特集3      発展する上海経済と日系企業      
                  横堀克己=文  劉世昭=写真
                    
 このところ、上海の発展が目覚しい。

 上海経済は1992年以来、12年連続で二ケタ成長を遂げてきた。2004年には、上海の国内総生産(GDP)は7450余億元に達した(表T)。一人当たりのGDPは、2003年に中国大陸部の省・直轄市・自治区の中で初めて5000ドルを突破し、2004年には5万5000元(約6千600ドル)になった。

 貿易も飛躍的に伸びている。2000年には輸出入総額は547億ドルだったのが、2004年には1600億ドルの大台に乗せた(表U)。

 上海の面積は、全国の0.06%を占めているに過ぎない。人口は重慶に次いで多いが、全国の約1%でしかない。その上海が、全国の財政収入の8分の1を占め、対外貿易総額の4分の1を占めている。上海はまさに、中国経済という躍進する巨大な竜の頭なのである。

日本の投資は毎月1億ドル

 上海の経済を担ってきたのは、かつては公有の工業だった。1995年でもGDPの82%を公有が生み出していた。しかし、外資の流入や民営企業の発展で、2003年には公有がGDPの64%に下がり、非公有が36%に上昇した。

 とりわけ外資の比重が増している。外資の流入は、2000年以来、増加の一途をたどり、2004年には、4334項目、総額117億ドルの新たな投資契約が結ばれた(表V)。

 これまでに上海と投資契約を結んだ国や地域は116、契約項目は3万6000件、契約高は861億ドル、すでに実行された契約は528億ドルに達する。国、地域別に見ると、累計の契約高がもっとも多いのは香港、台湾を除くと日本、米国、シンガポール、ドイツの順になっている。

 特に日本企業は、2001年から毎年10億ドルを超すペースで、上海に投資している(表V)。平均すると毎月約1億ドルずつ投資している計算になる。今年も1月から3月までに、すでに3億4000万ドルの投資があった。

 上海市対外経済貿易委員会の劉錦屏副主任によると、2000年以前は、上海に投資した外資の中では、台湾、香港を除くと米国が1位だったが、今は日本がもっとも多く、5000社以上の日本の企業が進出しているという。日系企業の特徴として劉副主任は@工業が70%を占めているA投資の領域が電子工業、軽工業、サービス業、商業など多岐にわたっているB大きなプロジェクトが多いC輸出が中心で、アジアの生産基地になっている――などを挙げた。

日系企業はなぜ来たのか

浦東にある「上海夏普」の工場

 この数年、外資が集中的に進出してきているのは、2010年に上海万博の主要な展示館が開設さる浦東新区である。

 1990年、中国政府は浦東の開発を宣言し、外資の誘致を始めた。「当時、浦東はほとんどが農地だった。ここ15年間で5億元の資金を投入して黄浦江にかかる橋や市中心と結ぶ地下鉄、道路などのインフラを建設した」と浦東新区党委員会の馬学傑・宣伝部副部長は回顧する。

 日本の大手企業の中で、最初にここに出てきたのはシャープである。中国側と合弁で「上海夏普電器有限公司」を立ち上げた。最初はエアコンからスタートした。中国は広い。北方は暖房さえあればよく、南方は冷房さえあればよい。冷暖房が使えるインバーターエアコンは、上海のような、夏は暑く、冬は寒いところでよく売れた。

 中国側は当初、「一企業一品目」を原則にしていた。しかしシャープ側は、洗濯機、冷蔵庫などの白物を手広く作りたかった。季節や需要の変動に対応できるからだった。上海市の副市長で浦東開発担当は、趙啓正氏(現在、国務院新聞弁公室主任)だった。彼の決断で、多品目の生産が可能となり、2番目の工場が造られた。

 さらに、上海周辺都市へと発展した。常熟に複写機などの事務用品、無錫に液晶、南京にAV産品などの工場がつくられ、いまや7つのシャープの合弁公司が稼働している。

 上海対外経済貿易委によると、日系企業はおおむね、シャープのように成功しているという。安い労働力、土地などの優遇策もあるが、原材料の通関の時間を短縮したり、不足がちな電力を外資系企業に優先的に供給したりするなど、外資の投資環境の改善に努めているという。

万博に寄せる期待

上海への日系企業の進出にともなって、上海で暮らす日本人も3万4000人以上になった。市内のスーパーには、日本の食品や日用品がずらりと並んでいる

 馮咏健さんは32歳。上海生まれ。10年前、大学の日本語学部を出てから試験を受けて上海シャープに入社した。仕事は通訳。シャープは大阪の企業なので、自然に大阪弁が身についた。

 今は総経理室の主任で経営管理部の部長を兼務している。結婚し、2歳になる女の子がいる。郊外に百平方メートルの住宅も買った。

 80歳になる妻の祖父母が住んでいる家が、上海万博の建設予定地にある。解放前の住宅で、40平方メートルしかない。ここが取り壊しになり、妻の祖父母は85平方メートルの代替住宅に移ることになった。住み慣れた土地を離れる寂しさもあるが、老朽住宅から近代的な住宅に移れるので喜んでいるという。

 「上海万博が開催されるまでに、浦東新区はさらに大きく変貌するでしょう。愛知万博でも、環境を悪くすると開催に反対する人がいたようですが、環境に優しい万博となり、ロボットやマンモスなどが人気を集めているとのこと。上海も万博の開催で、きっと環境が良くなるに違いありません」

 上海万博に寄せる馮さんの期待は大きい。

 

 
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