中国の経済が発展し、生活水準が高まるにつれ、個人の権利意識も高まっている。
1993年9月1日から施行の『製品品質法』と1994年1月1日施行の『消費者権益保護法』、家電製品、パソコン、携帯電話等の『商品修理交換返品責任規定』を、中国では「三包規定」と呼んでいる。さらに毎年3月15日の「消費者保護の日」などクレームを受け付けるキャンペーンが盛んに展開され、その結果、PL訴訟(製造物責任訴訟)や消費者権益紛争訴訟が多発している。
中国で日系企業のPL紛争を数多く担当した張弁護士によると、日本を含む外資系企業を訴えるマスコミが取り上げるクレームや訴訟は、毎年30〜50件ほどで、日系企業に対するものがその半分以上を占めるという。
中国では、製造物責任についてこれを規定する法律・法規は、主に『民法通則』と『製品品質法』である。『民法通則』では、製造物責任については、第122条で、特殊不法行為の一形態として規定されている。
『製品品質法』は、日本の製造物責任法と同様に、欠陥責任(欠陥を責任要件とする無過失責任)の考え方を採用しており、被害者は、損害の発生、製品の欠陥、および、欠陥と損害の因果関係の3点を立証すれば、その製品の製造者または販売者に対して、損害賠償を求めることができる。これは、ほとんどの裁判実務においても認められている。
ところが、実務においては、製造物責任を過失責任(故意又は過失を必要とする法理)ととらえ、法律適用を誤った判決もある。この点に関しては、製造物責任をめぐる訴訟のうち最も典型的なものとして多くの論文で取り上げられている、三菱自動車の逆転敗訴の製造物責任訴訟事件がある。
1996年9月13日、福建省フ田市交通局の職員、林志圻さんは、同局の日本産三菱ジープに乗り、福州に行く途中、フロントガラスが突然、爆裂したため重傷を負い、搬送先の病院で死亡した。そこで林さんの遺族は、三菱自動車を相手取り、50万元の賠償を求める訴訟を提起した。
一審の人民法院は、過失責任の原則を適用し、被告に過失があったことについての証明を遺族側に求めた。遺族側がその立証に失敗した結果、法院は、原告の立証では、林さんの死亡について三菱自動車側に過失があったことが証明されていないため必然的因果関係がないとして、遺族側の請求を棄却した。
しかし二審の人民法院は、過失責任の原則を適用し、遺族側の請求を棄却した一審判決は誤ったものと判断して、一審判決を取り消し、被告に対して原告に損害賠償として49万6000元の支払を命じる判決を下したのである。
この訴訟の主な争点は@損害発生の原因はフロントガラスの爆裂にあるのかAフロントガラスの爆裂の原因は製品の欠陥によるものか、の2点であった。
二審の人民法院は、製造物責任は、製品の欠陥により損害を被ったユーザーがメーカーの責任を追及する場合に用いられる賠償責任の法理であり、ユーザーは欠陥の存在を立証しさえすれば足り、メーカーに過失があったことまでを立証する必要がないとした。そして@についての立証は遺族側Aについての立証は三菱自動車側が、それぞれ責任を負うことを求めた。
@の問題については、遺族らが診断書や交通事故通知書等の証拠を提出し、林さんの死亡が、フロントガラスの突然の爆裂によることが証明された。
Aの立証において、三菱自動車側はフロントガラスのメーカーの鑑定結果を提出したが、鑑定した会社が、中国の民事訴訟法第72条に定めた法定の鑑定機構ではなく、また、その鑑定結果と利害関係があるとして、二審の人民法院は、その鑑定結果を採用しないとした。
また、中国国家建材局安全ガラス質量監督検査センターに提出されたフロントガラスの破片は、三菱自動車側が一方的に日本にあるメーカーの鑑定に付した後、同センターに提出したという措置で、事故車のものか否かはもはや確定できないものになったため、三菱自動車側が立証不能の責任を負うべきであると判断した。
このように、誰が立証の責任を負うかによって、結果がまったく異なってくるのである。
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