今、中国で最もホットな話題の一つは、虚偽広告に出演したタレントらの有名人が、広告主と連帯して損害賠償責任を負うべきか、という議論だ。そのきっかけは、中国中央テレビ局(CCTV)が3月15日の「世界消費者権利デー」に関する番組で、人気相声(漫才)師の郭徳綱さんが出演した痩せ薬「蔵密排油茶」の広告を、消費者の権利を侵害した例として取り上げたことだ。
郭徳綱さんは、相声の伝統を復活させ、それを現代的に味付けした。これにより、衰退の兆しのあった中国の相声は昨年から、再び流行し始めた。相声の復活に最も貢献したと評価された郭徳綱さんは、米国誌『フォーブス』の「2007年の中国有名人番付」にランクされた。
その郭徳綱さんがイメージ・キャラクターとして出演した「蔵密排油茶」の広告が、昨年からテレビや新聞、雑誌のほか、北京のバスの横腹の広告にも大々的に登場した。
ところが昨年7月、北京市在住のある消費者が、「蔵密排油茶」を使用しても、広告がうたう効果がなかったとして、郭徳綱さんとメーカー、それに広告を掲載した新聞社『保定晩報』を相手取り、謝罪と商品の代金116元の倍額の返還を求めて人民法院に提訴し、話題を呼んだ。
報道によると、「蔵密排油茶」は、生産に必要な衛生許可証、広告掲載に必要な広告許可番号を取得しないまま生産・広告を行ったので、虚偽広告と違法生産の容疑があるとのことだ。
タレントらの有名人が、イメージ・キャラクターとして虚偽広告に出演した場合、彼らも連帯責任を負うかどうか、それが最初に議論され、全国的な注目を集めたのは、1995年のことだった。
この年の3月、江西省のある女性消費者は、「SK-U」の皺とりクリームを購入し、1カ月間使用したものの、「連続28日間の使用により皺が47%減り、皮膚は12年若返る」という広告の効果は現れず、逆に肌に痒みが生じ、一部が爛れてしまったとして、P&G社を訴えた。
さらにこの製品のイメージ・キャラクターである人気女優のカリーナ・ラウ (劉嘉玲)さんを被告に追加するよう請求したが、「イメージ・キャラクターの責任追及は法的根拠がない」として、それは却下された。
こうした議論が、郭徳綱さんの「蔵密排油茶」広告出演に対するCCTVの批判で、また全国的に再燃した。郭徳綱ファンの多くは「連帯責任はない」としているが、「ある」とする法学者や弁護士も多い。
広告の法的責任について、初めて規定したのは、『不正競争防止法』(1993年12月1日施行)第9条である。同法は、商品の虚偽宣伝を禁止する第9条に違反した場合、工商行政管理機関が違法行為の停止、影響の除去、10万元以上20万元以下の罰金に処することができる、とする行政責任を定めている。しかし、民事賠償責任を誰が負うかについては規定していない。
その後公布された『広告法』は、虚偽広告について、行政責任のほか民事責任も規定している。同法第38条は、虚偽広告により消費者の合法的権益が損なわれた場合の損害賠償等の責任について、これを負担する主要な主体は広告主だが、虚偽広告の設計・製作・代理・発布を行った広告経営者や、虚偽広告で商品やサービスを推薦した団体や組織も連帯責任を負う、と定めている。
この第38条について、実務的には積極説と消極説の2つの立場がある。積極説は、この第38条に定める商品や、サービスを推薦した団体・組織について、これに出演者も含まれると解することができる、と主張する。
これに対して消極説は、第38条が明確に規定する虚偽広告の責任主体でない者、例えば出演者は、民事責任を負う必要がない、と考える。
消極説は、実務において主流となっている模様だ。「SK-U」事件で、イメージ・キャラクターの責任追及には法的根拠がないとした人民法院の判断は、こうした消極説に基づくものである。
そこで、法学者や弁護士の多くは、個人の出演者も虚偽広告の責任負担主体に含めるよう『広告法』の改正を呼びかけたり、現段階における解決策として『民法通則』の共同不法行為に関する規定を適用することにより、個人出演者の損害賠償の連帯責任を追及することができると主張したりしている。
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