戦国時代に突入した自動車産業
                                        林崇珍 王浩 沈暁寧=文 馮進=写真

 中国の大都市では、世界のあらゆる自動車を見ることができると言っても過言ではない。中国が自主開発した国産車だけでなく、米国車、ドイツ車、日本車、韓国車、イタリア車、ロシア車、スウェーデン車……。大小の乗用車もあれば、バンやスポーツカー、ジープもある。さながら車のオリンピックだ。

 昨年、中国は、ドイツや日本を追い越して、米国に次ぐ世界第2の自動車市場になった。世界の有力自動車メーカーがこぞって中国市場に参入し、国有のメーカーも健闘している。まさに群雄が割拠する戦国時代に突入した感がある。
 
 世界貿易機関(WTO)に加盟したことによって中国の自動車産業は、今後、どのように発展してゆくのか。大気汚染をどう防ぎ、省エネをどう進めるのか。中国の自動車産業の現状と、その将来をレポートする。


特集1
こんな車が中国では売れる

単なる乗り物ではなくなった車

 

北京大学の校内の、車でいっぱい

  21歳の賈翠菁さんは、中国人民大学の3年生である。18歳のとき、彼女は運転免許を取った。免許は取ったが車がない人を中国では「待駕族」というが、彼女もその一員になったのである。
 
  「私のクラスでは、3分の2の人が免許証を持っています。就職の時に少し有利だからです」と賈さんは言った。賈さん自身は将来、仕事に就いたら「私の好きな標致(プジョー)206を一台買うのが第一目標です」と夢を語った。
 
  現在、車は、バスケットボールや流行の音楽、ファッションと同じように、都会の若い人たちの日常的な話題になっている。値段の関係から、若い人たちの多くは、10万元(約150万円)以下で中クラス以下の乗用車を選ぶ。中でも、色が鮮やかでかわいい形をしている、5万元足らずの国産車「奇瑞QQ」の小型乗用車が、多くの都会の若い女性に人気がある。

車を運転して商店やスーパーに行き、買い物するのは、すでにマイカー族の生活の一部となっている

  個性を強調して目立つようにと、多くの若い人たちは、自動車の部品を取り替えたり、車体にさまざまなステッカーなどを貼り付けたりして、自分の車が独特の個性を持つように飾りたてる。「熊出没注意」というステッカーを車の後部に貼り付けているのもよく見られる。
 
  就職して2年になる張君は、車と音楽の両方に目がない。蓄えが多くないので、彼は3万元でミニカーを一台買ったが、その後、同じ額のお金を使って車内に上質の音響装置を取り付けた。

  そして音楽を聴きながら、北京の華やかな夜景の中を運転するとき、「楽しさや満足感で泣きたくなるほど幸せだと感じる」と彼は言うのだ。

2年に1回開催される北京国際モーターショーは、海外の有名ブランドのメーカー多数が出品する。前回の2004年のショーでは、観客は延べ46万人に達した

  人の目を引く自動車の広告や全世界同時発売の各種の新しい車種を見る若者たちの目には、自動車は単なる乗り物や高級な玩具ではなく、生活に対する夢のように映る。
 
  しかし、若い人たちとは違い、46歳の李洪徳さんは、車を買うなどという高望みをしたことはずっとなかった。彼は国有企業の労働者で収入が高くなかったからだ。

  だが、1999年、彼は市内の寄合住宅から郊外の団地に引っ越した。住宅は良くなったが、通勤の距離は遠くなってしまった。「当時、妻は毎日、一時間以上も自転車で子どもを学校に送って行った。とくに大風の日や雨の降る日は、妻や子がひどい目に遭っているのを見ると、私は耐えられなかった。車があればよいのにと心の中で思った」と李さんは回顧する。

1995年にできた北京市の「東方時尚」自動車教習学校。ここで訓練されて合格したドライバーは10万人近い

  2001年、李さんは6万元以上を払って、一台の英格爾(ENCOKE)を買った。それ以来、妻の出勤や子の登校を車で送ることは、彼の任務となった。「車がなかったころは、年に一回出かけるのも難しかった。どこへ行くにも遠いと感じた。今は北京の郊外にある観光地はくまなく巡ったよ」と李さんは言った。
 
  将来、もっと良い車に買い換えるかどうか、李さんはこう言う。「私はブランド品を求めるつもりはありません。ただし、必ず燃費が良くて安く、環境にやさしい車でなければなりません。とくに、大きなトランクが付いていて、私たちの一家三人で旅行するとき、荷物全部が積める必要があります」

