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張春侠=文 劉世昭=写真 |
中国の鉄道は今年4月18日、第6回スピードアップを実施した。時速200〜250キロの国産列車を主役に、中国は新しい高速列車時代を迎える。 21時間が12時間に
北京で販売の仕事に携わる李さん(45歳)。仕事柄、出張が多い。夜、上海行きの直通列車に乗る。上海に着くのは次の日の朝。昼間、用事を済ませたら、その日の夜行列車に乗って北京へ戻る。「この仕事は出張ばかりで、特に若いころは、1カ月に7日も家で過ごすことができればいいほうでしたよ。列車が移動する『家』のようなものだったのです」 しかし若いころの「家」は決して居心地のよいものではなかった。1980年代、都市と都市を結ぶ直通列車がまだ走っておらず、上海行きの列車は各駅に停まり、スピードも非常に遅かった。北京から上海まで21時間もかかったのだ。
また、ほとんどが「硬座」(普通シート)だった。寝台席は少なく、切符を手に入れるのが大変だった。しかも、数少ない一等寝台席は、高級幹部しか乗れなかったため、乗務員は乗客の身分をときおり確認していた。 李さんは寝台席の切符が取れないと、硬座席の切符を購入した。「硬座席の切符も取れないときは、立ったまま目的地に向かうしかありませんでした。当時、北京から上海、広州までの切符は手に入れるのが非常に難しく、20時間以上も立ったままで、足がパンパンになってしまったこともあります」
しかも、春節(旧正月)など移動ラッシュに遭遇してしまったらもう大変。車内の通路や洗面所まで人があふれ、手足を動かす場所もない。トイレはいうまでもなかった。「だから、列車の中ではなるべく水分をとらないようにしていました。あるとき、武漢へ向かう列車で、車内の温度は40度以上に達し、見渡す限り人、人、人……。汗のにおいが充満し、もう少しで倒れるところでしたよ。いま思い出しても恐ろしい!」 これまで数十年間、中国の一般の人々にとって、列車はもっとも重要な長距離移動の手段だった。しかしスピードが遅かったため、人々の移動は困難をきたしていた。 1978年10月、ケ小平は日本で新幹線を体験し、「風のように速い。新幹線は人々を走らせる。我々も今、走ることが大変必要だ」と感慨深げに語った。当時、中国の鉄道の平均時速は40キロだったのである。 スピードの遅さが輸送力の妨げとなった。1980年代半ばからは、全面的な輸送力不足に陥った。乗車が困難、切符が手に入らない、貨物輸送が難しいという状況が日に日に顕著になり、鉄道の輸送力不足は国民経済の発展のボトルネックとなった。その一方で、自動車道路や航空路は急速に発展していった。 このような状況を改善するため、中国は1997年から2004年にかけて合わせて5回の鉄道スピードアップを実施。これにより、列車の最高時速は160キロに達した。時速430キロの上海リニアモーターカーの運行も2003年末に始まった。 今では、北京―上海間の走行時間が12時間になった。「どんどん速くなるだけでなく、車内も清潔になり、快適になりました。一等寝台席では夕食や朝食も出ます。朝、目が覚めれば、もう目的地です。飛行機より便利ですよ!」と李さんは満足そうだ。 国産高速列車を投入
「これが列車かい? 飛行機のキャビンより広いじゃないか!」白いボディの流線型の列車に一歩足を踏み入れた范さんは、驚きの声をあげた。車両の床面がプラットホームと同じ高さであるため、乗り降りも便利だ。 上海のソフトウェア会社に勤めている范さん。仕事の関係で杭州へ行くことが多いが、これまでは自分で車を運転していた。「長い間、列車には乗りませんでした。とても込んでいたからです。列車がこんなに快適で便利になっているなんて、本当に思いもしませんでした」と話す。 范さんの乗ったのは、上海―杭州間の「CRH」(China Railway High-speed)の列車。8両編成を2組連結させた計16両編成で、定員は1220人。先頭車同士を連結しているので、流線型の先頭車は合わせて4つある。
