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「治水」こそ中国の最優先課題 |
今年、中国は旱害と洪水に悩まされました。特に旱害がひどく、中国内陸の大都市重慶は、50年に一度の大旱害に見舞われ、600余万人が飲み水に窮したといわれます。高い経済成長を遂げ、生活水準が向上している中国で、今日ほど広範囲に「水」が意識されている時代はないといってよいでしょう。 古来より、中国では治水は国の最重要課題でした。夏王朝の始祖とされる禹は、治水に功があったことから、舜からその地位を禅譲されています。現代も治水は、国政の大事であることには変わりはありません。 治水といえば、洪水を抑えるといった大規模な土木工事が頭に浮かびます。今日の治水は、外資参入を前提としつつ、洪水、旱害対策のほかエネルギー源(水力発電など)の開発、経済・生活用水(灌漑用水、工業用水、飲料水など)の確保、また排水・汚水処理など環境保護の視点も加わり、極めて広範囲に、かつ難しくなってきているといってよいでしょう。 成長のツケ 治水のうちで最近、最も注視されているのが環境保護の視点でしょう。今年9月、国家環境保護総局と国家統計局が発表した『中国緑色国民経済核算研究報告書』によれば、2004汚染による経済損失はGDPの3.05%(5118億元、一元は約15円)で、そのうち水質汚染による損失が55.9%(2863億元)であったとしています。「経済賑」(経済成長のツケ)が水質汚染に象徴的に現れているのです。 水質汚染は、現在の治水の必要性を能弁に物語っているわけですが、その発生源は、工場廃水や生活廃水といった生産活動や人民生活に深く根ざしています。このまま放置すれば、中国の経済成長や人民の飲み水などにも深刻な影響が出ないとも限りません。 実際、政府のデータによれば、目下、農村では、3億余人が飲料水問題を抱えているとされています。「第11次5カ年規画(2006〜2010年)」では、農村の1億6000万人の飲料水問題を解決するとしています。また、都市化が急速に進む中、十分な水資源の確保が年々難しくなってきており、都市生活や生産活動に影響が出ないかと心配されています。 外資も参入する治水ビジネス
いま中国では、21世紀に中国が目指すべき国の姿として「循環経済」や「節約型社会」の建設が提唱されています。成長路線をひた走ってきた中国は、その過程で発生した「経済賑」の清算に本腰を入れ始めたといえます。治水なくして「循環経済」や「節約型社会」の実現はないといっても過言ではないでしょう。 9月10日、北京で世界各国各地から3000人余りが参加し、「第5回水大会」が開幕されました。水の安全、水資源の持続的利用を大会のテーマとし、都市の水管理、飲料水処理、汚水処理・再生利用、水資源と流域総合管理、給排水システム管理、そして健康と環境など七分野にわたり学術討論会や各種の交流が行われています。今回の「水大会」では、中国の治水の現状と課題、そして展望が、世界へ発信されたわけですが、さらに中国での治水ビジネスの可能性も世界に提示されました。 すでにフランス、英国、ドイツなどが上海、重慶、南昌、柳州などで、工業や生活汚水処理施設の建設などで実績を上げています(注1)。外資の参入により治水関連施設の整備が進む一方、水価格の上昇(注2)がもたらされているとも言われています。国家発展・改革委員会によれば、水価格の上昇幅は、毎年10%ほどということです。 2010年までに、中国は、都市汚水処理率を70%にし、全国に汚水処理場を総額4000億元で1000カ所余り建設する予定で、治水ビジネスは年率15%程度で成長を遂げ、2020年には世界最大の都市環境保護インフラ設備市場を有するといわれます。これほどの治水事業は、国家と地方の財政では賄いきれないとされており、今後、中国における治水ビジネスは、内外資にとって大いに可能性があるわけです。 金魚の泳ぐ排水場を 総人口が13億人を超える中国では、一人当りの水資源は世界平均の4分の1に過ぎないとされ、しかも分散しています。総じて、中国は水が豊富な国ではありません。今後、持続的経済成長で生活水準が向上すれば、水への需要も増えるのが道理です。今や、水資源の確保、節水、再利用、汚水処理は治水の要であり、中国経済社会の発展のための最優先課題でもあるといってよいでしょう。 水不足の華北と西北地区での水源確保では、世紀の事業とされる「南水北調」(長江の水を北に引く)が代表的です。「南水北調」工事は全部で三線ありますが、そのうち東線と中線は2002年末に着工し、西線は2010年着工予定です。40年間に3040億元(実際は5000億ドル超とされる)を費やす大工事で、長江上流の支流の河水を黄河上流に流し、青海、甘粛、寧夏、内蒙古、陝西、山西の6省、自治区の水不足を解消することにしています。 節水については、この7月、中国を代表する国有大手である中国石化の2005年の取水量が2000年比60%余り減となり、さらに同社は「汚水は資源でもある」との精神で、工業用水再生利用率95%を達成したというニュースが大きく報道されました。 そこには同社とフランスの水処理専門企業との合弁企業の貢献があったわけですが、このフランスの汚水処理技術を使って処理した工場排水場に泳ぐ金魚の群れが紹介されています。治水に気配りする企業が増えてきています。治水に配慮しない企業は生き残れなくなることを、この報道は如実に示しているのです。 中国を代表する作家である老舎に『龍鬚溝』という有名な小説があります。この小説の題名となっている「龍鬚溝」は北京の街中の排水溝でしたが、汚水で悪臭を発したため「臭水溝」と呼ばれていました。今は埋め立てられ、ビル街となって姿をとどめていませんが、今日も「龍鬚溝」と異名をもつ小河川が中国にはあちこちにあるようです。 こうした現状に対し、今年8月開催された全国環境保護科学技術会議で「水汚染抑制・対策」科学技術特別研究指導小組が設置され、都市水汚染対策、河川流域の環境対策、飲料水の安全確保を重点に取り組む姿勢が前面に押し出されました。 このほか、環境保護法や資源節約法の改定、循環経済法の制定などが予定されているほか、第11次5カ年規画期にGDPの1.5%以上(約1兆5000億元)を水汚染、大気汚染、固形廃棄物など六つの領域に投入し、改善を図る予定です。「龍鬚溝」が小説の中だけに存在する日が来るのは、そんなに遠くないでしょう。 中国は成長路線をひた走ってきました。それは量的拡大を追い求めた成長路線であったわけですが、無理をし過ぎたところもありました。今日、「緑色GDP」(従来のGDPマイナス資源消耗コスト、マイナス環境損失コスト)が提唱され、成長の質的側面に光が当てられようとしています。治水はその要といってよいでしょう。 注1 目下、都市部における水関連ビジネスに占める外資の比率は10%以下(『中華工商時報』 9月12日)。 注2 中国の水価格には、水道工場や汚水工場の運営費のみ反映されており、その建設費や水資源の生態関連費用は含まれていないとされる。現在の水道料金は1m3が2.09元(約30円)。すべての費用を含めると、5〜6元、地域によっては10元かかるとされる(『21世紀経済報道』 9月13日)。 |
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