最近、日本の歌舞伎は、現代演劇の蜷川幸雄が演出を行ったり、脚本家の三谷幸喜が脚本、演出を担ったりするなど、伝統の中に新しい風を取り入れ、伝統演劇に挑戦している。
中国の伝統演劇も、変化し続ける時代の中で、いかに今の時代に受け入れられるかを模索している。そんな中で、一躍若者の注目を浴びているのが、若い役者を出演させて描いた青春ラブストーリー「青春版」崑曲だ。
青春ラブストーリー
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『1699 桃花扇』 ポスター |
5年前、ユネスコの「世界無形文化遺産」に崑曲(崑劇ともいわれている)が登録されてから、ひっそりとして古めかしかった伝統演劇は、新たに観衆の興味を呼び、各大都市で頻繁に上演されるようになった。その中で特に注目されたのが「青春版」崑曲だ。
「青春版」崑曲という名称が最初に使われたのは、2004年上海崑劇団が公演した『長生殿』で、演出家は大胆にも、2人の若手役者に主役を演じさせ、広く好評を博した。
2005年から06年、蘇州の崑劇団による『牡丹亭』、中日韓の芸術家が手を組んで作った『1699 桃花扇』(清代の劇作家、孔尚任が1699年に書いた『桃花扇』から由来する)が相次いで上演された。この2つの作品は、より「青春色」を打ち出し、若い役者を使って、青春ラブストーリーを表現した。それは、役者と同じような年代の若い観客をひきつける考えでもあった。
『牡丹亭』に出演している役者の平均年齢は、23歳。『1699 桃花扇』の主演女優の単ブンはわずか16歳で、主演男優も19歳だ。先輩の役者に比べ、若い役者は歌の技術やきめ細やかな表現など、劣る部分は多いが、その美しくはつらつとした舞台姿は、若い観客を魅了した。
この2つの劇は、舞台美術にも斬新な試みを取り入れた。『1699 桃花扇』の舞台美術はとても現代的で、舞台にもう一つの舞台を設け、夢のような幻想的効果を作り出した。また脚本も大いに削り、本来9日間の夜間興行を必要とする上演期間を1日に短縮した。
伝統演劇への挑戦
この2年、中国国内で流行している「青春版」崑曲は、伝統演劇の改革をめぐる市場原理へのアプローチを象徴しているようである。演劇のプロデューサーは、「演劇マーケット」の主力な消費者である若い観客を引きつけるために、華麗な視覚効果を追求し、大劇場での上演条件に合わせている。
劇場の売り上げを見ると、このような変革は成功している。北京大学で青春版の『牡丹亭』が上演されたとき、6日間公演のチケットは、3日を待たずに完売し、熱狂的な反響を呼んだ。しかし専門家の中には、このような変革が、歴史のある演劇の伝承に、必ずしも有利にはならないと思っている人もいる。
中国戯曲学院の傅謹特任教授はこう考えている。
「以前人々は、茶館や演芸場で、お茶を飲みながら演劇を楽しみ、とてものんびりしたものでした。演劇の緩やかな構成や、役者の細やかな演技は、こうした雰囲気の中で育まれたのです。今の観客は、照明などが工夫された劇場で演劇を楽しむため、注意力は全て舞台に向けられます。このような緊張した観賞の状態では、必ず演劇の伝統的な構成や表現方法とぶつかってしまうでしょう」
新しい観客を獲得しながら、同時に伝統演劇の本来の魅力を最大限保ち続けていくかは、現在直面している大きな問題であり、このジレンマをどう乗り越え、伝承していくかは、これからの課題である。
●崑曲は、江蘇省崑山が発祥の地とされ、600年の歴史を持ち、「百戯の祖」「百戯の師」と称されている。ゆっくりしたテンポの崑曲は、細やかで叙情的な演技として知られ、歌詞は優雅である。その後現れた京劇、越劇など地方劇は、崑曲の影響を深く受けている。
崑曲は、明代の中ごろから清代の中期に最も盛んになったが、後に京劇の出現によりしだいに衰えて行った。
●『桃花扇』 明から清代初期の激動期に、南京秦淮の名妓李香君と文人の侯方域の間に展開した悲劇のラブストーリー。作者は、「別れとめぐり合いの情を借りて、興亡の感情を描いた」作品だと述懐している。
●『牡丹亭』 宋代の官吏の娘杜麗娘と、書生の柳夢梅の愛情物語。杜麗娘は夢の中で柳夢梅に出会い恋をする。しかし現実の柳夢梅は知らない。杜麗娘は柳夢梅を思い慕う苦しさのあまり、自らの命さえ無くしてしまった。
それから3年後、柳夢梅は杜麗娘の肖像画を見て、杜麗娘に恋焦がれるようになる。杜麗娘の亡霊はそれに感応してこの世に現れ、柳夢梅と逢瀬を重ねる。
天の神は2人の偽りのない愛に感動し、杜麗娘を生き返らせ、ついに2人の恋は実を結ぶのだった。
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