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中国国際放送局 王小燕=編集・構成 |
〈東京スタジオ〉 パネラー 于 前 フォト・ジャーナリスト、『亜細亜週刊』東京特派員(東京在住15年)(写真@中央) 。北京生まれ。現在は東京を拠点に、中国大陸、香港、台湾の雑誌等に日本をテーマとした記事や写真を発表している。著書に『チャイニーズレンズ』(竹内書店新社)。『朝日新聞』のホームページでコラム「中国特集・漫歩寄語」、雑誌『中国語ジャーナル』で「于前の現代中国語図録」などを連載。 進行 張 国清 中国国際放送局東京支局長(写真@右) 〈北京スタジオ〉 パネラー 田中奈美 日中通訳・翻訳(北京在住4年)(写真A左奥)。1971年東京生まれ。美術史学修士課程終了後、美術雑誌の編集などをへて、『中国国家地理』の日本版『中国地理紀行』の創刊と編集に携わる。2003年より北京に留学。中央民族大学で中国語を勉強した後、現在、北京を拠点に翻訳の仕事に従事。 進行 王 小燕 中国国際放送局日本語キャスター(写真A右奥) |
中国国際放送局(北京放送)は今年、中日国交正常化35周年の記念企画として、「中日インターネット対話」を立ち上げた。民間レベルの相互理解を深め、本音で話し合う場を作りたいとの思いから始まった、新たな試みである。スタジオを北京と東京に設置し、両国のパネラーとネットユーザーが熱い議論を繰り広げる模様をインターネットで生中継。春・夏・秋・冬と年四回開催する予定だ。 第一回は「中国人と日本人、どう付き合えばよいか」をテーマに3月29日に開催。視聴者は両国あわせて13万4000人にのぼった。その概要をここで紹介する。
4人のパネラーがテーマ「中国人と日本人、どう付き合えばよいか」をめぐり、基本的な考えを語った。 福田「文化の相互理解が必要」 今、日中両国の経済産業面での相互依存関係が強まりつつあり、お互いを必要とするパートナーになっている。が、関係調査では、相手国に親しみを感じる人が減り、親しみを感じない人が増えている。真に残念なことである。 両国には歴史問題、政治問題など難しい問題があり、その解決に向けて努力することが大切だ。これに加えて、私は文化の相互理解という重要な課題を挙げたい。 両国の国民は外見がよく似ているうえ、漢字を使い、ご飯や麺を食べるなど共通点が沢山ある。しかし、思考・感情・行動の型は、実はかなり違う。付き合っているうちに、この違いが表面化し、誤解が生まれ、感情的な対立が生じることがある。そのため、文化の違いを意識し、それを構造的に認識することが今とても大切だと思う。 王「文化や伝統は変容しているもの」
中日の文化を比較する場合、中国人ならこうだ、日本人ならこうだといい、簡単に決めつける手法をとりたがる人がいる。私は、文化の異質性を必要以上に主張し、異文化の人々をあたかも異なる人種のように区別するという手法を懐疑的に見ている。文化は、歴史の産物である。特に、今の時代では、近代化を目指す各国とも、外来文化の影響を大きく受けているので、文化や伝統は激しい変容を見せている。 一方、今の社会においては、外国との文化ギャップよりも、国内の世代間ギャップのほうが際立つ場合もある。たとえば、3月13日に北京で行われた日中スーパーライブに行って感じたことは、流行音楽は同年代の中日両国の若者の心に響いていたが、私のような40代のおじさんはもうついていけなくなり、「ネアンデルタール人」(旧人)になったような感じがした(笑)。 于「マスコミの全面的な報道が大事」
