上海市労働・社会保障局によると、同市の労働者の平均転職周期は46.4カ月で、3年10カ月に一回の割合で転職している計算になる。30歳以下に限れば、わずか17.5カ月という結果が出た。
より良い職場を求めてさまよう若者たちは、せっかく苦労して入った会社をあっさり辞める。彼らにとって、「這山望着那山高」(こちらの山からみればあちらの山が高い)、つまり「隣の芝生は青く見える」のである。
転職・退職の理由はさまざまだ。学んだことが生かせない、働き甲斐が見つからない、給与・待遇が不十分、会社の人間関係になじめない……などなど。
会社にとって重要な人材が、在籍しながら密かに就職活動をし、新しい就職先が見つかると労働契約を中途解除してまで辞職してしまうという例もある。それは会社としてはたいへん困る。
そこで、一部の会社は、その対策として、労働者が労働契約の中途解除をした場合には、違約金を会社に対して支払わなければならないということを労働契約に規定している。
しかし、こうした違約金の設定は、北京では可能だが、上海では特定のケース以外は認められていないのである。
こんな事例がある。
日本のある大手家電メーカーが北京に設立した子会社A社は、上海に販売会社B社を設立し、上海在住の張氏をB社の総経理として雇用した。A社と張氏の間には、契約期間3年の労働契約が締結された。
この契約で張氏は、中国南部におけるA社製品の販売を担当し、月給は基本給5000元プラス売上利益の5%相当の報酬とされた。また、当事者のいずれかが契約を中途解除する場合には、他方の当事者に対し20万元を違約金として支払うことが定められた。
その後、売上げが伸び悩み、張氏はA社に辞職願を提出したところ、A社から違約金20万元の支払いを要求された。
張氏は、自分が上海住民で、勤務地及び賃金支給地とも上海であることから、自分とA社の労働契約には上海の労働関係法令を適用すべきだと主張した。
中国では、1995年1月1日から施行された『労働法』には、違約金について明確な規定がなく、紛争が発生した時には、雇用者の所在地の労働法令の関係規定が適用されることになっている。
各地方の労働契約に関する法令は、基本的には同じであるものの、相違も意外と少なくない。『北京市労働契約規定』と『上海市労働契約条例』との相違は代表的なもので、各地方の労働契約に関する法令も、北京流と上海流の二種類に分けることができる。
北京では、従業員による労働契約の中途解約について違約金を設定することは可能だ。しかし上海では、秘密保持義務に違反した場合や会社が労働者に出資招聘、研修、住宅提供等の特別待遇を与えた場合に課される拘束期間(中国語では「服務期間」という)に違反した場合の2つのケースに限定されている。それ以外の事由による違約金の設定は認められていない。
違約金額についても、北京と上海の規定とでは違う。北京では、最高でも本人の労働契約解除前の12カ月の賃金総額を超えてはならないとされているのに対して、上海では、約定された違約金額が異常に高い場合は、当事者が適当な減額を求めることができるという原則的な規定に留めている。
さて張氏とA社との紛争はどうなったか。
仲裁委員会は、雇用者であるA社の所在する北京の関係法令を適用すべきであり、北京の労働契約条例により、労働契約の違約金設定に関する条項は有効であるとして、A社の請求を全面的に認める仲裁判断を下した。
この仲裁裁定から得られる教訓は何か。それは「隣の芝生がどんなに青く見えても、転職するとき違約金の支払いを要求されるおそれがあることをよく考えてから行動すべきだ」ということだ。「失ってはじめてその価値に気づく」ということもあるので、熟慮しなければならない。
一方、会社側も、違約金が適用されるケースに当たるかどうか、常に留意する必要があろう。
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