中国は鉄道のスピードアップをはかるため、アルストム(フランス)や川崎重工(日本)、ボンバルディア(カナダ)、シーメンス(ドイツ)の4社から最先端の技術を導入。3年以上の歳月をかけて、高速列車の車体やトラクションコントロール(駆動力制御装置)、ネットワークコントロールなど九つの要となる技術と空調システムなど十の主要な付属技術をマスターし、国産化率75%以上の「CRH」を開発した。 中国の一般の列車が機関車によって牽引されているのに比べ、「CRH」は二つの車両が一組となって、一つの動力装置を有しているため、列車が走り出すとき、スピードを上げるとき、そしてブレーキをかけるとき、静かに迅速に対応できるという。 「CRH」の車両は幅6メートル。一等座席と二等座席に分かれている。車内の照明や標識、音響、空調などの設備はすべて国際標準に達している。
上海でデザインの仕事をしている汪さんは、人にやさしい設計に感心した様子だ。「座席は180度回転できるため、いつでも列車の進行方向に合わせられる。対面式にして仲間とおしゃべりを楽しむことも可能だ。トイレは男性用、女性用のほか、乳幼児連れの乗客専用のものもある。しかも便座は暖房が入るので、冬でも冷たくない」 また、トイレは空気の力で汚物を吸引する「真空式」を採用しているので、鉄道沿線の汚染防止にもなるという。さらに、身体障害者用のトイレと具合が悪くなった人が休むことができる多目的ルームも設置されている。 このほか、列車の窓ガラスは特殊な処理が施されていて、どんなにスピードが速くても、外の景色を眺めていて頭がクラクラしたりめまいを感じることはない。 5号車と13号車には飲食コーナーも設置。コーヒーやジュースなどを一杯5元で提供している。外の商店とあまり変わらない価格だ。 さらなるスピードアップを
中国の列車は過去5回のスピードアップを経て、最高時速が160キロに達した。鉄道の総距離も2006年末時点で7万6600キロにおよぶ。しかし、これは世界の鉄道総距離の6%に過ぎない。中国の鉄道輸送量は世界全体の四分の一にあたるのだ。この需要を満たすためには、絶え間ないスピードアップが必要で、さもなければ、乗車が困難な状況を変えることはできない。 4月18日に始まった第6回スピードアップの最大のポイントは、時速200〜250キロの高速列車を投入したことにある。 今回のスピードアップは北京―ハルビン、北京―上海、北京―広州、蘭州―連雲港(江蘇省)、蘭州―ウルムチ、広州―深セン、北京―九竜(香港)などの主要路線を対象に実施。これにより、時速200キロ以上の路線は6000キロ以上に、時速160キロ以上の路線は1万4000キロに増える。一部、時速250キロに達する区間もある。 これと同時に、主な都市の間には86両の高速列車が走り、1日7回直通特急列車が往復する。これにより、列車の走行時間は大幅に短縮され、北京―上海間は12時間から10時間になる。
また、さらなるスピードアップをはかるため、環渤海、長江デルタ、珠江デルタの都市および黄河中・下流域、西北、西南、東北地域の重点都市の間に、たくさんの快速列車を走らせる。地域をまたぐ主な都市の間には、高速列車を走らせる。 年末までには、「CRH」の列車が合わせて480両に達し、全国17の省、直轄市をカバー。鉄道の旅客輸送力は18%、貨物輸送力は12%上昇し、今年の旅客輸送量は前年より1億人多い13億6500万人に達する見込みだ。 さらに現在、16両編成の寝台高速列車と時速300〜350キロの高速列車を開発しており、年末から来年上半期にかけて、相次いでラインオフする。今年中には、北京―上海間の高速鉄道の建設も始まり、2010年に完成する予定。これが完成すると、北京―上海間(1318キロ)はたったの5時間で結ばれる。 計画によると、「第11次5カ年規画」(2006〜2010年)の期間、1万7000キロの鉄道を新設する。このうち、客車専用路線は7000キロ。2020年までには、総距離が10万キロに達し、スピードもさらにアップする予定だ。 |
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