知っておくと便利 法律あれこれQ    弁護士 鮑栄振
 
 
 
 
 
ブログブームと著作権の保護

 日本人の挨拶は天気で始まり、中国人の挨拶は食事で始まる。中国では人々が会ったとき、まず「吃飯了マ」(食事は済みましたか)という挨拶が、庶民の間でよく使われている。

 ところが、最近、若い人たちの間では、「今天博客了マ」(今日ブログをしましたか)が、「吃飯了マ」に取って代わろうとしている。
 
 「博客」とは、インターネットの「blog(ブログ)」の中国語訳で、いま中国全土で流行している。ブログとは、個人や数人のグループで運営され、日々更新される日記的なウェブサイトの総称だ。
 
 中国最大の検索サイト「百度」の統計によれば、2005年11月末までに、中国ブログサイトサービスプロバイダーは600カ所を超え、ブロガー人口は1600万人を超えた。2006年は、中国ブログの「噴出年」になると言われている。
 
 とくに「有名人ブログ」や「アイドルブログ」は、若年層を中心に爆発的な人気を集めている。その中で、女優の徐静蕾の個人ブログのヒット数は1000万に及び、「ブログの女王」と言われる。
 
 徐静蕾はテレビのインタビューで「自分のブログで、多くの人々から歓迎されるきっかけができた。ブログでの広告を通して販売利益を上げている」と答えた。「有名人ブログ」「アイドルブログ」などの個人ブログは、いまや巨大なビジネスチャンスをはらんだ新しい広告発表のプラットフォームとなっている。
 
 しかし、現在の個人ブログに載っている広告は、法律の規定がない「想定外のもの」で、トラブルが現れ始めた。今年3月27日付けの新聞『中国民航報』に「ブログは熟した 果実を摘むのは誰か?」という特別記事が載っているように、ブログの広告の収益の帰属をめぐって、大きな議論が起きている。
 
 現在、これに関連して注目を浴びているのは、中国初のブログ著作権侵害紛争訴訟事件である。
 
 上海の某ネットワーク会社に管理職として勤務している女性ブロガーの秦涛さんは、中国大手ポータルサイトの「新浪網」に個人のブログを開設し、「数風流人物還看女人」(風流人物を数えるには、なお女性を看よ)などの文章を掲載し、好評を博した。
 
 秦涛さんはこのブログの無断転載を禁止すると表明していたにもかかわらず、「新浪網」と同様の某大手ポータルサイトが、これらを無断で転載してしまった。このため秦さんは、著作権侵害に当たるとして、10万元の損害賠償を求めて、北京市海淀区人民法院に訴訟を起こした。
 
 ブログの著作権問題は、実は新しい問題ではない。インターネットは本来、開放的なもので、情報は共有されると広く認識されてきたこともあって、著作権保護意識が足りないという問題がかなり存在している。
 
 そのため、ブログの記事だけではなく、多くの掲示板やウェブサイトは、多かれ少なかれ権利者に無断で、他のメディアやウェブサイトの文章の転載を行っているのが実情だ。インターネットにおいて、転載無罪は「潜在的なルール」となっているともいえる。
 
 秦さんの訴えは、こうした「潜在的なルール」に一石を投じ、熱い議論を巻き起こしている。
 
 秦さんの行動は、ブロガーやウェブサイト経営者の著作権保護意識の強化、ウェブサイトの健全な発展につながるという評価がある一方、個人ブログの記事などの転載に報酬の支払いが必要となれば、多くのウェブサイトは潰れ、インターネットの発展を妨げるのではないかという懸念も出ている。
 
 無論、ブログの記事の無断転載がすべて、権利者の権利侵害に該当するわけではない。最高人民法院の『コンピューターネットワーク上の著作権紛争事件の審理における法律適用に係る若干の問題に関する解釈』は次のように規定している。
 
 すでに刊行物に掲載され、又はネットワーク上で公衆に送信されている著作物については、著作権者又は著作権者の委託を受けた新聞社や定期刊行物発行会社、ネットワークサービス提供者が転載や要約編集を禁じる旨を言明している場合を除き、関係規定に基づく報酬を支払い、出所を明記してネットワーク上で転載や要約編集を行うことは、権利侵害には当たらない。

 

 
 
鮑栄振
(ほう・えいしん)
 中国弁護士。毅石律師事務所北京分所所属。86年、佐々木静子法律事務所にて弁護士実務を研修、87年東京大学大学院で外国人特別研究生として会社法などを研究。
 





 
 

 
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