。
こうして蒙山における製茶の歴史が始まったという伝説があります。この伝説では、前漢末に蜀の国に寺があったことになっているのですが、当時仏教は蜀に伝わっていないので、茶を植えた指導者がいたということを、後世の人が伝説として語り伝えたのであろうと思われます。
蒙山茶は古くから茶の名品と讃えられ、唐代からたくさんの賞賛詩文がありました。例えば、白居易(楽天)は「琴裏知聞するは唯萢水、茶中故旧なるは是蒙山」(琴の世界で知られるものは萢水の曲だけであり、お茶の中では、古くから蒙山茶が有名である)と詠じ、明代の進士陳降も「揚子江心の水、蒙山頂上の茶」(水は揚子江の水、茶は蒙山茶が良い)という民謡を引用して蒙山茶を讃えました。
唐の元和8年(813)、李吉甫が書いた『元和郡県図志』に「厳道県の蒙山は県の南十里にあり、(中略)献上茶の内で蜀の茶は最高である」という記述もあります。
毎年の清明節の前に、名山の県令が吉日を選んで沐浴礼拝し、正装で山に登り、山上のお寺の住職にお経を読んでもらってから茶園を開き、「皇茶園」で茶葉360枚を摘んで加工します。出来上がった茶葉を二つの銀の瓶に保存して都に送ると、皇帝はこの貴重なお茶で先祖を祀るのです。
蒙頂茶は、清明前後に一芯一葉を摘んで、三回炒って、三回揉み、形を整えて乾燥するという工程が必要です。
蒙頂茶はしっかりとして毫が多く、芽と葉は均一で浅い緑色です。茶湯は黄緑で透き通っており、香りは高く甘味があります。蒙山茶は見た目の美しさだけでなく、色、香り、味の統一がとれた素晴らしいお茶なのです。
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