先日、ある日本の大手メーカーの知的財産権保護部部長から、こんな話を聞いた。
このメーカーは最近、中国南部で、自社製品のコピー商品を発見し、調べた。だが、そのコピー商品は出来栄えがよく、一見してコピーとは判別できないものだった。そればかりではなく、そのコピー商品は完成度が高く、自社製品より優れたところもあることが判明した。
そこでそのメーカーは、コピー商品を製造している企業自体を買収しようということになったという。さすが日本一流の大手メーカーだけあって、中国企業をM&A(企業の合併・買収。中国語では「併購」という)することにより、中国進出を実現するとともに、手強いコピー商品を見事に消滅してしまおうという一石二鳥の戦略だ、と感心した。
現在、コピー商品が大変な勢いで増え、世界中に蔓延している。しかもコピー商品の製造業者の技術や手口は、昔とはまったく違って、きわめて巧妙で悪質になっている。
かつてはロゴやマークの印刷が不鮮明で、一見してニセモノと分かるような商標権侵害品が多かったのだが、最近は「デッドコピー」と言われるように、商標やデザインが精巧にコピーされ、真正品と比べて遜色のない機能を持つコピー商品も出回るようになってきた。従って、コピー対策についても「与時倶進」(時代と共に進む)が求められている。
しかし、少なからぬ日本人経済家や法律家などの専門家から、概して日本企業は偽物対策への取り組みが鈍いという指摘がよくある。この批判は、基本的には日本の中小企業にあてはまるだろうが、大手企業は最近、中国で自社製品を守るように積極的に動き出している。
2002年に、日本の有名な二輪車メーカー、ヤマハ発動機は、中国での自社のコピーバイクの駆逐に立ち上がった。その法的主張は、中国の人民法院から全面的に認められ、勝訴したが、これはコピーメーカーに対する大きな抑止効果となり、同じような被害に苦しむ日系企業各社を勇気づけるケースと評価されている。
その後、多くの日本の大手企業が、工商局や技術監督局による行政摘発(コピー商品の製造差し止めや処分)という行政的救済にとどまらず、商標権侵害訴訟を提起し、司法的救済を求める行動が相次いだ。
「コピー商品を発見したら、早めに叩くのが鉄則だ」と多くの日本大手企業が考えている。
しかし、コピー商品の駆逐への取り組みは、少しでも間違えば、とんでもない目に遭うというケースもある。それは本田技研工業(以下「ホンダ」)が逆にコピー製造業者から不正競争で訴えられた事件である。
ホンダは、自社製品の商標権侵害を行ったコピー製造業者が、行政機関の調査処理を受けたという事実を記載した原稿を報道機関に提供し、報道機関はこれを報道した。
ところが、その原稿に、ホンダの商標を模倣したオートバイ「WL125T」を「WL125T―3」と間違えて記載した部分があった。コピー製造業者はこの誤記をとらえて「WL125T―3」の名声及び営業上の信用が毀損されたと主張し、反撃に転じ、訴訟を提起した。
この作戦は一審で成功し、ホンダは20万元の損害賠償を支払うとともに、謝罪広告を掲載するようにとの判決が下された。
しかし、コピー製造業者のこうした主張は、二審では通らなかった。
2003年12月、広東省高級人民法院が下した二審判決では、ホンダの原稿は、虚偽の事実を捏造し、流布したものではなく、その記載は事実に基本的に合致し、また、自社の権利を保護するための行動であって、なにも違法な行為がなく、不正競争にあたらない、と判示した。
ホンダの主張は認められたが、少しでも誤りがあれば、コピー製造業者に逆襲の口実やチャンスを与えることもある、という教訓をこの事件は残した。だから、コピー商品対策は、慎重の上にも慎重に進めなければならないのである。
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