大人気の肉まん
段欣宇さん(15歳)は昨年の9月、北京市第4中学校(日本の中学・高校に相当)の高等部に入学した。この学校は北京でも有数の進学校の1つで、百年の歴史がある名門校だ。段さんがこの学校に合格したことを両親はとても誇りに思っているのだと、彼女は気まり悪そうに言った。 高校に入学してから、段さんは学校に寄宿するようになった。学校の宿舎は限りがあるため、すべての生徒が寄宿できるわけではない。まずは遠い郊外に住んでいる生徒を優先させ、残りの部屋を成績の良い生徒から順に分け与えていく。段さんは成績が良いので、学校に寄宿できるというわけだ。 段さんの父親はエンジニアで、母親は教師をしている。2人とも仕事がとても忙しい。段さんが中学生の頃は、毎日学校で昼食を食べていたので、家では夜だけ食事が作られていた。「今、両親はさらに手間が省けたと思うわ。私は1日3食をすべて学校で食べているから」と段さんはニコニコしながら話す。 学校の食事について段さんは、「私たちの学校の食堂はとてもおいしいのよ。朝食は豊富で、種類も多く、毎日バラエティーに富んでいるの。特に肉まんはサイコー。みんな大好きなのよ」と満足げだ。
総務主任の白永昌先生も「第4中学校の肉まんはとても有名なんですよ。卒業生たちも学校へ戻ってきたときは、この肉まんを食べることを忘れません!」と笑いながら言う。 午前の2時限目の終了を告げるチャイムが鳴ると、生徒たちが学生食堂にちらほらとやってくる。間食を買いに来たのだ。牛乳、肉まん、卵のセットで3元(1元は約14円)。ほとんどの生徒は、肉まんを1個(0.8元)だけ買っていく。朝7時半から授業が始まるため、遠くに住んでいる生徒は朝食が食べられない。そこで、9時半のこの間食の時間は、彼らにとっていわば「給油」の時間なのだ。 食堂内には1週間の献立が掲示してある。毎日の昼食は4つのランクがあるが、価格はあまり変わらず5〜8元の間。違いは、それぞれ味が異なることだ。 食堂は小さく(20年前に建てられた)、すべての生徒を収容することはできない。そこで食事ができあがると、1年生の分は統一の容器に詰めて教室まで運ぶ。段さんは「私たちのクラスでは、毎日順番に二人のクラスメートが食堂に昼食を取りに行って、みんなで教室の中で食べるの。並ばなくて済むからとっても便利よ」と話す。
この食堂を経営している史永豊さんは、1992年から「学生栄養食」(学校給食)を作る仕事を始めた。数年の実践を経て、今では専門の勉強をした栄養スタッフが献立を作成し、それをコンピューターにインプットして、栄養食の専門のソフトでその栄養成分が国家の制定した「学生栄養食」の基準に合っているかどうかをチェックする。献立は毎週1回作成し、毎日そのメニューは異なる。それを食堂に掲示して、生徒たちに自分の好きなものを選ばせるというしくみだ。 「学生栄養食」を作る手順はとても複雑である。衛生を各段階で厳しく検査するだけでなく、各料理で使う材料の量まで厳密に量り、栄養バランスを保証する。 栄養バランスを重要視 「学生栄養食」の概念が中国人の生活の中に現れたのは、十数年前のことである。しかし、北京市第4中学校のように比較的整った「学生栄養食」を提供している学校は多くはなく、学生食堂がない小・中学校や高校もかなりある。 これまで、児童や生徒の昼食については次のような解決方法があった。@学校の近くに住み、家に祖父母がいる場合、帰宅して食べる(もっとも幸せな方法だ)。Aお弁当を持ってきて、学校で温めて食べる。B共働きの家庭の子どもは、父か母の勤め先の食堂へ行って食べる。当時はよく、こういった食堂に子どもたちの元気な姿があった。 1990年代になると、街道住民委員会や小さな食堂などが相次いで学校に通う子どもたちに昼食を提供する「小飯卓」を設け、彼らの昼食問題を解決した。 80年代後半から、中国人の生活水準は少しずつ向上し始めた。一部の専門家は、中国人の身体的素質を根本的に良くするよう、食事の構造を改善し、栄養バランスを整えるべきだと提案した。そして、小・中学生や高校生に対する「学生栄養食」の試行を始めた。二20年近い試行・普及と政府の支援の強化により、今では、「学生栄養食」は多くの都市にしだいに広がっている。
