日本と同じように中国でも、離婚の原因は、性格の不一致がいちばん多い。だが、離婚が裁判にまで発展する場合は、夫や妻の浮気が原因であるケースが圧倒的だ。婚姻専門のある弁護士が取り扱った離婚事件の70%は、浮気絡みであった。
しかし、中国の『婚姻法』には「浮気」という言葉はなく、日本の法律にいう「不貞行為」という表現もない。「配偶者を有する者が他人と同居する」ことを基準にしている。だから、浮気した配偶者に損害賠償を求めるのは、その配偶者が夫婦でない他の異性と、持続的に同居している場合でなければならない。
2001年の『婚姻法』の改正で、配偶者に対する損害賠償が認められた。この結果、浮気が原因で離婚訴訟をするとき、離婚や財産分与にとどまらず、慰謝料を求めるケースが増えている。
しかしこの場合、証拠が必要だ。慰謝料を求める訴訟の勝敗を決するのは証拠の有無で、当事者は、証拠収集に必死となる。上海のある弁護士は、昨年、依頼者の夫から妻の浮気の証拠収集を依頼されたが、その任務が達成できなかったため、依頼者から損害賠償を求める訴訟を提起され、大きなショックを受けた。
また、証拠収集は、適法に行われなければならない。つまり証拠を収集する際には、他人の合法的権利を侵害してはならないのである。これを知らずに、違法な手段を使ってまで配偶者の浮気の証拠を押さえようとする人がいるが、違法に収集した証拠は、証拠能力が認められないどころか、逆に損害賠償を求められるケースもよくある。
これは、2005年8月に起こったケースである。夫の浮気の証拠を取るため、妻は人を連れて夫の浮気の現場を押さえ、夫と浮気相手の裸の写真を撮った。だが、浮気の相手は名誉権を侵害されたとして、謝罪と2万元の損害賠償を求めて訴訟を起こした。
これに対し四川省崇州市人民法院は、浮気の現場を押さえることは適法ではなく、被告行為は原告のプライバシーを侵害したとして謝罪を命じる判決を下した。もっとも、2万元の損害賠償については、認めなかった。
このように、浮気の証拠を合法的に収集するのは容易ではないため、配偶者に対する慰謝料の請求は非常に難しい。そこで、配偶者の浮気を未然に防ぎ、慰謝料の請求をし易くするためのユニークな手法として注目を浴びているのが、夫婦間で忠誠協議書を締結する方法である。
上海市閔行区人民法院は、妻が、浮気した夫に対して、忠誠協議書に基づき30万元を請求した訴訟で、妻の勝訴判決を下した。これは全国で初めて忠誠協議書の有効性を認めた判決である。
しかしこの判決をめぐり、学者や弁護士ばかりでなく、多くの裁判官も賛否両論に分かれている。賛成論は、『婚姻法』4条において「夫婦はお互いに忠実であり、尊重し合うべき」とされているため、夫婦間の相互忠実は「法定の義務」であると主張している。
これに対して否定論は、夫婦間の忠誠協議書の法的根拠である「忠実」は、「べき」(中国語は「応当」)であって「しなければならない」(中国語は「必須」)ではない。だから「忠実」は「提唱される義務」であって「法定の義務」ではないというものである。
だが、私は賛成論に組みしたい。なぜなら、中国の法令には「応当」という表現で「法定の義務」を示す条項が多いからである。
夫婦間の忠誠協議書よりもっとユニークな手法を編み出した女性もいる。重慶市の住む陳さんは、仕事が忙しいことを理由に、時々帰宅しない夫との間に、夜12時から翌朝7時まで帰宅しない場合、1時間につき「空きベッド費」100元(約1400円)を支払う約束をした。
これに基づいて、帰宅しなかった日に夫は「空きベッド費未払確認書」を発行してきたが、「空きベッド費」の累計が4000元にのぼったとき、陳さんは堪忍袋の緒が切れた。離婚と財産分与のほか、「空きベッド費」4000元の支払を求める訴訟を起したのである。
判決は陳さんの勝訴だった。
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