文化の違いを越え 中国を世界に伝えよう
                                趙啓正=文  于明新=写真

文化界の著名人200人余りがフォーラムに参加した

 中国外文局は8月31日、「多国間の文化伝播フォーラム」を北京で開催した。フォーラムには、中国国内外の文化界の著名人200人余りが参加し、それぞれの意見を述べた。

 国務院新聞弁公室の趙啓正・前主任をはじめとした文化界や経済界の要人12人は、「多国間の文化交流とソフトパワーの建設」をテーマに、グローバル化の流れにおいて、多国間の文化交流の重要性と直面している課題について討論。外国との文化交流の壁を乗り越え、中国が平和発展の道を堅持していることを国外に説明していくことを提案するとともに、多くの点で共通の認識を得た。

 2004年12月には日本のテレビ番組に出演するなど、中国の声を世界に伝えることに尽力し、文化研究も熱心に続けている趙啓正氏の主な見解をここに紹介する。(編集部)

中国文化は世界のものなので、世界に貢献し、報いなければならないとの見方を示す趙啓正氏

 経済のグローバル化の勢いが絶え間なく強まっていることにともない、世界各国の交流もますます広がっています。広範囲にわたる交流と協力の中で、文化的な要素はいっそう際立っています。文化の影響は文化交流そのものだけに現れるのではなく、政治や経済の協力、民間交流など、文化的な要素が含まれないものはありません。

 文化上の相互理解はすべての分野の相互理解の基礎をつくります。逆に、文化の違いや誤解は交流の妨げとなります。中国は言葉や歴史、文化が独特なため、ほかの国家、特に欧米諸国の文化とは多くの違いがあり、これが世界の中国理解に一定の障害と困難をきたしています。

多国間の文化の違いと障害

 中国は古い文明や伝統を持つ一方、近代的な生活や文化も豊富です。現在の一日あたりのGDP(国内総生産)は1949年10月の一カ月のGDPに相当し、改革・開放から20年余りで、貧困人口は3億人から2000万人に減少しました。

国務院新聞弁公室の蔡武主任(中央)や蔡明照副主任(右)、中国外文局の周明偉・常務副局長(左)はフォーラムに参加し、意見を述べた

 コンピューターが発明され、先進国で利用されているとき、中国人は千年前のそろばんをまだ使っていました。しかし現在では、インターネットの利用者数は一億人を超えました。

 中国は健全かつ調和のとれた発展の最中で、平和的な力となって、世界に正義かつ積極的な影響を与えています。しかし世界にはまだ、中国に対する誤解があるようです。その主な原因の一つは、中国文化と他国の文化の違いおよびそれがもたらす障害でしょう。

 よく見られる例を挙げますと、中国人は他人から贈り物を受け取るとき、「いりません、もうありますから。本当にいりません」と言いますが、西洋人は「あら、これ欲しかったんです。ずっと買いたいと思っていたんですよ!」と言います。実際のところ、中国人も西洋人も他人からの贈り物や他人に対する感情を非常に重要視していますが、文化が異なるため、表現の仕方は全く逆になるのです。これにより、相手に対して礼儀や情義を知らないと感じてしまいます。

 世界の81%の人は、宗教を信仰していると言っていますが、13億の中国人のうち、宗教を信仰しているのはたったの一億人余りです。そこで、外国の信教者は、中国人は天国を信じず、地獄を恐れない無信教者であり、孤独だと思っているかもしれません。

多国間の文化交流の推進は、世界の平和と発展、協力の必要性を促すと話す呉建民・外交学院院長兼国際展覧局主席

 しかし実際は、中国人は今生を大切にし、友情と仲間を重要視します。「吾日三省吾身(吾れ日に三たび吾が身を省みる)」の省みることの一つは、友人との交流が誠実であるかどうかです。よって、信教者と無信教者が相互に理解するためには、対話を行うことが絶対に必要なのです。文化が異なれば異なるほど、対話を多くする必要があります。

 言葉の表現の違い、教育背景の違い、考え方の違い、宗教観の違い、これらは実質上、やはり文化の違いです。文化の違いは必ず多くの障害をもたらします。例えば、言葉の障害や表現方法の障害、そして一歩進んで、交流の障害、伝播の障害、理解の障害および協力の障害です。

 文化が違うため、交流する力と習慣も異なります。私たちは交流する力が不足しているために、自分たちで多くの障害を作っています。例えば、私たちはよく外国の人々が求めているのに適した表現が不足しています。私たちの表現は中国式で、時折、自分たちの専門用語を使い、十分に説明しようとしません。

 例えば「中国特色の社会主義市場経済」という言葉。それは特殊なもので、他とは異なるものだと考える外国人もいます。これにより、中国は完全な市場経済ではないと断定してしまうのです。しかし世界各国の市場経済はすべて異なります。米国、日本、ヨーロッパとすべて異なり、ヨーロッパの中でも各国それぞれです。中国はこれらの異なる市場経済の一つに過ぎません。