北京市教育委員会は現在、すべての小・中学校や高校では必ず「学生栄養食」を提供しなくてはならないと規定している。学生食堂がない学校は、専門の「学生栄養食」製造会社に用意してもらうという方法で、児童・生徒の昼食問題を解決しなければならない。また、「学生栄養食」製造会社の衛生基準も制定した。さらに、関連の衛生、品質条件に準じて製造会社や食料品基地を公開募集し、優れた業者を指定するよう学校側に求めている。 市街区の中心部にある北京第2実験小学校は、敷地が狭いので食堂も広くはできず、すべての児童たちに昼食を提供するのは難しい。そこで、同校の昼食は、半分を食堂で作り半分を外の業者に注文している。毎月学年ごとに順番で、「学生栄養食」製造会社の昼食を食べるのだ。 同校の食堂の責任者である陳美華先生は、子どもたちに昼食をしっかり食べさせるために、ここ数年間ですでに4回、「学生栄養食」製造会社を変えたと話す。「ある会社は学校から遠すぎました。昼食を早くに作って3時間もかけて運んでくるため、もうおいしくないのです。ある会社は主食がいつも米の飯ばかりで、麺類やマントーなど小麦粉の食品を作らなかったため、バラエティーに欠け、子どもたちが飽きてしまいました。またある会社は、機械化は進んでいたのですが、料理はおいしくなかったので、子どもたちは好みませんでした」
製造会社の側にも悩みがある。「学生栄養食」の価格は統一的に規定されているため、高くすることができないのだ。質のいい食事はコストがかかるが、今のところ政府はこの種の企業の各種費用や徴税に対して優遇政策をとっていない。 第2実験小学校と「学生栄養食」製造会社は、常に意思疎通をはかっている。料理の味、肉料理と野菜料理のバランス、そして野菜のカットの大きさや配達スタッフの個人衛生まで、陳先生は具体的な意見を製造会社に伝えている。これまでの両者の協力はまずまずだそうだ。 陳先生は、「かつては、学校の食堂のことを気にする人はこんなに多くありませんでした。今は、教師、校長、そして教育局までが注目していて、食品の安全については特に重視しています。それでも、保護者たちの注文はさらに細かくなっています。1週間のうちに3回鶏肉を出したら、ある保護者は、鶏肉を食べさせすぎると子どもの早熟を招く恐れがある、と意見を言いに学校までやって来ました」と話す。 好き嫌いと栄養の矛盾 子どもたちが学校で昼食を食べるかどうかは完全に自由だ。しかし第2実験小学校では、ほとんどの子どもが学校で食べるという。他の学校も同様らしい。 都市部の家庭は小家族化の傾向にある。夫婦と子どもという核家族の家庭では、若い親たちは仕事が忙しく、家で子どもに昼食を作ってあげるのはほとんど不可能だ。また、高齢者の生活も豊富で多彩になったため、祖父母が家にいて孫の世話に専念するということも少なくなった。しかも、学校では「学生栄養食」を提供してくれるので、子どもたちに学校で昼食を食べさせるのは、道理にかなっている。 それでは、子どもたちは「学生栄養食」が好きなのだろうか? これについて陳先生は、「今の子どもたちの多くは、飲食習慣がよくありません。あまり食べすぎてはいけないというものが彼らの好物なのです。フライドチキンのような食べ物は、食べ始めたら止まりません。毎日残る料理のほとんどが野菜で、お肉が残ることは珍しいのです」と苦笑しながら話す。 小学校では、クラス担任が子どもたちの昼食を食べる様子を見ていて、「野菜を食べなさい」とか「残してはいけません」と注意している。しかし中学生や高校生に、無理やり食べさせることは難しい。口に合わない料理を捨て、校外で自分の好きなものを買ってきて食べるわがままな生徒もいる。
現在の「学生栄養食」は、国家の統一基準で構成され、12種の栄養要素を含む。しかし「栄養のあるものはおいしくなく、おいしいものは栄養がない」という矛盾は、ずっと解決していない。これは、現在の中国人の飲食構造が不合理であることと関係がある。ここ数年、健康的な飲食、栄養バランスといった概念は少しずつ受け入れられてはいるが、魚や肉が御馳走であるという伝統的な考えは、まだ人々の意識の中に存在する。これが、子どもたちに肉が好きで野菜がきらいという好き嫌いを身につけさせ、それを直しにくくしているのだ。都市でよく見かけるまるまると太った子どもは、こんな状況から生まれている。 「学生栄養食」を普及し、子どもたちに小さい頃から健康的な衛生習慣と良い飲食習慣を身につけさせることは、国家の未来に関わる、長期的かつ巨大なプロジェクトなのだ。 |
◯250万人 ◯50社 ◯2000人 ◯「学生栄養食」の献立例 [中学校] 主食:ご飯、砂糖入り蒸しパン おかず:魚のケチャップ煮、はるさめとホウレンソウの炒め物、ヨーグルト |
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