財布からカードケースへ

さまざまなカードを携帯している張丹さん

 大学を卒業して2年になる24歳の張丹さんは、現在北京の外資系企業で働いている。午前9時から午後5時まで、ほとんどの時間は厳しい上司の元で忙しい仕事に追われ、リラックスできるのは仲間といっしょにランチを食べるわずかな時間だけ。昼休みにはいつも、特色あるレストランがずらりと並ぶ付近のレストラン街に足を運ぶ。張さんは、財布の中からさまざまなカードを引っ張り出す。「どれもお気に入りのレストランが発行しているカードです。カードで会計をする方が便利ですし、割引になるものもあるんですよ」

 張さんの財布は膨らんでいるように見えて、現金はそれほど入っていない。財布がはちきれんばかりに詰め込まれているのは、さまざまなカードだ。多すぎて財布に入りきらないため、まだ家に置いてあるカードもあると張さんは言う。

 毎朝出勤時には、カードで出勤を記録してから、会社のエントランスを通る。センサーの青のランプの点滅が、一日の仕事のスタートなのだ。「オフィスのカードキーと出勤記録カードは何よりも大切なものです。万が一持ってくるのを忘れたら、欠勤と見なされてしまいますから」と笑いながら説明してくれた。

住宅地でも、ユニットごとの入り口にデジタルの防犯ドアが設置され、住民は帰宅時にカードを通す

 アフターファイブに、スーパーで食べ物や飲み物を買ったり、デパートで服を買ったりするにも、クレジットカードやポイントカードは必携だ。「最近の経営者はどんどんずるくなっていきますよね。カードに還元ポイントなどがたまることによって、ついつい通わずにいられなくなってしまいますから」

 「出張や旅行の際には、身分証明書やクレジットカードのほかに、航空会社のポイントカードも忘れずに持っていきます。年間2万キロ分のマイレージがたまると、優待チケットがもらえる航空会社もあります。『携程』『? 龍』などトラベル関連サイトの会員カードも持っていれば、ホテルの予約に便利ですよ」。そう言って、張さんはカードの使い道を、ひとつひとつ紹介してくれた。

カード消費の進化

レストランはプロモーションを取り入れ、カードによる消費を奨励し、歓迎されている

 人々の生活に最も早く出現したのは、銀行のキャッシュカードである。90年代中期以後、一部の企業や機関は、現金による給料支給から銀行振込みに移行していった。預金通帳のほかにキャッシュカードが渡され、それを使っての現金引き出しや消費が可能となった。

 しかし、当時の人々はやはりポケットに現金があればこそ安心できるという考えだった。そのため、給料の新しい支給方法はかえって面倒を引き起こすことになった。通帳も銀行カードも妻に渡さなければならなくなり、それまで毎月こっそり貯めてきた「へそくり」ももはや続けられなくなった、と愚痴をこぼす男性もあった。

 キャッシュカードに慣れなかったのは、単に観念の問題だけでなく、登場したばかりのカードによる消費は決して便利とはいえなかったという事情もある。当初、カード用の端末が設置されていたのは大手デパートのみ。しかも各銀行のカードには互換性がなく、キャッシャーの手もとに異なる銀行の7、8台の端末が並んでいても、その中に自分の持っているカードの銀行のものがなければ、「カードを目の前にしてもただ嘆くだけ」しかなかった。そのうえ、銀行のネットワークの反応も鈍く、端末の前で発信を待ったり、サインしたり、かなりの時間がかかった。そのため、ほとんどの人は消費額が3、400元を超える場合にしか、カード払いを考えることはなかった。わずかなお金を払うために時間がかかって、会計の列に並んでいる人々にも嫌がられていることもあったからだ。こうして、初期のカードによる消費はある種のリッチで、ファッショナブルなイメージはあったものの、あまり実用的ではなかった。

張丹さんは買い物をする時、主にカードを使う

 2002年、中国人民銀行の認可を経て、国内の80あまりの金融機関による金融サービス機構「中国銀聯」が設立。国内の各銀行のカードに互換性を持たせることで、消費者にとって便利になり、カード決済のスピードも急速にアップした。

 カードによる消費奨励のために、北京では2003年とその翌年、抽選イベントが実施された。一等賞は、乗用車一台の5年間の使用権。同時に、カードが使用できる場所は、大手デパートからスーパー、ホテル、専門店、レストラン、美容室、ジム、レジャー施設などにまで拡大した。北京郊外の農家観光村でさえ、カードの使用できるところが出始めた。

 現在では、給料の口座のキャッシュカード、医療保険のカード、有線テレビ使用料や保険料の支払いに使うカードなど、複数のカードを持つのも当たり前となった。カードを申請する際、多くの人は念のためにパスワードを設置するが、年配の人はパスワードを忘れてしまったり、間違えて覚えていたりして、面倒な事態も発生している。

信用を検証するクレジットカード

大学では、新入生に専用のICカードが配布される

 現在の銀行カードはもはや単なるキャッシュカードではなくなり、多くの銀行がクレジットカードを発行している。手続きはごく簡単で、身分証明書さえあればすぐに申し込める銀行もある。クレジットカードの使用を奨励するために、銀行はプレゼントを用意したり、年会費免除などのサービスも打ち出している。

