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教育番組が生み出した スター学者のベストセラー
                                                                                       高原=文

易中天が講演中

 廈門(アモイ)大学教授易中天の新作『品三国(三国・三国人物を味わう)』は、店頭に並ぶ前から、出版社に40数万冊の注文が入っていた。現在の中国図書市場では驚くべき数字である。しかし、易中天本人に言わせれば、とりたてていうほどのことでもない。8月のベストセラーランキングでは、易中天の作品は、1、2、4、7位と4作品がノンフィクションのトップテンにランクインしている。北京図書大廈で行われた『品三国』のサイン会では、右手でサインし、左手で握手した易中天が、5時間休むことなく忙しく頑張っても、列をなして待っていた読者の需要を、完全には満足させられなかったほどの盛況ぶりだった。

 2006年、易中天はまるで映画のトップスター並に大人気だった。一体誰が易中天をこれほどのスター学者にしたのか? これについては中央テレビ局の番組「百家講壇」から話を進めるべきであろう。

 2001年7月、中央テレビ局科学教育チャンネル(CCTV10)で「百家講壇」という深夜番組が始まった。番組では各大学や有名な研究機関の学者を招き、専門講座を設け、テレビを通じて、一般の視聴者たちに専門家や学者たちの思想と知恵に触れる機会を提供している。

易中天とファンたち

 最初の頃、番組の視聴率は低迷が続いていた。ノーベル賞受賞者楊振寧、丁肇中のほか、何人かの著名な文学、芸術の大家たちが相次いで番組に出たものの、どうにも視聴者に受け入れてもらえなかった。そこで、番組制作班は発想を切り替え、講座を知識普及の教室に変えた。思想に深さを求めず、大衆向けの面白い番組を追求した。こうして、「百家講壇」は清の歴史に詳しい専門家閻崇年の「清の十二帝の疑惑事件」、作家劉心武の「劉心武が紅楼夢の秘密を暴く」、易中天の「漢時代の風雲児」、高校教師紀連海の「清の二十四大臣を語る」などの講座をシリーズで打ち出した。その内容はすべて歴史を題材とした一般の人にもよく知られている人物と事件で、物語性を重視した。伝統的な講談のような趣もあり、毎回続きが気になる要素を残し、視聴者の大きな反響を呼んだ。同時に売り出されたDVD 、関連書籍も驚くほど売れ、これらの講座の担当者たちもさんざんに騒がれる人気スター学者となった。

 しかし、マスコミの間では疑問の声も上がっている。なぜなら彼らの語っていることは完全な正史とは限らず、視聴者の誤解を招き易く、またあまりにも真面目さに欠ける語り口の人もいるため、史学を流行化してしまう危険をはらんでいるからである。易中天は例えば、諸葛孔明が空城の計を用いる話を、諸葛孔明が城壁の上で一人でカラオケを歌い、司馬懿の兵馬が城下に迫っても、わざと城門を開いたままパーティーを行うようなものだ、と言った。このような今風の表現は、多くの年輩の専門家からは徹底的に嫌われている。

 それに対して易中天は、もしも自分の語った歴史に間違いがあると指摘されたら、すぐにでもその意見を受け入れるが、自分の語り口に異議があるといわれても、それに応えるつもりはないとの考えである。

 元来、象牙の塔でひたすら学問を研究するだけだった専門家、教授たちが、ようやく驕った気持ちを捨てて社会の人々に知恵を貸し、普通の人々の学術的問題への興味をかきたてたのは確かである。ならば、私たちは彼らの語り口に厳しすぎる要求をしなくてもよいのではないだろうか。何よりも、高まる視聴者たちの熱情を見る限り、このような講座のスタイルが今後も続いてゆくのは、間違いないはずである。



 
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