特集2
上海万博が目指す「城市讓生活更美好」 |
張春侠=文 劉世昭=写真 |
万国博覧会は、5年後に、上海にやって来る。 さあ引っ越しだ!
上海の市内をS字状に曲がって流れる黄浦江の南岸、市内から南浦大橋を渡り、幹線道路から黄浦江の方向へ一歩入ると、そこにはくねくねと曲がった街路沿いに、自転車の修理屋や雑貨屋などがずらりと並んでいる。近代的な高層ビルが錐のように建ち並ぶ上海市内とは、別世界がそこには広がっている。 雑貨を載せて走る三輪車、時々聞こえてくる物売りの呼び声……田舎の小さな町に来たような感覚にとらわれる。十数分間前までいたあの繁栄する上海とは大きな違いだ。ここは上海・浦東新区の「上鋼新村街道南村」という町である。 計画では、この一帯は上海万博の会場の一部になる。ここに住んでいる人々は、全員、引っ越さなければならない。引っ越し先は、現在、建設中の「浦江・万博家園」で、ここから車で20分ほど離れたところにある。
車がやっと一台だけ通れる小さな横町には、「みんなで引っ越そう」というスローガンや布告などが、あちこちにいっぱいに貼ってある。家財道具をあふれるほど積んだトラックが、次から次にやって来る。狭い路地はごったがえしている。 住民の話題の中心は、万博によって取り壊される住宅と、これから引っ越す新しい家についてである。 「家は少し古くなったけれど、これまでの人生の大半を過して来た家だから、引っ越すとなると、そりゃー、やっぱり別れるのが辛い。でも、きれいな新しい家に引っ越せるかと思うと、心の底から嬉しいよ」。80歳の曹広栄さんは、ちょっと興奮した面持ちで、こう心境を語った。 山東省出身の曹さんが、黄浦江の辺りのこの町に来たのは、1949年。いまは3世代5人家族が同居している。住宅事情が悪いので、わずか40平方メートルの一つ屋根の下に、曹さん夫婦と娘夫婦、孫が暮らして、もう15年になる。
この辺りの住宅は、どの家もトイレがなく、みな上海伝統の「馬桶」という蓋のついたオマルを使っている。だから夏になると、悪臭がぷんぷんする。さらに風呂に入るのも不便だ。洗面器を持ち、十数分も歩いて、近くの工場へ行って身体を洗わなければならない。 曹さん一家はみな普通の工場労働者で、収入は低く、自分の力で新しい家を買う能力はまったくない。しかし、万博の開催予定地に組み入れられたので、曹さんの一家は、政府が計画して建設している「三林・万博家園」から、二戸の住宅を割り当てられた。 総面積は120平方メートル以上ある。新しい住宅には、トイレなど各種の設備が完備している。新居を買うのに国家からの各種の補助金が出る。曹さんたちは4000元(約5万6000円)余りを払えばよい。 「現在は、新居が出来上がるまで、他のところに引っ越してしばらく待っています。『万博家園』が完成し次第、新居に引っ越すことができます」と曹さんは顔を輝かせた。 54歳の徐金栄さんは、「万博家園」に対する期待がもっと切実だ。徐さんの兄弟4人とその家族計13人は、ずっと約80平方メートルの住宅に、すし詰め状態で住んできた。当然、生活はたいへん不便だ。そのうえ徐さんは、レイオフされ、再就職した労働者で、月給は数百元しかない。他の兄弟3人の収入も非常に低い。 引っ越したあと、四人の兄弟の家庭にそれぞれ84平方メートルの住宅が与えられ、それぞれの家庭が別々に住むことができるようになる。「万博による移転がなかったら、私の一家3人が80平方メートル以上の住宅に引っ越せるなんて、夢にも考えられなかった」と、徐さんは喜びを隠し切れないでいる。 上海万博の開催予定地には曹さんや徐さんのように引っ越さなければならない家庭が、1万7000戸以上ある。移住する人口は5万人以上だ。しかし、すべての住民がみな引っ越したいと思っているわけではない。「住み慣れた土地を離れたくない」「市の中心部から遠くなる」「勤めに行くのに不便だ」など、さまざまな理由で引っ越しに不満をもつ住民もいる。だからこうした人々をどう説得し、円満に移住させるかは、上海万博の事務当局にとって最も重要な課題となっている。 建設中の「万博家園」
車で盧浦大橋から南へ行くと、視界がしだいに広くなる。道路の両脇の樹木はだんだん多くなり、空気がすがすがしくなってくる。騒がしく、込み合った市の中心部とはまったく違い、爽快な気分になってくる。 万博予定地から引っ越す人々を収容する「浦江・万博家園」の工事現場は、ここにある。すでに基礎工事は基本的に終わり、いくつかの高層住宅がすでにその姿を現し始めている。 全体の建築模型を見ると、青少年活動センターやレクリエーションセンター、幼稚園、小学校や万博テーマ公園などがすべてそろっていて、近代的なコミュニティーを形成している。 上海万博の「浦江・万博家園」の建設を指揮している高月竜・副総指揮は「浦江・万博家園の建築全体は、現代イタリア風を採用しました。建設面積は120万平方メートル、人口は2万5000人、緑化率は40パーセントを超えるよう計画されています。住民の実生活の必要を考えて、コミュニティーは、すべてきちんとした小型の住宅設計を採用しました。多くは50、70、90平方メートルの小型住宅です」と言っている。 万博予定地から引っ越す住民をどこに落ち着かせるか、この問題を解決するために上海は、2004年11月から、「三林」「浦江」の2つの「万博家園」を建設し始めた。敷地総面積は284万2000平方メートル。「浦江・万博家園」の第一陣の住宅は、2005年末まで完成し、引き渡される。「三林・万博家園」も、2006年に全面的に完成するという。 広大な緑地に囲まれる
