中日卓球交流の50年 

福原愛ちゃん中国を熱く語る

 卓球の福原愛ちゃんは、日本ではすでに有名人だが、中国でもかなりのアイドルになっている。とくに卓球のスーパーリーグに参加し、中国各地を転戦するようになってからは、多くの中国のファンが「フーユアンアイ(福原愛の中国語読み)」と呼んで声援を送る。

 中日間のピンポン交流が始まって五十周年を記念して、日本の卓球代表団が訪中したが、自然な形で中日間の架け橋の役目を果たしている愛ちゃんも、代表団に加わって北京を訪問した。

 本誌のインタビューの申し込みに、愛ちゃんは忙しい日程を差し繰って応じた。インタビューは4月2日朝、宿泊先の北京飯店で行われた。

中国の印象がずいぶん変わった

  ――愛ちゃんが初めて中国に来たのは今から13年前。まだ4歳のときでしたね。最初は天津だったと聞きましたが、当時のことを覚えていますか。

  愛ちゃん 覚えています。お兄ちゃん(兄の秀行さん)が卓球をするのにくっついて練習したのですが、あんなにキツイ練習をしたのは初めてでした。筋肉痛で眠れなくなっちゃったのを覚えています。

 ――中国の食べ物はどうでしたか。

 愛ちゃん 初めてのときは、すごく良いホテルに泊まって、すごく良いイメージがありました。2回目、3回目のときは、あまり良いホテルではなかったので、朝、牛乳が出るんですよ。すごく甘くて、すごく濃くて、すごく美味しいんですけど、お昼になると、その牛乳に半分、水が足されるのです。夜になるとそれにまた半分の水が足されて(笑い)。それが、当時の中国の思い出です。

 ――それから長い間、中国とお付き合いしてきたわけですが、中国に対するイメージは、変わって行きましたか。

 愛ちゃん はい、変わって行きました。初めころは本当に「汚れている」と思いました。鼻をかむと真っ黒になるような状態で……。でも、今は全然、そういうこともなくて、木々は緑が増えてきたような気がします。昔は、木は生えているんですけど、葉っぱが何もついてなくて、ビニールとかが引っかかっているような状態でした。

中国の卓球は天下一品

  ――中国のコーチやチームメート、服務員の人たちなど、多くの中国人と接して、どんな感じを持っていますか。

 愛ちゃん 卓球のことに関しては、本当に天下一品です。技術的にも、卓球に対する考え方も、教え方一つをとっても、すごいなあって思います。

 ――どうすごいのですか。

 愛ちゃん 言葉からまず違うんです。日本にはないような、卓球専門用語があるんです。日本語で説明すればすごく長くなることも、中国語では一言で言い表してしまいます。例えば「グワー(刮)」という言葉。球にドライブをかけてゆるやかな弧を描くボールのことなんです。また日本語では、一つの言葉なのに、中国の卓球界ではもっと細かく分かれているという場合もあります。

 ――あなたが最初に覚えた中国語は、こうした卓球に関する言葉でしたか。

 愛ちゃん いいえ、違います。初めて覚えたのは、「電風扇(扇風機)」と「電冰箱(冷蔵庫)」でした。全然中国語が話せなかったときに、北京でカードを買ったんです。絵が描いてあって、中国語の発音が日本語で書かれているんです。一枚目が「電風扇」で、二枚目は「電冰箱」で、確か三枚目は「天安門」でした。それで中国語を覚えたんです。

 ――それで、いつごろから中国語で、チームメートと話せるようになったのですか。

 愛ちゃん 最初の中国のトレーナーさんは日本語がうまく、日本語でばかり話していました。小学校2年生のとき、大阪の小学校に転入したんですけど、そのときのトレーナーさんが、日本語は完璧だったのに、毎日、繰り返し繰り返し中国語をしゃべってくれました。そのころは、中国語を覚えたいと思ったわけではないんですけど、自然に覚えて行ったのです。半年くらいで耳から覚えて、話ができるようになったと思います。

 ――今は、言葉はほとんど不自由しないでしょう?

 愛ちゃん そーですね。だいたいは大丈夫ですけど。でもやっぱり、書いたり、読んだりするのは、しゃべるようにはできないんです。

東北訛りの中国語で大爆笑

 ――中国に来てから、一番おかしかったことは何でしょうか。

 愛ちゃん (ウフフフ)ホテルに泊まって、お風呂につかったとき、上がろうと思って、こうやって取っ手をつかんだら、取っ手ごと取れちゃったんです(笑い)。それでびっくりしました。

 ――友達といっしょに大笑いするようなことは?