 李潔さんは大学を卒業したばかりの時、銀行でクレジットカードを申し込んだ。クレジットカードの20〜50日間の無利息期間を利用して、一時的な資金不足と資金繰りの問題を解決したかったからだ。就職したばかりの彼女には、買わなければならないものがたくさんあった。そのため、初任給はまだ手にしていなくても、一足先に消費して後から返済できるのは非常に有難かった。カードを使用すると、月末に届く使用明細で、一カ月中の消費が一目瞭然である。それが自分の資金に対する管理意識を強め、その後の消費の抑制にもなると李さんは言う。

寧波の街中には、カード式「メーター」のパーキングがある。

 50歳の袁遠さんは、最近になってようやくクレジットカードの良さがわかるようになった。数年前、袁さんはローンでマンションを買った。返済状況が良好であったため、優良顧客向けの5000元までのキャッシングが、人民元・外貨建て決済で可能なダブル通貨のクレジットカードを銀行からもらった。「やっとローンの返済が終わったというのに、これ以上お金を借りたくない」と、彼は使いたがらなかった。しかし、海外旅行の際には、このカードが非常に役に立った。買い物をする時、前もって両替の必要もなく、大量の現金を持ち歩かないで済み、決済の手続きも迅速で、手軽だった。「信用さえあれば、金を借りるのは必ずしも悪いことではないな」と袁遠さんは考えるようになった。

 しかし、クレジット経済は単なる融資手段に過ぎず、差し迫った必要は解決できても、長期的な経済問題の解決はできないということがわからない若者もいる。彼らはカードを使って気軽に買い物をするうちに、一つ買うと、さらにもう一つ買いたくなり、自分の経済力を忘れてしまう。月末になって、積み重なった借金を返済できないという事態に直面する。このような過度の消費はトラブルを引き起こすだけでなく、個人の信用記録を傷つけることになり、以後の個人的な経済活動に不利になる。

 クレジットカードを使う人が増えるにしたがって、そのカードに「貯蓄」する信用というものが、経済社会において最も重要であるということを、人々は次第に認識しつつある。

カード式生活

廈門大学には中国建設銀行が発行するダブル通貨用ドラゴンカードというクレジットカードは、教員カード、女子学生カード、男子学生カードに分かれ、カードの所持者は無利息でパソコン、携帯電話、電化製品、家具などをローンで購入できるサービスが受けられる 

 磁気カードの技術が改善されるにつれ、カードの種類と用途はさらに増大し、生活の隅々まで行き渡るようになった。

 テレホンカードと銀行のキャッシュカードは、ほぼ同時期に発達した。固定電話も携帯電話もまだ普及していないころ、テレホンカードは公衆電話、特に長距離電話をかける際に便利だった。キャンパス用テレホンカードが、大学生の必需品だった時期もある。テレホンカードはデザインがしっかりしていて、カラフルで、鑑賞価値もあり、コレクションしている人も少なくない。数年前には、テレホンカードのコレクション展示会も開催された。

 バスに乗る際も、かつては車掌さんから切符を買っていたが、今ではICカードに変わった。「一ソィ通」(交通機関の共通ICカード)の使用が可能となった都市では、このICカードでバスに乗れるし、地下鉄やタクシーにも乗れる。水、電気、ガスなどの料金も、人の手による払い込みからプリペイドカードに切り替えられた。自動車の給油には給油カード、株式の取引には株式カード、美容室で、スポーツやフィットネスジムで、本屋で、映画館で、公園の入場券にも、様々なプリペイドカードや割引カードがある。特にデパートやスーパーなどは、多種多様なポイントカード、メンバーズカード、VIPカードで多くの消費者を引き留めている。人々も次第にこうした「カード式生活」に慣れ、その生活を受け入れつつある。


参考データ
 

 ▽2007年新年の3日間の休日で、中国大陸部(香港、澳門、台湾を含まず)の銀聯カードは、4327万7000口の全国の銀行間取引を実現。総金額は228億5000万元、取引数と総額は昨年同期比12.3%及び60.2%に増加した。

 ▽2005年から、銀聯は積極的に商業銀行、農村信用社などの金融機構と共同で農民工特色銀行カードサービスを推進。農村地域において窓口カウンターのネットワークを通じて、カード所有者に居住地以外の地区での現金引き出し、預け入れ及び送金サービスを提供している。2006年、すでに全国で2万8000以上のネットワークが開通した。

 ▽2006年、中国銀聯の国外ネットワークはすでに24の国や地区に達し、中国人がよく訪れる国や地区の95%をほぼカバーしている。2006年末までに、世界中で中国の銀聯カードを受け付けている取引先総数は57万近くに及んでいる。


多種多様なカード式消費は、人々に多くの便利さと実益をもたらした。2006年12月15日までに、中国銀聯カードの発行総数は11億枚に達し、24の国家と地域、全世界の40万台のATMで使用できる

 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
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