2006年度、上海の中学、高校の生徒は、上海教育出版社のリニューアルされた新版歴史教科書を使い始めた。中国では長い間全国統一の教科書を使っていたが、80年代末に検定制に変わり、様々な教科書が登場している。大部分の学校は人民教育出版社が編集する教科書を採用している中、上海で採用されている中学校や高校の新版教科書はこれまでもほぼ毎年改版され、何年も使われてきたが、今回に限って激しい論議を引き起こすことになった。
中国国内で広く使われている教科書と比較すると、リニューアル版歴史教科書の変化は主に2つの面に現れている。
まず一つは趣向性と物語性を重視し、オープンエンドの課題を増やし、生徒たちに自由な討論の機会を提供するスタイルにある。例えば、「漢族の人はなぜ赤い色を好むのか?」「外国人は『中国』をどのように呼んでいるか?
それにはどのような由来があるのか?」などの課題である。この変化に対しての異議は特になかった。
もう一つは、内容の改革にあり、議論の焦点もここに集中した。
現在上海の中学校の生徒は、まず2年間歴史基礎の授業を受け、さらに選択科目を1年間勉強しなくてはならない。選択科目の中国古代史、中国近現代史、世界古代史、世界近現代史では、王朝の交代や時代の変遷に従って、重大な歴史事件を紹介するのは変わらない。しかし、農民蜂起や王朝交代、土地制度、租税制度などの政治史、経済史の内容が、大幅に削減され、あまり重要ではない歴史年代、人物、場所といったものへの理解は要求されなくなっている。
それに比べ、科学技術、文化に関する内容は大幅に強化され、アメリカのスペースシャトル、日本の新幹線など目新しい内容が続々と登場した。日本の対中経済援助についても初めて歴史教科書に書き入れられた。
人々がより重視する高校では、教科書の変化はさらに大きくなっている。高校一年生前期のテキストを例にとると、「人類の早期文明」「人類の生活」「人類の文化」という3つのテーマに分けられ、もはや王朝や国家で章節に分けて論じてはいない。暴力革命、戦争、歴代帝王の施政綱領に関する内容はさらに縮小され、それに取って代わるのは、一般の人々の日常生活、風習節句、家族関係など世俗生活の紹介である。
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この教科書に反対する人々は、こうした削除や改編は歴史を消し去ってしまうことと同じであると考えている。フランス革命、ロシアの10月革命のような重大な歴史事件を知らず、ナポレオン、スターリンなどの人物の具体的な事績を知らない生徒が、歴史を勉強したなどとはいえないというのだ。またさらに、どの国の歴史教科書でも愛国主義教育は重要な位置に置かれているというのに、中国史、世界史を分けずにただ人類の文明を論じているだけのリニューアル版歴史教科書では、生徒の愛国心を育むことなどできるはずがないというのである。
一方、この教科書を支持する人々は、これまでの中学校・高校の歴史教科書では生徒たちに、実際にはそこまで必要のないたくさんの専門的な歴史知識を詰め込みすぎだったが、大雑把な常識さえあれば十分だと考えている。知識よりも大切なのは、生徒たちの歴史観なのである。そこで、リニューアル版では文明史が王朝交代史に、グローバルな世界史観が狭隘な民族史観に取って代わっている。このことは、これまでの二元対立の思考方式を転換し、生徒たちに寛容、理解を教えることによって、現在のグローバル化、多元化した現実社会により順応するために有利に働くはずである。
さらに注目すべきは、このリニューアル版が上海で試験的に用いられているのと同じ頃、全国で使われているかつては比較的保守的だった歴史教科書(人民教育出版社版)も新しい実験テキストを出したことだ。この教科書を使っている高校生は、中外政治史、中外経済史、中外文化思想史という3冊の必修テキストのほか、さらに6冊の選択テキストを個人の興味に応じて選択することができる。
リニューアル版に関する論議は現在でも続いている。いったいどのような歴史教科書がよりオープンに、時代の要求によりふさわしく、生徒たちにより良いサービスを提供できるのか、教科書の編纂者たちは探求を続けている。
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