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ジェトロ北京センター所長 江原 規由
 
 

中国社会を守る「七人の侍」

 
   
 
江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。
 
 

  有人宇宙船「神舟6号」が宇宙飛行士2人を乗せ太空に舞いました。中国の科学技術の粋が結集された快挙といってよいでしょう。

  2007年に打上げ予定の「神舟7号」から始まるプロジェクトでは、船外活動(宇宙遊泳)が予定されています。こうした神舟プロジェクトの成果は、今日中国が抱える資源・エネルギー問題、環境問題、人口問題などといった難問解決に、大きく貢献することになると期待されています。

「科学発展観」を打ち出す

  「神舟6号」打上げの前日、中国共産党第16期中央委員会第5回全体会議(五中全会)が閉会しました。発表されたコミュニケの基調は「科学発展観」でした。

  中国は、この「科学発展観」というスローガンで、環境問題の重視、省エネの推進、農村への配慮、循環型経済、節約型社会の建設、「和諧社会」(調和のとれた社会)の実現、「小康社会」(いくらかゆとりのある社会)の実現など、中国の目指す発展方向を明確に強調しています。つまり、「科学発展観」で、4半世紀余を経た改革・開放政策上の大方針を位置付けたと言ってよいと思います。

 また、経済分野においても、この「科学発展観」により、中国式国際化と民営化を大いに世界に発信し、中国が標榜する、平和精神に基づくプレゼンスの向上をはかる「和平崛起」(平和的崛起)を実践していく方向を示したと思います。

循環と節約が課題

北京・王府井のにぎわい(写真・楊振生)

  中国経済は、現在大きな転換点を迎えています。中国経済の規模が大きくなり、民営化と国際化が急速に進展する中で、中国の問題は世界の問題となりました。

  今日ほど中国経済が世界から意識されている時代はなかったといえます。このことは、新たな成長モデルの構築が中国のみならず、世界からも必要とされているということでしょう。

  五中全会では、胡錦涛国家主席―温家宝総理の体制になってから初めての長期計画となる「第11次5カ年規画(十一・五規画)」(2006〜2010年)が発表されました。この期間中に、2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博が開催されるなど、世界の目がさらに中国に向くわけですから、この「十一・五規画」は、これまでになく世界を意識した内容になっていると思います。

  では、今回の規画はいままでとどこが異なっているのでしょうか。

  一言でいえば、「科学発展観」というスローガンの下で、「循環型経済」および「節約型社会」建設を目指していこうという点に集約できると思います。すなわち、経済はリサイクル、社会は節約、という2大課題に、科学的に対応していこう、ということです。

  高成長路線をひた走ってきた中国は、昨年は経済規模で世界第7位(GDPで世界の4%)、対外貿易額で3位、外貨準備高で2位と、世界経済におけるプレゼンスを高めてきましたが、同時に社会的矛盾(資源・エネルギーの浪費、環境の悪化、格差の拡大、腐敗、治安の悪化など)も先鋭化してきています。

  「十一・五規画」では、こうした成長に伴うマイナス要因の緩和、解消を全面的に押し出しています。資源・エネルギー問題では、コミュニケは「十一・五規画」期間中、資源の利用効率を向上させ、エネルギー消費を、2005年比20%減にし、資源節約型社会を構築し、持続可能な循環型経済を発展させることを提示しています。

  具体的な事例としては、例えば北京市で「緑色GDP」試算が始まったことが注目されます。「緑色GDP」とは、ひと言でいえば、GDPから経済発展により発生した資源や環境のコストを差し引いたプラス成長のことです。

  ビルを建てれば、その分GDPは増えますが、騒音拡大、環境悪化、資源の無駄使い、入居をめぐる腐敗などがなかったか、を問うのが、「緑色GDP」の姿勢といえます。北京市では、来年末までに試算を完了させる予定としていますが、行く行くは中国全土に拡大されることになるでしょう。

調和と豊かさを実感する社会

  中国の新たな成長モデルとは、GDP至上主義が生んだ歪みや弊害を是正し、「和諧社会」「小康社会」の実現を目指す、というものです。言い換えれば、「人間本位(中国語では「以人為本」)」の姿勢です。これは、コミュニケにおいて「十一・五規画」の最終年となる2010年までに1人当たりGDPを2000年の2倍にすると発表していることからもわかります。

  中国は経済大国になったものの、1人当りGDPでは百位(約1200ドル)と世界の後塵を拝しています。2倍増で目指すのは、貧困層の減少、教育・医療環境の改善、治安の改善、事故の減少、腐敗蔓延阻止、所得格差の是正などですが、道のりはそう緩やかではないでしょう。

  国家の目指す長期的目標の第1歩が、「十一・五規画」で明確に提示されたわけですが、すでに人民の日常生活にもその精神が反映されつつある事例を1つ紹介しましょう。

  毎年9月になると、中国では秋の伝統行事である中秋節に欠かせない「月餅」の販売合戦が始まります。「月餅」は、バレンタインデーのチョコレートと同じく、ほとんどが贈答用とされており、ここ数年、派手で豪華な包装が目立っていました。また、抱き合わせで高価商品を忍ばせたりして「賄賂」同然のケースも現われ、問題視されていました。

 そこで中国政府は、豪華な包装や抱き合わせ販売の禁止など、取り締まりを強化、今年は包装も月餅そのものもスリム化し、価格も3割程度下落したと報じられました。

7つのキーワード

  これまで、中国経済の新たな発展モデルを五中全会コミュニケから考察してきましたが、その中に出てくる「緑色GDP」「循環型経済」「節約型社会」「和諧社会」「小康社会」「科学発展観」「和平崛起」という7つのキーワードこそ、中国の経済成長を支え、中国社会を守る「7人の侍」といってよいでしょう。

  中国経済の国際化が一段と進展するなか、中国の宇宙計画が順調に進めば、中国の世界経済におけるプレゼンスがさらに向上します。「7人の侍」の中でも重要な役割を受け持っている「科学発展観」の推進によって、中国での「小康社会」の実現と、地球規模での中国の「和平崛起」をはかろうとしているのです。



 
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