深遠な国茶の世界H
棚橋篁峰
 
 
         紅の衣をまとう幻の茶
     青茶(烏竜茶)A

 

武夷岩茶

絶壁にわずかに残る「大紅袍」の茶樹(写真中央部)

 武夷岩茶は、福建省武夷山市でとれる青茶(烏竜茶)の総称です。多くの山が巨大な岩で出来ており、各々の岩に生えている茶樹からとれる葉は、独特の香りがあり、その味と香りは「岩韻」と言われ、中国茶の中でも高い評価を得ています。

 武夷岩茶の母樹の数は、1943年の調査で800種類以上、現在では千種類以上もあります。中でも大紅袍、白鶏冠、水金亀、鉄羅漢は四大名茶と言われ、特に有名なものです。

大紅袍

 春に芽の色が紫紅色になるので、遠くから見ると茶樹がまるで紅の衣のように見えることからこの名が付いた大紅袍は、中国茶の中でも最高を意味する「茶中状元」といわれています。

 大紅袍は武夷山の東北部天心岩の九竜カという岩場に生えています。山間には渓流があり、雲霧が充満していて、土壌はすべて酸性岩石が風化したものです。

 現在、九竜カの絶壁にわずか5株(上に3株、下に2株。ただし下の2株は新しいもの)が残っています。(1960年に母樹として上の3本が保存されました)

 1941年に大紅袍を調査した林馥泉氏によれば、当時大紅袍は、非常に弱っていたようです。彼は、現在の大紅袍は「奇丹」という茶樹だとも言っています。伝説に彩られた名茶は、霧の中に見え隠れするから値打ちがあるのかもしれません。

 大紅袍の優れた品質に関しては、たくさんの伝説が流布されているので、その一部を紹介しましょう。

 伝説その一 大紅袍は人間が登ることの出来ない絶壁の上に野生しているため、毎年お茶の季節に僧侶が果物を餌にして、猿に摘みに行かせる。

 伝説その二 お茶の木は10丈の高さで、葉は手のひらの大きさである。絶壁に生えているため、風が吹くたびに、僧侶は落ちた葉でお茶を製造した。

 伝説その三 大紅袍は山の神に所有されているので、摘むときは、僧侶がお線香を立て、礼拝してお経をあげる。

 伝説その四 清朝の役人が大紅袍を飲んで病気が治ったので、お礼に赤いマントを掛けたことから大紅袍と呼ばれるようになった。

【ワンポイント・メモ】

大紅袍は、伝説を中心として有名になりすぎたため、質の悪いものが出回っているようです。必ずご自身で試飲して、納得してから手に入れるようにしましょう。品質によって上下がありますから、名前につられないようにしてください。

棚橋篁峰 中国茶文化国際検定協会会長日中友好漢詩協会理事長、中国西北大学名誉教授。漢詩の創作、普及、日中交流に精力的な活動を続ける。

 

 

 

 
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