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福州路の老舗・杏花楼の月餅の人気は根強い |
中秋節は中国の伝統行事のなかでも、楽しみにしている行事のひとつだ。辛党の私には月餅はどうも甘過ぎて、お相伴にあずかるのはほんの少しだけれど、秋の訪れを感じたくて毎年必ず味わう。
最初に口にした時はなんて甘いものを中国人は好むのだろうと思ったけれど、考えてみれば、あの大きい月餅をひとりで食べようとするから閉口するのだ。月餅とは元来、離れ離れになっている家族がこの日に集い、人数分に切って何分の一かを頂くもの。このくらいの甘さでちょうどよい。
中秋の夜を 大家族と
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中秋節前になると、本の街・福州路は老舗の月餅を手に入れようとする人々の長蛇の列ができて、賑やかになる |
「この人は、僕のお母さんのお兄さんの子供で、こっちは、僕の双子のお兄さんの娘でしょ。それから…」
親しくなった上海の友人に誘われて、初めて中秋節の夕食の席に出かけた日のこと。指定されたレストランに行くと、10人がけの丸テーブル3卓分の人がいた。
友人が次々に「家族」を紹介してくれるのだが、誰が誰なんだか、頭の中の家系図はこんがらがるばかり。中国人の言うところの「家族」の範囲って広いのだ、としみじみ思った。大家族に囲まれて頂く食事の美味しさをかみしめたのも、この時だ。それから毎年、出張や急用でもない限り、この家族の集まりに出かけていく。
中秋節は私にとって、名誉挽回のチャンスでもある。お世話になっているのに、ふだんはついつい目の前のことに追われて不義理ばかりをしている恩師や、何かと気にかけてくれる友人家族へお礼を込めて月餅を贈る。どんなに忙しくとも、春節の挨拶と並んで、中秋節の月餅だけは忘れない、とココロに決めているのだ。
去年は○○ブランドだったから、今年はどこのものにしようか。感謝の気持ちを伝えるためと言いながら、実は月餅選びをするのは私の楽しみにもなっている。
贈る相手に 想いを馳せて
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赤い提灯が中秋の夜に映える |
8月に入ると、月餅商戦がスタートする。デパート、スーパー、ホテル…。出かける先々で月餅売り場をのぞいて、物色する。
お年を召した方にはやはり老舗の杏花楼の広東風がいいけれど、サクサクとしたパイ生地の食感がいい蘇州式も捨てがたい。小さな子供がいる家庭なら、ディズニーなどのキャラクター月餅がいい。アイスクリーム月餅やコーヒー月餅は一度は贈ってもいいけれど、毎年となると飽きもくる。ならば、最近流行りの餡の入ったお餅を冷やして食べる和菓子っぽい氷皮タイプにしてみようか。
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中秋節を伝統的な中国服を身につけて迎えようというイベントも開かれる(桂林公園にて) |
というわけで、ああでもないこうでもないと、贈る相手を想いながら考える時間が楽しいのだ。
アイスクリーム店やコーヒーショップ、パン屋などの異業種が参入したことで、月餅の世界も変わりつつある。
贈答品としてエスカレートしつつある昨今は、セットものも増えている。ワイン、高級ブランデーから、果ては住宅や純金がセットとなったものまでが登場し、数十万元するものもあった。賄賂に利用されているなどという指摘もあって今年、政府は抱き合わせ販売を禁止する通達を出した。
こんな過剰な現象もあるが、個人的に歓迎している「変化」は月餅引換券だ。以前は重い現物を頂戴したものだが、最近は引換券をさらりと贈られることが多くなった。
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子供向けにキャラクター月餅も |
欲しければ引き換えに行けばいいし、食べきれないと思えば財布の中に忍ばせておいて、気がついた時に友人たちに簡単に贈ることができる。なかには、ちゃっかりダフ屋に売りつけて小遣い稼ぎをする人たちもいる。味気ないという向きもあるだろうけれど、無駄にしなくて済むのがいい。
日本にいた頃は季節の行事などほとんど無視した生活だったのに、中国に暮らすようになって伝統行事を大切にしたいと思うようになった自分がいる。不思議なものだ。
さて、今年はどんな月餅を贈ろうかしら。
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