「上海は、ロンドンのハイドパークやニューヨークのセントラルパークのような緑の環境が欠けています。そこで上海万博を機に、大きな改造を完成させたいのです。そのため、万博会場で60ヘクタールの緑地を造り、緑を市民に戻すことを実現します。それは上海万博会場の中で、もっとも注目される場所になるでしょう」――上海万博事務協調局の周漢民副局長はこう述べた。 2010年の上海万博会場を、浦江の両岸のウォーターフロントに決めたのは、工業汚染がかなりひどいこの区域に対して全面的に改造計画を実行し、汚染がひどい一部の企業を上海市の中心から移転させたいためである。そのため、万博会場の50%が、緑化や環境の施設として使われる。 愛知万博の開催期間中、上海万博事務協調局はあいついで14の実習訓練チームを日本へ派遣し、それぞれ違う角度から視察を行った。「愛知万博は私たちにとって大きな教室であり、生きた教材です。特に生態系の保護については、非常に大きな参考になりました」と周副局長は言った。 愛知万博と同じように、上海万博も生態系保護のための建設を最優先課題に据えた。万博開催時には、黄浦江の南岸のウォーターフロントに「緑の回廊」が出現する。緑地の幅がもっとも広いところは300メートル以上、もっとも狭いところでも80メートル以上ある。真中には、楔形をした緑地帯が万博会場に向かって伸びていく形になる。 さらに、新しい試みとして、外灘(バンド)のように堤防を築いて洪水を防ぐという考え方をやめ、元の自然の地形を生かし、黄浦江に沿って起伏のある緑の斜面を設計する。それによって洪水を防ぐとともに、将来、これが上海市の新たな景観にもなる。万博が終わった後は、この緑の斜面は残され、市民が散策し、水に親しむことのできる場所になる。 万博会場のメーン区域に建てられた永久的な建築群は、上海市の新たな人気のスポットになるだろう。周副局長によると、中国館やテーマ・パビリオン、一部の国のパビリオンを含む万博会場の建物は、20%が永久に残されることになっている。 万博終了後、ここは中国で最大の博物館群となり、また最大で最良の会議展覧センターとなる。と同時に、万博跡地に一部の国の文化センターや経済センターを建設し、その国の都市と友好都市関係を結ぶ。「要するにここは、交通がもっとも便利で、国際化が最も進んだ、知名度のもっとも高い区域となり、上海の新名所になるのです」と周副局長は言う。 また、一言触れておきたいのは、歴史的建物の保存の問題である。万博予定地にある272の企業の工場は引っ越さなければならないが、中国の工業の発祥地である江南造船所と上海鉄鋼公司第三工場がその中に入っている。そこで、これらの工場の主体部分が移転した後も、保護に値する歴史的な工場は、元の姿のまま、内部をきれいにして保存される。こうした工場は、中国の工業発展の歴史を実物で示す証拠となるだろう。 水上バスで行く万博
2010年、上海万博の開催期間中、来場する人数は延べ7、8000万人――これは上海万博が自ら定めた目標である。これほど多くの人の流れをいかにさばくか、それは当然、万博の計画の中でもっとも重点が置かれている。 現在、多様な近代的複合交通システムの計画がすでに立てられている。 まず、万博会場に人の流れが集中しすぎるのを防ぐため、多くの入り口を、会場から数キロ離れたところに設け、そこに停留所を作る。人々は停留所で入場券の改札を済まし、専用バスで直接、会場に向かう。このようにして環境汚染を減らすとともに、万博会場内の交通混雑を緩和することもできる。 これから数年間、上海は、持続可能な発展の重点を、地下空間の利用に置く。周副局長の話によると、万博の開催期間中、地下鉄が主要交通機関としての任務を負う。現在、上海の地下鉄の総延長は120キロだが、2010年までにそれを430キロにする。万博会場に至る少なくとも5本の地下鉄を建設し、万博に来る人の50%を運ぶ。 しかし、地下鉄の駅は黄浦江のすぐ近くにつくるのは景観上、問題がある。現在、黄浦江にもっとも近い地下鉄の駅でも、川から700メートル以上離れていて、観光客は自由に水上の風光を観賞することができない。 そのため、上海万博では、特に水上交通線路を開設し、観光客が地下鉄や陸上交通手段を利用する以外に、船に乗って万博に来ることができるようにする。水上バスの船着場には「水上ゲート」が設けられ、そこで入場券の改札や安全検査などの手続きを済ましたあと、直接、万博会場に渡ることができる。 この水上交通線は、陸家嘴、外灘、豫園、万博会場の4つのポイントを結ぶように設定され、それによって、この交通路は楽しい遊覧観光コースになる。万博の開催期間は、水上バスの時速が30キロ以上になり、1時間の旅客輸送量は6000から8000人に達する見込みだ。 万博が終わった後、水上交通線路はそのまま残され、水上運輸や観光の機能を発揮させる。そうなれば黄浦江は、「浦江遊覧」をするだけでなく、上海市民にとって欠かせない水上交通路になるだろう。 |
本社:中国北京西城区車公荘大街3号 人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。 |