東京支局長 林崇珍

 



     世界の大学が中国進出を進めるなか、東京大学の北京事務所が先ごろ、市内東部に開設されました。同大学としては中国の大学・研究機関との交流促進や「産学官」連携の推進に、大きな期待をよせているそうです。少子化問題に直面し、優秀な留学生を確保する狙いもあるのでしょう、中国に事務所を開いた日本の大学は、これにより京大、早大など13校に上るそうです。

 一方、中国教育部のデータによると2003年、日本における中国人留学生(就学生、台湾地域を除く)は約7万4000人に達し、日本は米国を抜いて初めて中国人の最大の留学先となりました。しかし、大学院生の割合を見れば、米国への中国人留学生が8割以上現地で進学しているのに対して、日本の場合はわずかに2割あまり。つまり、中国の学生がなお米国留学を意識しているのも、事実だといえるでしょう。

 外国人留学生や日本語を勉強する外国の学生との交流を進める「国際交流研究所」の所長・大森和夫さん(65歳)は、日本の留学生受け入れ態勢に疑問を持ったことが、活動のきっかけになったといいます。1998年秋、教育担当の新聞記者として留学生問題を取材していたころ、外国人留学生の悩みをじかに聞いて歩きました。新聞配達などいくつものアルバイトを掛け持ちしていた中国人留学生の胡東旭さんは「経済的に苦しいのは我慢します。でも、日本のことをたくさん知って理解したいのに、それができないのが残念です」と打ち明けてくれました。また「日本のことをよく知らない。日本が嫌いになって、帰国する留学生も多い」「バイトが忙しくて、勉強する時間がない」などの苦労話も、他の外国人留学生から聞いたそうです。

 
 
中国・天津の南開大学の学生から送られた感謝状の前に立つ大森和夫さん

 胡さんとの出会いから4カ月後、大森さんは会社を定年前に辞め、退職金をはたいて活動を始めました。弘子夫人とともに、日本語の学習情報季刊誌『日本』を創刊。毎号4万部を留学生の多い日本国内やアジアの大学などへ無料配布しました(経費の問題で8年後の97年に廃刊)。また、2004年まで12回にわたり「中国の大学生、院生『日本語作文コンクール』」を実施しました。いまでも『日本』を再編集したテキストを作り、中国の大学に贈呈するなど意欲的に活動している大森さんは「真の心の交流とは、その国の言葉や文化の違いを認めあうこと。夫婦の小さな力ですが、日本を理解してくれる人が一人でも増えれば、この国の国際交流に貢献できる」と語っています。

 中日関係がギクシャクしている最近、日本では「留日反日」という言葉が話題になっているようです。日本に留学すれば反日になるという意味ですが、留学生が「留日愛日」となるにはどうしたらいいか。留学生も日本について深く理解する必要があるし、日本人や日本政府も、留学生に対して誤った先入観を持たずに「互いの違いを認めあう」広い心が求められているのではないか。そんなことを大森さんの地道な活動から、ふと考えさせられました。(東京支局長 林崇珍)

 

 
 

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