この数年、中国書籍市場におけるベストセラーは、国内作品のほか、『ハリーポッター』シリーズや、『ダ・ヴィンチ・コード』『The
Kite Runner』などイギリス、アメリカなど欧米諸国のものが、連続数週間にわたってランキングのトップの成績を誇っている。しかしすぐ隣の日本の書籍は長い間目立って輝かしいヒットはなかった。しかし2006年に入ると、こうした状況に変化が見られ、いくつかの話題作をきっかけに、中国の読者は日本の読み物にも深い興味を持つようになってきた。
中国の一般の読者の日本文学に対する理解は、非常に限られたものに留まっている。三島由紀夫、谷崎潤一郎ら著名作家の名作も、ほとんどは専門家たちの間でのみ、もてはやされていると言っていい。一般の人が日本文学といってイメージするのは、さまざまな推理小説と、この数年大人気の村上春樹がせいぜいというところだ。書店の日本文学の棚では、村上春樹の作品が総数の半分を占め、それに推理小説を加えたものが八割近くとなり、その他の作家の作品の影響力はごく限定されたものでしかないことがわかる。
ところが、2006年末になって注目を集めたのが、川上弘美の長編小説『センセイの鞄』である。
2001年に日本国内でセンセーションを巻き起こした「忘年恋(年老いたことも、年の差も気にしない忘年の恋愛)」を描いたこの作品は、とりたてて宣伝などをしていないにもかかわらず、中国でもかなりの売り上げを記録している。穏やかであっさりした文章スタイル、ディテールの描写の驚くほどの細やかさに、東洋的美感があふれている。このようなスタイルは、欧米のベストセラー小説に馴染んだ中国の読者には非常に新鮮で、久しぶりに親しみを感じるものだったようである。
このほか、江國香織、柳美里、片山恭一らの作品も相次いで発売され、いずれも評判は上々だ。
『ひとりぐらしも5年め』 『センセイの鞄』のほかにもう一つ、最近の日本発の話題作に、たかぎなおこのコミック『ひとりぐらしも5年め』がある。ストーリーは、著者のたかぎなおこが、故郷を離れて東京で一人暮らしをしていたときに起こった、楽しかったこと、悲しかったこと、びっくりしたことなどのささやかな出来事を、軽快に、ユーモラスに記録したもの。近年、中国でも同じように、夢を抱いて故郷を離れ、大都市で奮闘している多くの若者がいる。この本に記されているさまざまなストーリーは、彼らの身の上にも起こったことである。そのため人々の圧倒的な共感を呼び、好まれたのであろう。
この本は刊行後、数週間にわたって書籍ランキングのベストテンに名を連ねていた。たかぎなおこの他の二作品『150cmライフ。』と『上京はしたけれど。』も、同様にヒットした。これまでも、日本の漫画は中国で非常に人気があったが、読者はほぼ小中学生に限定されていた。現在では、漫画を読んで大きくなった若者たちが社会人となり、『ひとりぐらしも5年め』のような日本のコミックも、中国の社会人向け書籍市場でも次第に認可されつつある。
日本社会や文化を紹介する読み物は、長い間中国の読者に好まれてきた。たとえば『菊と刀』(ルース・ベネディクト)、『日本論』(戴季陶)などである。中でも『菊と刀』は、これまでに数種の版が刊行され、現在でも学術書籍ベストセラーリストの上位にランキングされている。しかしこれらの書籍の多くは日本人以外によって書かれたもので、多くは研究者の評論であり、普通の日本人の生活習慣や興味深いニュースなどを紹介する書籍はあまり見られなかった。茂呂美耶の『物語日本』『江戸日本』などの一連の作品は、こうした欠陥を補ってくれたものだといえるだろう。
茂呂美耶は台湾に生まれ、中学生のときに日本に帰国、かつて中国の鄭州大学に留学した経験がある。彼女の作品は日本の庶民の生活に注目し、古代の美食、まねき猫、民謡、怪談など普通の中国人が強く興味をひかれるような話題を語る親近感のある内容だ。中国の読者はあらたに別の側面から、リアルな、生き生きとした日本の世俗生活を理解することができるのである。
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