選択の基準はどこに

 中国の人々が車を買うとき、どんな見方をしているか。ごく一般的な見方を紹介しよう。
 
  【米国車】馬力は強く、車内は広い。豪華さと快適さを感じさせ、ビジネスカーに適している。
 
  【ドイツ車】ゆったりとして風格があり、落ちついていて信頼できる。公用車に適している。
 
  【フランス車】デザインは独創的で、流行を追う若者にもってこいの車。
 
  【日本車】車内空間の利用や経済性、省エネの面で明らかに優れていて、ファミリーカーに適している。

  【中国の自主開発車】価格が安く、受け入れられ易い。

車で遊びに出かけることは、都市のマイカー族の新しい楽しみになった

  自動車のディーラーたちは、こうした消費者の心理を利用して、広告の中に、いっそう人を引きつける字句を挟み込む。例えば「個性あるきめ細かな生活を追求する大衆(フォルクスワーゲン)の乗用車、宝来(ボラ)」「未来に成功をもたらす大衆のパツ薩特(パサット)乗用車」「情熱をもつ若い都会のホワイトカラーに与える通用(ジェネラル・モーターズ)の賽欧(セイル)」などである。
 
  こうした広告は、多くの消費者の目をひきつけたとはいえ、彼らが車を買うかどうか、どのような車を買うかを本当に決定するのは、やはり家庭の収入と社会環境による。

駐車場がきわめて不足しているので、社区(コミュニティー)に住む人々はたいへん不便だ

  国家統計局によると、2005年の中国人一人当たりの国内総生産(GDP)は1703ドルに達した。このため、自動車が都市の家庭の中に入ってくるのは、難しいことではなくなった。
 
  中国自動車工業協会の統計によると、2000年から2004年までに購入された車のうち、マイカーの比率は48%から77%に上昇した。昨年、中国の市場で売られた車は592万台で、世界第二の自動車消費大国となった。

  しかし、最近の石油価格の上昇で、車にかかる費用は毎月平均2000元にも達し、「車を維持するのは車を買うより難しい」と人々はみな感じるようになった。しかも、マイカーの増加によって、都市の道路は渋滞し、駐車スペースは足らなくなった。「車より歩いた方が速い」と多くの人が不満を言っている。

  同時に、自動車の排気ガスは、都市の大気汚染の重要な要因の一つともなっている。そこで、経済的で、環境にやさしく、燃費の良い車が、多くの消費者に歓迎されるようになった。
 
  2006年3月31日、中国は、省エネ・環境保護型の排気量の小さい自動車に対する各種の制限を取り消した。例えば北京ではこれまで、排気量の小さな車は、長安街や二環路などの主要な道路を走ることが許されなかった。だがこれからは、エンジン排気量が1400cc以下の車が都市の中を自由に走ることができるようになったのである。
 
  この規制の撤廃によって、環境を保護し、エネルギーの消耗を減らすと同時に、市民は、意にかなった車を選んで買えるようになった。一カ月後には、上海市の排気量の小さい車の販売は、2倍近くに増加した。

  2002年から、中国の各大手の自動車メーカーは、販売台数を増やすため、次々に値下げ戦略をとった。2002年初め、国産乗用車の紅旗は、3万元値下げして、先陣を切った。続いてドイツのフォルクスワーゲン・グループと米国のジェネラル・モーターズ・グループも、桑塔納(サンタナ)、パツ薩特(パサット)、別克(ビュック)、賽欧(セイル)などの乗用車の価格を6000元から2万元、値下げした。2003年には、乗用車の奥拓(アルト)が3万元未満の価格になり、この年の「最低価格車」となった。

  中国自動車工業協会の統計によると、2002年、中国の国産乗用車は全体で、5%から6%、価格を下げた。2003年には、国産乗用車の70車種のうち、30以上が値下げを発表し、その値下げ幅は最大8%から10%に達した。
 
  これは消費者の車の購買意欲を強く刺激した。自動車の販売台数は、2002、2003の2年連続で、毎年100万台の幅で増えつづけた。しかし値下げブームによって、多くの消費者の「買い控え」も始まった。消費者が、もっと質がよくて安い車が出てくるのを待つことで、2004年の自動車の生産・販売台数は一時、下降現象が現れた。
 
  この5年来、消費者の車に対する認識は次第に理性的になり、価格や性能、サービスの面に対する関心はますます入念になってきた。これによって車のディーラーたちは、コスト・パフォーマンスに優れた自動車のみが中国の自動車市場の一角を占めることができると認識するようになった。その意味では、消費者の成熟が中国の自動車産業の進歩を加速させたとも言える。



 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
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