 中国は最近数百年の間に立ち遅れてしまい、開放が遅れました。これに、中国語の特殊性などの要因が加わり、世界の中国に対する理解は少なく、誤解も多くあります。

文化の伝播が不足

国家宗教事務局の葉小文局長は、宗教は多国間の文化交流の中で重要な働きをするとの見方を示した

 文化の違いを越え、外国との交流を強化することは、時代の重要な課題であります。文化の違いなどが原因で、中国では文化の「輸入超過」が深刻です。

 中国は貿易が「輸出超過」であるのに比べ、文化の交流や伝播は、深刻な「輸入超過」で、「文化赤字」に陥っています。図書を例に挙げますと、数年来、中国の図書輸出入貿易は輸入が輸出の十倍で、大幅な「輸入超過」です。しかも図書の輸出相手は主にアジア諸国や中国の香港・澳門・台湾地区で、欧米諸国とは輸入が輸出の百倍にもなります。

 多くの国において、ベートーベンやモーツァルト、バッハの作品を知らない人は、音楽が分からないと見なされますが、『二泉映月』(著名な二胡の奏者・阿炳の曲)を知らなくても、普通のことだと思われています。

 韓国のファッションやテレビドラマ、音楽・ダンスは「韓流」と呼ばれ、世界に広がっていますし、日本のアニメ・漫画や音楽は、中国の若者に大変人気です。04年の調査によると、中国の若者のうち、日本のアニメ・漫画が好きなのは60%、欧米のものは29%、中国のものは11%でした。これは、中国のアニメ・漫画の魅力や伝播が足りないことを物語っています。

 外国人が持つ中国のイメージは、万里の長城やパンダでしょうが、これが中国文化のすべてだとは到底いえません。中国の風景や文化遺産、音楽、風俗を紹介する映画は優れたものがかなりあります。しかし国外への輸出はまだ不十分なのです。

 現在、中国の経済力や総合国力、国際影響力が強まるにつれ、多くの国で中国語の学習ブームが起こっています。これは、中国語の普及にかつてないチャンスをもたらしました。それでも、言葉や文化の分野での欧米諸国との交流は深刻な「輸入超過」の状況にあります。

 米国の高校では、約2万4000人が中国語を勉強していますが、フランス語を勉強する高校生は百万人以上です。中国の人口は13億で、フランスの人口は6000万余りであるのにも関わらずです。

米ゼネラルモーターズの楊雪蘭・前副総裁は、「多国間の文化交流により、中国は経済が急速に発展しているだけでなく、愛と知恵に満ちた人文主義の社会であることを、世界の人々に知らせることができる」と述べた。

 また、米国の3000余りの大学のうち、中国語課程を設けているのは800校近くです。一方、中国では、小学校や学齢前の学習クラスにさえ英語課程があります。大学ではGREやTOEFLの試験を受けないと、進取精神がないとみなされます。

 2005年3月、英紙『ガーディアン』と『タイムズ』は、同国のゴードン・ブラウン財務相の中国訪問の任務は、文化の輸出であると報道しました。『ガーディアン』の報道によると、ブラウン財務相の中国訪問初日のテーマは、教育、教育、また教育だったそうです。

 ブラウン財務相はますます多くの中国の家電や衣料などを輸入し続ける一方、何かを輸出してバランスを取るべきだと考えました。それが英語なのです。輸出項目の一つである英語教育の価値は、5年間で65億ポンドから103億ポンドに増え、英国のGDPの1%を占めています。

中国文化は世界のもの

 中国文化は人類の文明の重要な構成要素であり、世界に属するものなので、世界に貢献し、報いなければなりません。

 文化は数学の方程式ではありません。正しい解が出たらその他の解はすべて間違っているというものではなく、それぞれの文化が共存できます。文化というのは違いがあるからこそ、それぞれが咲き乱れ、世界の文化を構成しているのです。

 文化は血液でもありません。異なる血液型の間では相互に輸血できませんが、異なる文化の間では相互に学習したり、浸透したり、影響したりできます。

思想の壁を排除することは文化交流の始まりだと指摘する作家の余秋雨氏

 元英国首相のマーガレット・サッチャー女史は2002年に出版した書籍の中で、いわゆる「中国の脅威」について、中国は冷戦時代のソ連のような脅威になることはないと述べています。なぜなら、中国はまだ軍事超大国ではなく、今後もそうなる可能性が低いと考えているからです。一方で、「中国には、自分の権力を推し進めることで、われわれ欧米諸国の持つ国際的な伝染力を弱めようとする考えはないからだ。現在中国が輸出しているのは、テレビジョンで、思想や観念ではない」とも説明しています。

 歴史上、覇権の時代は3回ありました。ローマの覇権(紀元前27年〜紀元180年)、英国の覇権(19世紀)、米国の覇権(20世紀)です。この3つの覇権はいずれも、強い経済力と軍事力というハードパワーを物資的基礎にしているだけでなく、強い文化などのソフトパワーを精神的基礎にしています。

 中国が覇者となることは絶対にありません。しかし、5000年以上の文明を持つ文化の発祥地であり、輝かしい豊かな文化を有する中国が、テレビジョンだけを輸出し、それが放送する内容、つまり思想や観念を輸出しなければ、ただの「ハードウェアの加工工場」になってしまうのです。

 化石はその古さが価値となりますが、文化は化石ではありません。文化はその考古的価値だけが強調される文化財でもありません。文化は発展と伝播のなかで、持続的な生命力を得る必要があるのです。

 中国は世界の中国です。文化の違いを越えて、世界にもっとよく中国を説明し、中国を伝えることで、世界は美しい中国を感じることができ、中国も世界に大きく貢献できるのです。

【プロフィール】
 趙啓正 前国務院新聞弁公室主任、全国政治協商会議外事委員会副主任、中国人民大学新聞学院院長。


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