まずは、日本人も中国人も「相手はこういう人間だ」と思い込まないこと。「相手のことなら、自分ほどよく知っているものはない」という傲慢な態度では、信頼関係はつくれない。 次に、日本人と中国人は隣近所の関係にあり、これは変えられない事実。このことをもっと理解しないといけないと思う。ただ、付き合っていくうちに、嫌なところも見えるし、不愉快な思いをしたり、嫌いになったりすることもある。相手のことを盲目的に好きになるのも、よくない。逃げ場や触れ幅の余地を残しておかないと、不満が爆発したときに修復できなくなる可能性がある。 この中でも、マスコミは本当の姿を全面的に紹介する必要があると思う。相手国の日常の姿を知ることで、少しずつ理解が深まり、誤解がとける。ただ、相手のことが嫌いな場合は、無理に付き合わなくても良い。そのくらいの自由度をもたすことも必要だ。 田中「異文化交流は自分との対峙」
中国に来てから、お互いの違いをリアルに感じている。日本で当たり前と思っていたことが、中国ではそうではないと思うことが多い。4年もいると、違いはだんだん分かってきたが、同時に理解すればするほど、分からないこと、理解しきれないこともまた多い。いくら相手の国を理解していても、自分がその国の者でないかぎり感じる齟齬や行き違い、違和感、怒りなどは決してなくならない。そういうのが積もれば、よけいにマイナス感情も強くなる。 日中に限らず、異文化間での交流や理解は、自分とは異なるものに出くわしたとき、その違和感や齟齬に、自分がどう対峙し、どのようにそれを消化し、乗り越えてゆくかという、自分自身の問題ではないかと最近考える。 ◇アンケート結果と質疑応答 ネット対話の開催前に中国語と日本語で実施したアンケート調査の結果を披露。ネットユーザーからの質問に対し、パネラーが回答した。 中国人ユーザーからの質問 夫婦は平等でなければならないのに、日本人の女性は、旦那よりも見下された地位に置かれていることはないか。ただ、これはあくまで、テレビからのイメージなので、実態を教えてください。 福田 実態は全然違う。旦那より見下された位置に置かれているというよりも、逆に奥さんがお金をしっかり握っていて、思うように動かしている。主婦でも働いている人が増えているし、大学などで積極的に何かを学ぼうとする人も増えている。 日本人ユーザーからの質問 中国人は初対面でも家に招待してくれる。もてなし方もすごい。 于 確かに中国人はお客さんを大事にする習慣があり、日本人は簡単にお客さんを家まで招き入れない。ただ、普通は初対面の人をいきなり、家に招待するケースは中国でもそう多くはない。 中国人ユーザーからの質問 日本人の若者はどのように中国人を見ているか。 田中 私の周りには30代の女性が多いが、中国の政治に関心がある人は少ない。上海へエステに行こうなどというイメージのほうが強い。 于 十数年前と比べれば、今のほうが中国に対する関心が高まっている。中国語を習う人がぐっと増えている。 日本人ユーザーからの質問 中国の一般家庭の日常生活が知りたい。私の家では、妻が専業主婦で、料理と家事はすべて妻がやっているが、中国ではどうなっているのか。 王 中国では、共働きが普通なので、この点、日本と社会の構造が違うかもしれない。中国人の男性、私もそうだが、よく台所に入って料理をしたりする。私の手作り料理はかなりおいしいですよ(笑)。
テーマに対する解決策を両国の一般市民やパネラーに出してもらった。 一般市民の意見
定年退職した中国人 中日間に限らず、異なる社会、文化、人と付き合うのに何よりも大事なのは、平等と相互尊重である。それから、交流の土台は国民同士にあり、結局のところ、人と人との交流になる。人間同士の交流が絶えず深まり、拡大されればこそ、国と国、民族と民族が、初めて睦まじく付き合えるのではと思う。 中年の日本人男性 日本人と中国人の間に、先入観や事前のイメージが強い。それがある意味で障害となって、思いこみなどがありすぎる。お互いに人間なんだから、同じ人間だと思って、付き合っていけば良いのでは。 北京の日系企業で働く中国人女性 私は会社で、上司の日本人と付き合うことをそんなに難しく感じたことはない。同じ企業文化に身を置いているし、共にがんばっていく共通目標もあるからだ。相手がどの国の人かにこだわる必要なんてない。国際人の視点に立って取り組んだほうが、問題が早く解決できる。
