◆あらすじ
童話を友とする車椅子の少女ドドが足の手術を受ける時、麻酔で眠っている間に見た夢の中で魔女が言う。「幸せとは黒い羊と白い羊を手に入れること」。手術は成功し、美しい足を得たドドは際限なく靴を買い始める。仕事は飛び出す絵本の出版社の会計だが、会計以外にもさまざまな雑用を一手に引き受けている。
ある日、虫歯に苦しむドドにイラストレーターが歯科医院を紹介。治療中にドドのミュールが脱げてハンサムな歯科医スマイリーの頭に命中したのがきっかけで二人はデートを重ね、30回のデートの後、結婚、お菓子の家のような可愛らしい家に住み始めるが、お伽噺と違って話はそこで終わらない。靴が家に収まりきらないと、夫のスマイリーはこれ以上靴を買うのをやめるように言うが、ついつい靴屋のショーウィンドーに気を取られ、マンホールに落ちて両足を失う羽目になる。最愛の足を失い、自分の殻に閉じこもるドドのもとにマッチ売りの少女の姿をした天使が現れる。
◆解説
アンディ・ラウがアジアの若手監督支援のために発足させた「FFC:アジア新星流」の第1作。去年の東京国際映画祭に来日した監督のロビン・リーは女優出身ですか?
との質問が出るほどの美しい女性で、ショッキング・ピンクのシャツとミニスカートに赤いハイヒールというチャーミングなファッションで、「長年記録係や助監督を務めてきたけれど、暗くて汚い台湾映画が嫌で嫌で、美術衣裳担当の王逸飛といつか自分たちで映画を作る時は、とびきりキュートな映画を作ろうねと約束していたの」と言う。
その約束どおり、出来上がった作品はたくさんの童話をモティーフにした、でも、とても辛口な大人のメルヘン。お伽噺ではいつも王子様とお姫様は結婚して幸せに暮らしましたで終わるけれど、完璧で安定した結婚生活はないのだという指摘、働く女性の会社での立場や、ささやかな物質的享楽に慰めを求める日々などなど、年齢を問わず全女性の共感をよぶエピソードが満載だ。
次回作は不潔な男性を好きになってしまった潔癖症の女性がDNAを変える薬を飲んで、彼の汚さが気にならなくなるものの、果たしてそれは本当の幸せなのかというお話とのこと。さすがは生物学専攻のフェミニストらしいストーリーで次回作が待ち遠しい。
◆見どころ
ドド役のビビアン・スーと夫役のダンカン・チョウがぴったりのはまり役で、甘いコーティングに包まれた苦いお菓子のようなお話を見事に演じてみせる。この二人なら王子様とお姫様のような出会いも空々しくない。それにしても映画の宣伝のために来日したビビアンの愛らしいこと。とても今年御年31歳とは思えない若々しさで、この作品で演技開眼したと言う彼女の女優としての新しい魅力にバラエティー番組での姿しか知らない日本の観客はびっくりすることだろう。
絵本のスタイルで作られたポップで楽しい映像美は、並みいる大作『カンフー・ハッスル』『セブン・ソード』などを押さえて金馬奨の最優秀美術賞を受賞。製作費が少ないがゆえの手作り感覚溢れる衣裳も美術もガーリーテイストいっぱいで、でも、安っぽくなく、何度も繰り返し見て細部を堪能したくなってしまう出来栄えだ。
水野衛子 (みずのえいこ)
中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。
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