2年前、日本では『人民元で大儲け!』という本が爆発的に売れていた。当時、三省堂書店ビジネス部門第3位を記録したこの本の著者は、「日本人が持てる人民元資産として、不動産投資がもっともお勧めです。ずばり、狙いは中国不動産投資」と、中国の不動産投資が千載一遇のチャンスであることを力説した。
外資系不動産企業は「目覚ましい発展を続ける中国の不動産業は、全世界の不動産ディベロッパーにとって非常に魅力的である」と、中国の不動産開発分野への進出を加速している。
一方、外国の機関投資家や個人投資家も、中国不動産の売買に殺到した。つい最近まで、日本の企業から、中国の不動産に投資する際の税金や送金手続などの法律相談や調査依頼が相次いでいた。
ところが最近、中国の建設部などの中央政府七部門や地方政府が、過熱する不動産市場を抑制するための措置を実施し始めた。またここ数年、不動産融資の急増に危機感を持ち続けてきた中国人民銀行は、今年8月18日に、金利を引上げ、不動産融資の引き締め策を打ち出した。
中国の監督官庁が、不動産価格の高騰を抑制する措置にとどまらず、外資の中国不動産投資に対しても規制措置を講じたため、日系企業からは、不動産価格はこれから下がる方向に転じるのではないか、という懸念の声がよく聞かれるようになった。
不動産価格は引き続き上昇するのか下落するのかは、確実な回答を出せない問題である。
不動産価格の高騰を抑制する措置が打ち出されたのは、今に始まったことではない。昨年、すでに実施された。その結果、不動産市場は一時、鎮静化の様相を呈したものの、今年、不動産価格が大幅に急騰し、過去の記録をたびたび更新した。
また、不動産会社などは依然として、土地資源の不足などを理由に、不動産価格が引き続き上昇すると主張している。成長指向の強い一部の地方政府が不動産市場の発展にかける情熱は、依然として並々ならぬものがある。
今回の不動産価格の高騰抑制措置や金利の引上げ措置によって、不動産価格が大幅に下落することにならず、しばらくの間は引き続き上昇するのではないか、と言われている。しかし、不動産バブルの発生を防止するため、土地・租税政策などの調整(いわゆる総合的な抑止措置)が続々と打ち出されることになるだろうから、不動産価格は下落へ転じる可能性がある。だから不動産投資には、慎重の上にも慎重でなければならない、と筆者は見ている。
最近、多くの新聞に、投資家が不動産投資に慎重さを欠いたばかりに、大損をしたという記事が盛んに報道されている。
上海市民の譚さんは、投資目的で、不動産仲介会社のS社の紹介により、投資家の劉さんからマンションを96万元で購入した。そして合意当日に、手付金を含めて30万元を支払った。だが、譚さんが転売するのを可能にするため、手付金契約書と住宅売買契約書は、購入者署名欄が空白のままS社に渡された。
3日後、その物件はS社の紹介により、総額98万元で譚さんから林さんに転売された。林さんは32万元を支払い、手付金契約書と住宅売買契約書に署名した。
その後、林さんが、劉さんに物件の引渡しを求めたところ、拒否されてしまった。そこでやむを得ず林さんは、劉さんを相手取って訴訟を起した。
一審では、劉さんは「林さんという人は知らない。林さんから代金を受け取ったこともない。だから売買関係がない」と主張した。この主張が認められ、林さんは敗訴した。
そこで林さんは、今度は譚さんとS社に対して、32万元の返還を求めて訴訟を起こし、一審、二審とも勝訴した。
こうなると譚さんは理論上、劉さんに対して30万元の返還を請求する権利を有するが、それが認められるかどうか、法的リスクの負担を覚悟しなければならない。譚さんは、2万元のサヤを稼いだが、なぜ30万元も賠償しなければならないのか、納得できないでいる。
しかし、宴会の席で友人の債務担保に応じ、その友人が行方不明になったため債務返済を迫られた結果、会社が倒産し、ひどい目にあった社長もいる。契約は、いったん締結すれば、法的責任を負うことを覚悟しなければならない。契約は決して甘いものではない。
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