北京に留学中の日本人学生 日本人は大胆に言いたいことを話し、中国人とぶつかること。中国人には相手の意見を聞いていただきたい。双方の歩み寄りが大事。 中国人女性 もう少し平たく考えて、難しく構える必要はない。直接相手国に行ってみること。ホームステイが一番良いと思う。お互いの国の家庭のことが分かり、身近に付き合える友達がいれば、イデオロギーや政治的な問題が起きても、決してそれに左右されないと思う。 日本人男性 歴史を鑑とすること。日本と中国は今まで、色んな関係があった。色んな意味での歴史を勉強することが必要だ。似ているところや似ている考えもあれば、漢字という共通の手段もある。しかし、言葉の文法は相当違う。同じところと違うところを十分勉強した上で、お互いの立場を理解すること。 パネラーの見解 王「越境文化の現象を高く評価」 異文化を理解するには、相手を理解する気持ちが必要だと思う。最近、中国の歌手が日本でデビューしたり、日本の俳優が中国の映画に出演したりして、いわゆる「越境的文化」の誕生を評価したい。最近ハリウッドでリメイクされた香港映画『インファナル・アフェア』の構造を借用すれば、相手の中に自分があり、自分の中に相手もあるという状況が生まれている。このような動きは、地域文化のルネッサンスに必要なプロセスかも知れない。 福田「相手を尊敬すること」 仕事をリタイアした男性の話に共鳴を受けた。相手の文化を尊重することが、重要だと思う。また、観光やホームステイの提案もとてもよかったと思う。私はボランティアで、時々、外国人向けに鎌倉の町をガイドしている。今月は中国から来られた技術者の方、13人を案内した。時々中国語を使ったりして、とても楽しかった。
田中「恋愛するように異文化交流」 喜怒哀楽を体感すること。相手に対するわだかまりが出てきたら、恋愛テクニックの本を読む(笑)。恋愛は、究極かつとても身近な異文化コミュニケーションだと思う。心理学者のジョン・グレイ博士の『Men are from Mars, women are from Venus』(日本語タイトル『ベストパートナーになるために』)というベストセラー恋愛書がある。男は火星から、女は金星から来たくらいに違う。その違いをどうやって調整し、相互の関係と信頼を築いてゆくかということ。恋愛するように異文化コミュニケーションをすればよい。 人と人が付き合うことは、文化交流そのものだと思う。こういう面白い冗談がある。日本人は割り勘の習慣があるが、中国人はあまり割り勘はしない。それで、ある時、中国人は日本人に、「一円まで割り勘しているのよね」と言った。すると、日本人が怒り出した。「それは違う。五円までは割り勘するが、一円まではさすがにしない」、と(笑)。やはり、日本人にとって、お金はきちんと計算したほうが気が楽のようだ。中国人と日本人は互いに違いがあることを理解して、それを楽しむというのが、大事ではないかと思う。 最後にもっとも伝えたいメッセージ
福田 自分の文化に誇りを持つと同時に、相手の文化を尊重すること。日中は今後も、お互いの文化の共通点と相違点を認識しながら付き合っていけばと思う。 于 相手が外国人であろうが日本人であろうが、なるべく相手の立場に立って考えること。固定観念にとらわれず、驕らず、虚心坦懐に付き合うこと。 田中 違うと思ったこと、疑問に思ったことを率直に尋ね、話し合える相手を持つこと。最終的には、相手がどうかは関係なく、問題は自分自身にあると思う。広い視野と確かな目、通り一遍ではない知識を持ち、物事に的確かつ冷静に対峙、分析できるようにすること。 王 心の接近を実現するには、現在のありのままの中国や日本をもっと伝え、理解しあうことが大切。そのためには、両国のメディアはお互いに「異常」ではなく、「日常」をより多く伝える必要がある。この意味で、等身大の中国を日本の皆さんに伝える『人民中国』や「国際放送局」の使命は大きいと実感している。
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