先日、あるクライアントからこんな相談があった。
彼は、最近完成したマンションに入居し、十数年の預金を頭金にして住宅ローンを借り、それを返済しているが、マンションを売った不動産会社から突然、「近くの空き地に高圧線の施設が建設されることになった」との通知を受けた。契約時にはこんな話はなく、寝耳に水の話だった。
「外国の専門家の話だと、発電所や高圧線など強力な電気が通う施設からは低周波が出て、それによって白血病にかかるというじゃないですか」と彼は心配になった。
そこで不動産会社に文句を言ったら、「うちの会社も最近になって初めて知ったばかりだ」と言う。しかも「国が建設する施設だし、それが原因で健康を害することはないと中国の関係機関や専門家は言っている」と相手にしてくれない。「いったいどうすればいいのでしょう」と彼は嘆いた。
場所や値段を考えて不動産を選んで契約するのはなかなか難しいことだが、その不動産売買契約を解約するのは、遥かに難しい。このクライアントのように、いろいろ工夫してやっと良い物件を発見し、一生に一度の投資をしたが、間もなくその物件に重大な欠陥が存在することを知って、悔しい思いをしている人はかなり多い。
筆者の住んでいる住宅団地でも、こんな紛争があった。不動産会社が、団地内の緑地や電力施設などについて、隣の住宅団地と共有すると約束していたことを隠していたのである。
数年前のある日、猛暑に加え電力不足による度重なる停電に耐えられなくなった隣の住宅団地の住民数十人が、筆者の住む住宅団地に押しかけ、電力を自分の住宅団地に回すよう、無理やり電力施設の接続変更を行った。そこでこちらの住民も、それを阻止しようとして、双方は激しく衝突し、合わせて数百人以上が参加する大喧嘩となった。
2003年には、有名な民間の外国語教育機関である新東方学校が、不動産会社を訴える事件があった。
新東方学校は、不動産会社から8億元でビジネスビルを購入したが、その際、不動産会社は口頭で、ビルの前の空き地に古代建築風の建物を建てると約束していた。ところが、不動産会社は約束に反してここに8棟の巨大な冷却塔を建ててしまった。このため新東方学校は、契約違反だとして、ビジネスビル購入契約の解約を求める訴訟を起こしたのである。
これを機に、どのような場合に不動産売買契約の解約を認めるべきかをめぐる論争が、激しく展開された。
こうした紛争が多発する現状を踏まえて、最高人民法院は、2003年に『分譲住宅売買契約紛争の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈』を公布し、買主の解約請求が認められる事由などを規定した。それによると、解約が認められるのは、次のような場合である。
@売主に不動産の二重売却、抵当権設定予告義務の不履行、移転撤去者用住宅である場合の通知義務の不履行、無免許販売の行為のいずれかがある場合
A住宅本体構造の品質が不合格であるとき
B住宅の品質問題により正常な居住使用に著しい影響を及ぼすとき
C実測の面積と契約で約定した面積との誤差が3%を超えるとき
D不動産会社が期限内に物件を引き渡さなかったとき
E不動産会社が建設計画、設計を変更し建物の構造、型式などに影響を及ぼしたとき
F不動産会社が期限どおりに不動産権利書の取得手続を行わなかったとき
G売主又は銀行の側の原因により、住宅ローンを取得することができないとき
新東方学校の紛争のケースでは、以上の法定事由のいずれにも該当しないことから、学校側の解約請求が認められるのは難しいと考えられる。
不動産売買契約の締結に際しては、これらの法定事由を明確かつ詳細に規定する必要がある。また、無断でなされた敷地の建設計画の重大な変更や政府主管部門の許可を経ない重大な変更などについても、これらを解約事由として契約の中に入れておくのが望ましい。
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