 愛ちゃん いっぱいあります。だいたい笑われるのは私で、私の中国語が東北弁だからです。以前、韓国オープンに中国からいったとき、私だけみんなより遅れて行ったんです。そのとき交通事故に遭ったんです。事故といっても、乗っていた車が前の車にこつんとぶつかった程度の事故ですけど、それでみんなに合流するのが遅くなってしまったのです。みんなが「何で遅れたの」と聞くので、私は「車がぶつかったの」と答えたのですけど、悲しい話なのに、みんな大爆笑するんです。私の発音があまりにひどい東北訛りだったからでした。

 ――悲しい思い出はありますか。

  愛ちゃん 悲しいとかはないですよ。ただ、たまに中国に来るぶんには大丈夫なんですけど、ずっと中国にいるときは、中国のみんなと接する時間もすごく長くなると、寂しかったことはあります。

 ――中国の友達とは、歌手やスターの話をよくしますか。

 愛ちゃん そういう話しはよくします。私のコーチがまだ23歳で、新しい曲とかに敏感なほうなので、よくそんな話をします。この間までは光良(男性歌手)の『童話』という歌が好きでした。その人に、空港であったんです。だから余計に好きになりました。

うれしい中国の観客の応援

 ――いま、中国と日本の間で難しい問題もあるんですが、中国の観客はあなたに対してどんな反応でしょうか。

 愛ちゃん 中国の人たちはすごく卓球が好きで、見る目がすごく肥えています。どちらに対しても、ナイスボールが入ったら応援してくれますし、その一本がきっかけで、自分の味方になってくれる観客の方もいます。

 試合直前に、「サインしてください」と言われて、「試合が終わってからでいいですか」と言ったら、その試合の間は「福原愛はサインしてくれなかった」と言って、ずっと相手の応援をしているオジサンもいます。また、私が中国の選手と戦っているのに、すごく大きな声で私の応援をしてくれる若いお兄さんもいたり……。

 ――応援してくれる中国のファンはだんだん増えてきているのですか。

 愛ちゃん 昔は、観客全員が中国の選手の応援でした。私がまったく有名でなかったことも関係があるかもしれないけど、悲しいなと思うことがありました。でも、だんだん、直球(ストレート)とか、入るようになると、多分、私のことをわかってくれるようになって、それで、会場に行くと「がんばってね」と、普通に言ってくれるようになりました。

 ――スーパーリーグの遼寧チームに参加するようになってから、応援も変わりましたか。

 愛ちゃん そうですね。王楠さん(第四十八回世界選手権上海大会女子ダブルスのチャンピオン)がいることによって、普通は、アウェイはあそこまで応援されないんですけど、すべてがホームみたいな感じになります。

 ――今年から、広東チームに入りましたね。観客はどうですか。

 愛ちゃん まだ試合はやっていないので、分からないんです。チームメートは広東人は少なくて、二人しかいません。ほとんどが外からきた人です。みんな広東語でしゃべっていますが、標準語もしゃべるので、広東語の分からない私とは標準語でしゃべっています。広東語は喉の奥で発音するような感じで、上海語の方がまだ覚え易いように感じます。

試合が終わればみんな仲良し

 ――これから中国人と日本人は、仲良くやって行けるでしょうか。
 
愛ちゃん ニュースとか見てて、信じられないんです。卓球ではこうやってすごく仲良くやっているのに。試合する時は、やっぱり対戦国とか相手とかになってしまうんですけど、それが終わったらみんな仲良くやっています。私も中国に行かせてもらって、いろいろみんなとしゃべったり遊んだりとかして、喧嘩なんかすることはないんですけど、ニュースとか見ていて、本当に、こんなことあるのかなあ、という気持ちになります。

 ――好きな言葉や座右の銘はありますか。

 愛ちゃん 「一意専心」。

 ――この言葉をどうして選んだのですか。

 愛ちゃん 実はお兄ちゃんに「座右の銘」はよく聞かれるから、考えた方がいいと言われて……。それ以前は「よく寝て、よく食べ、よく笑う」だったんですけど、お兄ちゃんに、「もう高校生だから」とパソコンの前に連れて行かれて、四文字熟語を検索して「どれがいい」といわれて、それでこれにしました。

 ――あなたも中国で有名になっているから、空港などで声をかけられるでしょう。

 愛ちゃん たまにあります。いきなり「フーユアンアイ」と名前を呼ばれると反応してしまうんですよ。それでバレちゃうというか。先生に名前を呼ばれると、ドキッとするみたいに。

 ――最後に一つ。もし中国の人から学ぶとすれば、あるいはすでに学んだとすれば、それは何でしょうか。

 愛ちゃん はっきり意見を言うこと。これを学びました。

 ――貴重な時間、ありがとう。がんばってください。


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