お年寄りが自慢の小鳥を入れた鳥籠を提げて、公園などをぶらぶらと散歩する姿は、昔から北京の風物詩である。これを中国語では「袱鳥」という。
だが、「袱鳥」は公園など、決まった場所に行かないと見られないが、犬を散歩に連れる「袱狗」は、どこの住宅団地でも見られる。私が住んでいる団地でも、エレベーターに乗ると、ときどき犬に出会う。緑地帯でも、朝夕には犬を散歩させる人が多く、植え込みに犬を放し、飼い主たちがそれを見ながら立ち話をし、まるで犬の品評会のようだ。
いま中国では、空前のペットブームが起きている。北京市内だけでも登録されている飼い犬は50万匹もいるとされている。ブランド志向もあるらしく、60万元もの高値で売買される血統書付きの犬もいるが、一般市民は数十元から数百元の犬を飼うのが普通だ。
ペットブームは今に始まったものではない。1993年末には、北京の犬の数は19万匹に達していた。しかし、当時、ペットを取り巻く環境は厳しかった。『経済日報』のコラムニストは「食糧に余裕がなく、他人に害を及ぼす」と断固禁止を主張した。
このため、1994年春、北京市人民代表大会常務委員会は『北京市養犬厳格禁止規定』を制定した。これは@年間5000元の登録料支払うA集合住宅での飼育や大型犬の飼育は禁止するB日中の犬の散歩を禁止するなど条件付きで飼育を認める、というものであった。
5000元といえば、当時の勤労者の平均年収に相当するため、とても一般人には払えない金額であり、その結果、未登録の犬も多かった。しかし登録証がない犬は、見つかれば捕獲されてしまう。
にもかかわらず、未登録の飼い犬が増え続けた。このため、2003年には『北京市養犬厳格禁止規定』が廃止され、規制を大幅に緩和した新しい『北京市養犬管理規定』が制定され、犬の登録料は5分の1の1000元にまで引き下げられた。これを契機に、本格的なペットブームが起きた。
一方、飼い犬に咬まれて負傷する事件や飼い犬の鳴き声の被害など、集合住宅でのペットをめぐるトラブルも増えている。
寧波市民の陳さんは、自転車に乗って通勤していたところ突然、後ろから、周さん所有の犬が飛び出してきて、陳さんの自転車を追いかけ始めた。陳さんはあわてたため自転車ごと転倒し、左鎖骨を骨折するなどし、入院して治療を受けた。退院後も自宅で7カ月も休養した。
陳さんは、周さんを相手取り、3万元の損害賠償を求める訴訟を起こした。寧波市ギン州区人民法院は、周さんの犬が追いかけてきたのに驚いて陳さんが転倒し、けがをしたことに対して、飼い主である周さんは損害賠償をしなければならないとしたが、その一方で、陳さんの対応にも十分でなかったところがあるとして、被告の周さんに対して1万6000元の支払いを命じた。
『民法通則』127条は、飼育している動物が他人に損害をもたらした場合には、動物の飼い主又は管理人は、損害を賠償する民事責任を負わなければならない、と規定している。その責任は、飼い主が飼っている動物を十分注意をして保管していたことを証明しない限り、免れることはできない。
例えば、犬を散歩させるとき、鎖を付けていなかったり、鎖をつかんでいなかったりしていたことが原因で発生した犬の咬みつき事件の訴訟では、たいてい、飼い主がしかるべき注意をして保管しなかったとして損害賠償が命じられる。
私たち人間に癒しを与えてくれるペット犬は、愛犬家にとっては欠かせない存在だが、わが家の犬は世界一と可愛がるだけではダメだ。動物の飼い主には、動物の健康及び安全を保持するように努めなければならないことはもちろん、動物が他人の生命、身体や財産に害を加えたり、他人に迷惑を及ぼしたりすることのないように努めなければならない義務がある。
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