特集 開かれる巨大マーケット WTO加盟四年目の中国出版事情

勃興する民営書店

 民営書店業は、1982年に正式に図書の流通分野に登場して以来、二十数年、さまざまな苦難をくぐり抜けてきた。そしてあるものは、小さな書店から大きな書店になり、小売りから取次ぎになり、個人の経営から全国的なネットワークを打ちたて、流通・販売から出版にまで足を踏み入れた。民営書店業はすでに、中国の出版業界の中で軽視できない存在になった。


国営書店と五分にわたり合う

中国最大の民営チェーン書店と言われる席殊書屋は、「好書クラブ」の会員が本を買うと割引になるので、会員は急速に増えている

 中国の民営書店業というと、人はみな「席殊書屋」を思い浮かべる。1990年代に起業ブームが起こったが、その中で席殊書屋の経営者になった席殊さんは、伝奇的人物と言わざるを得ない。

 彼は名もない学校を卒業したあと、ある中学校の教師に配属された。しかしその職場では世界が狭すぎると感じた席さんは、趣味で始めた硬筆の書法の研究に打ち込み、自分なりの体系をつくり上げた。

 「字を練習するなら席殊をさがせ」と言われるほど、1993年から94年にかけて、席殊習字体系は全国を風靡し、中国の習字の一大革命と評価された。

 席さんは、ずっと本が好きだった。事業が少し成功した後、彼は迷うことなく資金を図書産業に投下した。1995年、「席殊書屋」が正式に設立された。そして1997年、席さんは、フランチャイズ・チェーン計画を実行に移し、年末までに全国に百店以上のチェーン店を展開した。2001年末までに、チェーン店は三百店を突破、新華書店を除き中国最大の図書のチェーン店になり、席さんは「中国民営書店業界の第一人者」と言われるようになった。

 現在、「席殊書屋」は全国に623のチェーン店を展開し、「好書クラブ」の会員は50万人、年間売上高は2億8000万元に達する巨大な組織になっている。

 たゆまぬ改革の進展に連れて、席殊書屋のような規模の大きい民営書店業が次々に出現した。ある統計によると、経営規模が一億元以上の民営書店業は全国に二十数店あり、民営書店のチェーン店は7万店以上が参加している。この数は新華書店の5倍以上に達している。

 直売店とチェーン店のほか、会員制やインターネット販売、ダイレクト・メールなど各種の便利な販売モデルが次々に登場している。「当当網上(ネット)書店」は、すでに20万種以上の図書を読者に提供した。登録会員数は300万人を超え、年間売上高は8000万元を超す。

 中国で発行された図書の年間売上げは700億元を超えるが、民営書店業の売上げはその半分以上を占め、主な書籍の供給ルートを国営とほぼ半々に分け合っている。

 民営書店業が日増しに成長したことは、図書市場に活力を注入したばかりでなく、出版業の更なる改革を促した。2003年9月、中国は初めて、民営企業に対し、出版物の国内の第一次卸販売と取次ぎ権を開放した。2004年4月には、山東世紀天鴻書業有限公司が出版物の一次卸販売と全国チェーン経営の権利を獲得した。これで民営企業は初めて、新華書店と完全に平等な政策面での条件と、競争する権利を得たのである。

 2005年初めの北京第18回ブックフェアでは、民営書店業が初めて正式に、国有出版業の発注会の主会場に参入し、新華書店や全国の各大手の出版社と同じ舞台に立って活躍し、スポットライトを浴びた。

光明書架の総経理、厳平博士は2004年のフランクフルト国際ブックフェアに招かれて参加した(厳平さん提供)

 こうした政策の開放は、民営資本が流通分野に参入できる大きな空間を提供した。統計によると、現在、図書の取次ぎ権をもつ民営企業はすでに六千社近くあり、十四社が図書の一次卸販売権を持っている。教材を除くと、民営書店の扱う書籍の定価の総額と新華書店のそれとは、互角の形勢である。

 しかし、規模が比較的大きい民営の書店業はやはり数えるほどしかない。多くは小さな店で、家族ぐるみで経営・管理している。資金や管理能力などの面で劣っているので、強大な外資と対抗することはまったくできない。

 管理・運営能力を向上させ、信用性を高めるため、今年1月、「山西音楽天地」「上海天地」など19の民営書店が「全国民営社会科学文芸図書発行(販売)連合体」を設立した。これはおそらく、民営書店業が外資という強敵に共同して対抗するうえで参考になる一つのモデルとなるだろう。

本づくりに乗り出す「工作室」

 この数年来、全国各地で毎年開かれる図書の発注会で、いつでもこんな人たちが活躍している。彼らは、会場の各コーナーをのぞいて回り、情報を交換し、仕事の話をする。彼らはよく「書坊」だの「書架」だの「文化公司」だのといった名前で登場する。これこそが、今、出版業界で活躍が目覚しい各種の「工作室」と呼ばれる編集プロダクションなのだ。

 北京人人地平線文化発展有限公司がつくった光明書架は、かなり名を知られた「工作室」の一つである。総経理の厳平さんは、フランクフルトで開催されたブックフェアから帰ったばかりだ。

 厳さんは北京大学で哲学を学んだ博士である。人民出版社の編集者だったが、1999年、事業を始めようと一念発起して、人も羨む「鉄飯碗」(失業の心配がない)の職場を辞め、北京人人地平線文化発展有限公司を創業した。

 しかし、独自に図書を出版することは、制度上許されなかった。そこで彼は、鋭敏な嗅覚を働かせて、市場が何を求めているかを嗅ぎ取り、テーマを選び、企画を立てる分野で、出版社と合作した。近年、彼がつくった光明書架は、多くのベストセラーを企画した。例えば洪晃の『非正常生活』や李敖の娘の李文が書いた『我和李敖一起罵(私と李敖はいっしょに罵る)』などで、光明書架はかなり名の知られた存在となった。

中国の発展につれて、中国人の知識欲はますます旺盛になっている

 彼はまた、版権を大量に買い入れて、『西学基本経典』や『世界文明史』などの大型翻訳書を企画・出版した。2004年10月にフランクフルトで挙行された国際ブックフェアで、彼の公司は、無料でフェアに招待されて参加した最初の中国の民営書店となった。

 現在の民営書店業は、すでに図書の小売りという一つの段階に留まらず、取次ぎ、チェーン経営、テーマ選定と企画、装丁・デザイン、コンサルティングなどのすべての段階にかかわっている。また、柔軟な資金運用と市場の需要に敏感な経営・販売方式で、市場の厳しい競争の中から急速に成長している。

 完全な統計ではないが、全国の民営「工作室」はすでに2000に達しているという。その中の多くは、テーマ選びや企画、市場での経営・販売能力では、伝統的な出版社を大いにしのぐものさえある。現在、全国の図書市場でのベストセラーの40%は、民営「工作室」が企画したものだ。例えば『誰動了我的ナイ酪』(邦訳『チーズはどこに消えた?』)や『窮パーパ 富パーパ』(邦訳『金持ち父さん 貧乏父さん』)などだ。

 こうした中から、少なからぬ優秀な民営の企画の「工作室」が頭角を現し、例えば北京読書人文化公司や知己図書公司、北京人人地平線文化発展有限公司などは、すでに書店業界では過小評価できない勢力に成長している。

 


  本社:中国北京西城区車公荘大街3号
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