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江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。
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2003年以来、中国は4年連続して10%前後の高成長を遂げました(注1)。1980年代、90年代の前半にも中国は高成長を経験していますが、いずれもインフレや過剰在庫が発生したり、不良債権が累積したりするなど、経済は過熱化しました。
今回は物価が安定しているなど、深刻な事態にはまだ立ち入っていません。06年1月〜11月の消費者物価指数は1.3ポインとでした。高成長を持続しながらインフレの発生など成長の代償が顕在化していないのは、1978年の改革・開放以来初めてのことです。07年の成長率は10%前後と見込まれています。
ただ、06年には大幅な貿易黒字(1775億ドル)を背景に人民元高が進んだことや、WTO加盟5年を迎え今後一段の市場開放が進むことなどから、中国経済の先行きには不確実な状況もあります(本誌06年10月号本欄参照)。
外資系企業にとっては、中国市場の開放が進む一方、企業所得税の減免税措置など優遇措置が見直されたり人件費が高騰したりと、ビジネス環境が大きく変わる可能性が出てきています。
まず、06年の主な経済ニュース(注2)を見てみましょう(※印は07年の展望)。
一、「国民経済社会発展第11次5カ年規画(2006〜2010年)」採択(06年5月号本欄参照)
※5カ年の平均成長率を8.5%と設定。
二、天津浜海新区の全面推進(06年10月号参照)
※深セン特区、上海浦東新区につぐ第三の経済成長拠点として、また環渤海経済圏の極として、天津浜海新区が中国経済の「北の時代」を牽引すると期待されている。
三、青蔵鉄道開通(06年11月号参照)
※次の世紀のプロジェクトは北京―上海間高速鉄道(新幹線)。今年建設着手、2010年に基本的完成と発表(全国鉄道工作会議1月10日)。
四、中国・アフリカ協力フォーラム開催(07年1月号本欄参照)
※遠交近攻でなく、東南アジア諸国連合(ASEAN)など、東アジアなどとの自由貿易・経済連携協定が一段と進展し、中国経済の国際化に拍車がかかると期待される。
五、株式市場の活況
六、不動産市場の整頓
上記以外にも特筆すべきニュースはありますが、いずれもこの六大ニュースに関連しているといえるでしょう。このうち最初の4つは国家的事業といえますが、後の2つには人民や企業の「喜怒哀楽」が色濃く反映されています。
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中国工商銀行が上場したときの様子 |
06年の株式市場は未曽有の活況を呈しました。例えば、上海証券取引所の初会日である1月4日の総合指数は1100ポイント台でしたが、年末の取引最終日には中国株式市場始まって以来の最高値、2600ポイント台を記録、2倍以上の驚異的な上昇でした(注3)。
こうした株式市場の活況には、06年1月1日実施の『新証券法』など関連法制度の整備、株式の全流通化など株式制度改革の進捗や人民元高などが背景にあります。
また、純資産5000億元あまりの各種基金やQFII(有資格海外機関投資家)(注4)などによる株式投資が活発化していることも株式ブームを支えています。ある調査結果(『中国証券報』07年1月4日)によると、株式投資者の70%に利益が出ているとしています。機関投資家や個人の株式投資は今後も増える情勢にあるといえるでしょう。
中国銀行(7月5日、A株市場)や中国工商銀行(10月26日、A+H株)(注5)などの大型企業の上場が相次ぐなど、株式市場の規模拡大が大きく進んだのも06年でした。上海、深セン両株式市場の市価総額は10兆元余とされています。株式市況の活況で個人の蓄財の選択肢(注6)や企業の直接金融の機会が増えるなど、中国経済に新しい局面――株式市場は投機でなく投資(蓄財)の場が出現したということになります。今後は、QFIIなどを使った海外からの株式投資も身近になってくるでしょう。
しかしながら、ホットマネーも含む過剰流動性――例えば、1兆ドル(約8兆元)の外貨準備をはじめとし、少なくとも30兆元が株式市場や不動産市場の異常高を支えているといわれており、その5分の1が新たに株式市場に投入された場合、上海株式市場の総合指数は7000〜8000ポイントまで上昇しかねないと、株価のバブル化を懸念する声もあります。投資者にとっては、一攫千金の夢もあるが、すべてを失う現実もあるということでしょう。
不動産市場も06年の中国経済を大いに騒がせました。
例えばマイホーム。価格が大いに上昇しています。北京では06年11月の単月で10.3%の上昇でした。マイホームは現代の「三種の神器」の一つで、人民にとって高価ではあっても手の届く買い物になりましたが、このままだと「高嶺の花」ともなりかねない雲行きです。値上がりを見越して新築マンションに買い手が殺到する、青田買いで建築着工前から売り切れという状況も珍しくありません。
こうした「値上がりする前に買う」という心理が高値を呼んでしまうという悪循環に一矢報いたのが、深センのある個人がインターネット上で提唱し全国的に共感を得た「住宅不買運動」でしょう。
高い買い物をして一生返済に追われるくらいなら買わないほうがよい。「不当房奴」(住宅の奴隷になるな)といっています。この運動で住宅を買わない人が増えたかは定かではありませんが、値上がりで買えない人が増えてきていることだけは確かです。「住宅不買運動」の本音は適正価格で住宅を購入したいということでしょう。
国も座視していません。5月に国務院通知「6条」と「15条」、6月に「165条」で不動産業界の健全化への措置を矢継ぎ早に発表。税、価格、ローン利率、土地、経済住宅の建設、安価な賃貸住宅の建設、禁止事項・奨励・優遇策などによって、行き過ぎた不動産ブームを沈静化し、かつ不動産開発・取引に係わる腐敗にメスを入れようとしています。
例えば、新規開発では70%以上を90平方メートル住宅とすることとし(「165条」)、乱開発や人民の手の届かない豪華マンションの建設を牽制しています。また、住宅が投機の格好の対象とされたのも06年でした。注目すべきは、外資による住宅購入を制限したことでしょう。住宅(の値上がり)目当てに流入するホットマネーの封じ込め策でもあるわけですが、外国籍の人は一年以上中国内に住居しないと商品住宅(面積制限あり)は買えなくなりました。
株式と住宅の両市場でバブル化が懸念されていますが、両市場の発展が持続的経済成長や社会保障の充実に果たす役割は少なくありません。かつて、日本も不動産バブルや株価の急上昇を経験し、その後経済が停滞しました。当時の日本と今の中国には、経済に似通った部分が多いようです。「日本の轍は踏むな」と中国社会科学院のイエローペーパーは警告しています。反面教師ながら、日本が中国経済の先行きに役立つ時が到来したようです。
注1 国家発展・改革委員会によると、2006年のGDPは20兆元突破(10.5%成長)。
注2 北京の16メディアの編集長および著名な経済学者の選定した2006年中国10大経済ニュース(1月10日付『中国経済時報』に掲載)をベースに筆者が作成。
注3 深セン株式市場の総合指数は同じく2800ポイント台から6600ポイント台へ2倍強増。
注4 02年12月から海外の保険会社、証券会社、信託投資会社などがQFIIの資格を得て中国の株式市場に投資することが可能になった。06年末時点の投資枠は90余億ドル
注5 A株とは人民元建て、H株は香港ドル建て(香港株式市場)のことで、A+Hとは国内株式市場と香港株式市場に同時上場したことをいう。07年以降は中国企業の海外株式市場への上場が急増すると見られている。
注6 中国人民銀行によると、06年10月の人民元預金残高が前月比76億元減っており(月間の預金が減ったのは01年6月以来)、その原因として預金の一部が株式市場に流れたと説明している(同銀10月の金融報告)。 |
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