|
二宮麻美 銭海澎=文・写真 |
「上有天堂、下有蘇杭(天には極楽があり、地には蘇州、杭州がある)」と呼ばれる風光明媚な観光地、杭州。日本人にもよく知られる南宋の画家牧谿などを輩出した杭州は、「アニメ・漫画の都」というもう一つの顔を持つ。 浙江省と杭州市は、アニメ企業に対して優遇政策や援助を行い、国産アニメの創作を奨励している。初めてアニメーションが制作されてから、今年でちょうど80周年を迎える中国。新しい世代の心をつかむ国産アニメを作り、巨大な市場に成長することはできるのだろうか。 80年の歴史を持つ中国アニメ
中国で初めてアニメが作られたのは、今から80年前の1926年。万氏四兄弟は、上海で『大閙画室(大騒ぎのアトリエ)』を制作した。この10分あまりのアニメから15年後の41年、アジアで初めての長編アニメ『鉄扇公主』が、同じ万氏兄弟によって作られた。『西遊記』の中の「牛魔王の妹」をストーリーにした90分の『鉄扇公主』は、中国国内だけでなく、42年には日本でも公開され、当時少年だった手塚治虫も、『鉄扇公主』を見て漫画家を志したといわれている。 50年代からは、人形を使ったアニメや、中国独特の切り絵、水墨画の技法を使った「美術片」と呼ばれるアニメが作られるようになる。そして64年、万氏兄弟によって制作された『大閙天宮(孫悟空、天宮を騒がす)』は、今も中国の人々の心に残るアニメの一つだ。孫悟空を主人公にした2時間あまりに及ぶこの大作は、国内外で評価を受け、その後、10年にわたる低迷期を前に異彩を放っている。 文化大革命が終わった1977年以降は、人形を使い、新疆ウイグル族の人物を描いた『阿凡提』がよく知られている。その後、80年代になると、外国のアニメが数多く中国で放送されるようになった。 日本のアニメは、1980年『鉄腕アトム(鉄臂阿童木)』が中央テレビ局で放送されて以来、『ドラえもん(機器猫)』『一休さん(聡明的一休)』などが次々と登場した。
「子供の時に見ていた中国のアニメは、とても写実的で、水墨画や中国画風のアニメが多かったので、日本のアニメを見たときは、夢のようだと思いました。登場人物の目は大きく、色がとてもきれいで、女の子が憧れる世界がそこにありました」と言うのは、80年代に放送された、日本のアニメ『花の子ルンルン(花仙子)』を見たという30代前半の女性だ。 今でもたまに『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん(蝋筆小新)』を見るという28歳の男性は、「中国のアニメは、教育的な内容が多く含まれていて、そんなときに見た日本のアニメはとても新鮮でした」と、当時を振り返る。 国産アニメを創作するために 現在、中国には、中国伝媒大学、清華美術学院など、アニメや漫画を学べる大学が200近くある。杭州にある、1928年に国立芸術院として設立され、中国画家の潘天寿や李可染を輩出した中国美術学院(旧浙江美術学院)も、2004年12月、中国美術学院メディアアニメ・漫画学院を設立した。中国美術学院は、政府が初めて批准したアニメ・漫画教学研究基地でもある。
メディアアニメ・漫画学院が目指しているのは、単なるアニメ制作の作業員を育成するのではなく、創造性のあるプロデューサを育てることだ。そのため、絵画の基礎だけでなく、音楽や文学などの教育も重視している。 「今の子供たちは、中国の伝統文化を理解していませんし、自分の国にいかに多くの優れた文化や歴史があることも知りません。ですからこれから私たちは、アニメの基礎的な技術だけでなく、民族文化を理解した人材を育てることが必要です」と語るのは、呉小華メディアアニメ・漫画学院院長だ。 アニメを学ぶ環境が整い、06年、定員、200人に対して7000人以上の学生が受験を予定していたメディアアニメ・漫画学院にも、切実な問題がある。それは、教える教師の数が少なく、教える側の経験が不足していることだ。卒業生も教員を目指す人は少なく、学歴のない人も招いて授業を行っているという。 アニメ産業博覧会
アニメ・漫画産業のイベントとして知られる第2回国際アニメ・漫画フェスティバルが、杭州で4月28日から5月3日まで開催された。この地で同フェスティバルが行われるのは、今回で2回目。 アニメ・漫画産業博覧会の会場になった、敷地面積4万6000平方メートルの杭州国際会議展覧センターは、杭州市中心から車で20分ほどの場所にある。270の機関、団体などが参加して催されたこの博覧会は、「中国アニメの80年成果展」「中外アニメ・漫画の原画展」「国内外の影視漫画企業の成果展」などが、7つのブースに分かれ展示された。 博覧会の入場料は20元。コスプレの若い女性や、日本のアニメが大好きだという大学生が訪れ、キャラクターグッズが並べられたブースでは、手にとって選ぶ親子の姿でにぎわっていた。また国内外の漫画家によるサイン会場では、多くの子どもたちが、お気に入りの漫画家の登場を待っていた。 6日間の会期中、同博覧会を訪れた人は28万人。成約額は37億3000万元に上り、去年行われた第一回と比べて、入場者は1.33倍増え、14%の増額だった。
杭州は、改革開放以来、15年連続で二桁の成長を続け、2005年、中国社会科学院が発表した『中国城市(都市)競争力報告』では、上海、北京、広州、深ロレ、天津に続く第6位。また浙江省の一人当たりの国民総生産(GDP)は、上海、北京、天津に続く4位で、松下電器、東芝、旭化成、ドイツのシーメンスなど53の世界有力企業が投資する、経済的にとても豊かな市である。その資金力を背景に、杭州は「アニメ・漫画の都」を作り上げようと積極的だ。 杭州のアニメ企業は、1980年代から、日本や欧米のアニメ大手プロダクションの下請けをしてきた。今ではその数も60以上になり、一万人がアニメ産業に携わっている。そして全国で生産されている国産アニメの20%が、ここ杭州で制作されている。 その中で、2003年に設立した、杭州の中南集団カートン影視有限公司は、下請けをしない、オリジナルアニメだけを手がけるアニメ企業だ。 同公司は、欧米や日本の最新技術を取り入れ、23歳から25歳の150人が二交代制で制作に当っている。2005年6月には、同公司制作の『天眼』が中央テレビ局で放映され、シンガポールやタイでも放送された。また国家ラジオ映画テレビ総局から、2005年度優秀国産アニメにも選ばれた。 巨大市場を狙う国産アニメ
2005年、2500億ドルといわれる世界のアニメ・漫画産業は、欧米、日本、韓国で占められている。中国のアニメ・漫画市場は、日本が60%、欧米が29%で、香港、台湾を含めた国産のアニメ・漫画は、わずか11%に過ぎない。 中国は、今後5年から10年の間に、アニメ・漫画産業がGDPの1%を占めるように計画している。そして、将来、少なくとも千億元を稼ぎ出す、巨大産業に拡大させる方針だ。 また国家広播電影電視総局は、国産アニメを保護する政策として、2004年、アニメ専門のチャンネルは、国産アニメの放送が6割を下回ってはいけないと定めている。 文化産業を育成するのは、資金と時間が必要だ。そういう意味で杭州は、強い経済力と、蓄積された文化、下請けで培ってきた技術で、アニメ・漫画の創作地としての条件は整っている。 |
本社:中国北京西城区車公荘大街3号 人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。 |