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王浩 馮進=文・写真 |
今年の「両会」(全国人民代表大会と政治協商会議)のキーワードの一つは、「民生」であった。
3月に開催された第10期全人代第5回会議で温家宝総理は、『政府活動報告』(以下、『報告』と略す)で「社会発展の促進と民生問題の解決に力点を置く」と述べ、注目を集めた。農民の生活や子どもの教育、医療、都市と農村の最低生活保障など、速い経済発展の中にある「少なからぬ矛盾」に、政府が正面から取り組む姿勢が示されたからである。
農民問題は当面、中国でもっとも注目されている問題のひとつである。今年の「両会」では、いかにして農民の生活を好転させるかが、全人代代表や政協委員の関心を集めた。 遼寧省鳳城市大梨樹村からきた毛豊美さんは、全人代代表に3回選ばれている。彼は上京して全人代に出席するたびに、「三農」(農業、農村、農民)問題について意見を言い、提案してきた。この数年で、彼の提案は全部で160件以上になった。どれも、農民の生活と関連がある。
中国は農業大国である。農業人口は、全人口の6割以上を占めている。改革・開放以来、中国の経済は急速に発展したが、都市と農村の「二元的な体制」の影響を受け、経済成長とともに都市と農村の格差と地域間格差が日増しに顕在化してきた。 温家宝総理は『報告』の中で「我々はまた、経済・社会の発展になお少なからぬ矛盾と問題が存在し、政府の活動にも一部欠点や不備な点があることを冷静に見て取っている」と、率直に認めた。 しかし近年、中国政府は各種の農民優遇政策をとり、農民の収入は増加した。2006年、中国政府は農業税と農業特産税を廃止した。その他、政府は食糧生産農家に対し、直接的な補助や優良品種作付け補助、農機具購入の補助など多くの補助金を増やしてきた。
内蒙古自治区赤峰市の人民代表の趙慧さんはこう述べている。
「内蒙古の農牧民は2006年、農業、教育などの面で10項目に達する補助を受けました。こうした補助は、金額こそ大きくありませんが、農民から金を徴収し、税金を取り立ててきたこれまでと違い、政府がこうした農民優遇策を打ち出したのは、まさに歴史的な変化です。農民の負担は軽くなりました」 実際、免税や補助などの政策は、農民たちに実益をもたらしている。新華社の報道によると、寧夏回族自治区の食糧生産農家の馬海福さん(58歳)は「我が家は一家6人で、42ムー(1ムーは6.667アール)の農地を耕していますが、農業税の廃止後、食糧生産に対する補助があり、1ムー当たりの純収益が年間千元以上になりました。おかげで数年前に比べ、収入は20%近く増加しました」と言っている。
マンマツァイラン君は、甘粛省甘南チベット族自治州夏河県の小学3年生である。3月6日、彼は先生の指導の下、無償で渡された新しい国語の教科書を手に持って、第一課の「凧揚げ」を朗読した。2006年に、彼の住む甘南チベット族自治州の11万人以上の義務教育段階の小中学生が、学費と雑費がすべて免除され、6656人の貧困家庭の児童・生徒が、無償で教科書を受け取った。
温家宝総理は『報告』の中で「すべての児童が学校に通え、きちんと学べるようにする、という目標は必ず実現されるであろう」と述べた。この言葉は、すべての子どもと親たちの心に響いたことだろう。 「両会」が開催されていた3月7日、北京市は、女子の大学生を対象にした特別の就職説明会を開いた。800余の求人先に対し6000人以上の女子学生が集まった。就職説明会の現場はものすごい人出で、「教育と就職の間にこんなにも矛盾があるのか」と人々をうならせた。 この問題に対し温家宝総理は『報告』の中で「教育は国の発展の礎石である」「中等職業教育の発展に重点を置き、都市・農村をカバーする職業教育と研修ネットワークの健全化をはかる」と述べた。そのうえで、教育の発展と公平を促進する二つの重要な措置をとる、と言明した。
都市の医療保険改革案はいくたびか手直しされたが、依然、表舞台には出ていない。このため、今度の「両会」では、医療衛生業界の人民代表と政協委員たちがメディアの注目の的となった。高強・衛生部長の話では、都市の医療改革案は多くの部局が参与するので遅れているが、2007年中には打ち出され、新しい案は人々の切実な利益に、より配慮したものになるだろうという。
2003年にこれが始まって以来、新しいタイプの合作医療制度が実施されている範囲はすでに1451の県に広がり、4億1000万の農民が受益している。温家宝総理は『報告』の中で「中央財政は補助金を101億元計上し、前年度より58億元増やした」と述べた。 低所得者に安い賃貸住宅を 遼寧省撫順市は、露天掘りの炭鉱で有名である。79歳になる退職した炭鉱労働者の王文章さんは、撫順市のバラック住宅区に住んで50年になる。バラック住宅は、炭鉱の一部の労働者が、炭鉱の近くに建てた臨時の建築である。 「以前は一家6人で25平米にも足らないバラックに住んでいた。冬はどこからでも風が吹き込んできて、外で大風が吹くと部屋の中は石炭の灰でいっぱいになった。雨が降れば部屋中、雨漏りで川になるほどだった」と王さんは言う。
経済の速い発展に伴って、住宅価格の値上がりもますますひどくなっている。あっという間に立ち上がる高層ビルを見上げて、住宅難に喘ぐ都市の住民はため息をつくばかりだ。このため各地の政府はこの数年、「低価格賃貸住宅制度」を打ち出した。これは、都市の低所得の人々の住宅難を解決する政策である。 2006年末までに、中国の600以上の都市のうち大多数は、「低価格賃貸住宅制度」を打ち建てた。政府は、2007年中に、全国のすべての都市と県、鎮でこの制度を実施するよう希望している。王さんのように、政府の優遇政策によって居住の条件を改善できる家庭はきっとますます多くなることだろう。
政協のグループ討議の中で、広東省から参加した一人の政協委員は「政府が最低生活保障制度を都市から農村にまで広げようとしているのは、本当に素晴らしいことだ。政府は資金的にさらにこれを支持し、困っている人々が中央財政の援助を受けられるようにすべきだ」と主張した。
実は、経済の発達した沿海地域にある一部の省ではすでに、農村で最低生活保障制度を打ち建てている。浙江省の呂祖善省長によると、浙江省の農村の最低生活保障は1998年に打ち建てられた。 また2003年に浙江省は、都市と農村での新しいタイプの救助システムを打ち建てようとしている。全省の都市と農村の独居老人を集めて養うことにし、すでに97%の独居老人が集められて介護されている。浙江省はこの問題で、すでに全国のトップクラスを走っていると言える。 |
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