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高原=文 |
「アイデア・マーケット(創意市場)」(I-Mart)と名づけられた一連のイベントは、2007年中国において、非常に注目すべきレクリエーション現象である。広州で最初に行われたこのイベントは、中国各地からの40余りのアイデア・チームを引きつけた。広州麗影商業広場に集まった彼らは、各自露店を設け、独自のアイデアで作り出したおもちゃ、アクセサリー、文具、生活用品を販売した。これらのこまごまとした品物の多くは手作りで、型にはまったものでなく、大量生産で作られたものにはない独特な魅力にあふれ、現地の若者の注目を集め、喜ばれた。 2006年7月からわずか一年間のうちに、「アイデア・マーケット」は上海、北京、蘇州、廈門、深センなどの都市を相次いでめぐり、いたるところで強烈な反響を呼んだ。 若者たちの「アイデア・マーケット」
「アイデア・マーケット」はもともと、欧米のフリー・マーケット(ノミの市)から来たものである。週末になると、自分の家の不用品をみんながそれぞれ持ち寄ってそこで売る。芸術家たちもこのチャンスを逃さず自分の作品を並べる。作品がマーケット内を徘徊する「惑星探索隊(アートプロデューサー)」の目に留まり、商品化され、自分のブランドを立ち上げられるようになることを期待しているのだ。比較的有名なマーケットに、ロンドンのスピタルフィールズ・マーケット、シドニーのパディントン・バザール、横浜のポートサイド公園・アート縁日などがある。これらのマーケットに比べると、中国ではまだ「アイデア・マーケット」が新鮮なものととらえられており、参加者たちの多くがトレンドを追い求める若者である。
個性を追求し、明白な個人的記号を帯びたユニークなものを好む若者には「アイデア・マーケット」がぴったりである。1980年代に生産された、ふたと取っ手のついた青いふちに白いホウロウびきの湯飲みといえば、中国では誰もが定年になったお爺さんたちが使うものという印象を抱くはずだ。ランニングシャツ姿でホウロウびきの湯飲みを手に、道端で雑談したり、将棋を指したりする彼らは、トレンドとは無縁である。しかし、「アイデア・マーケット」では、その廉価な湯飲みを材料に、買い手の好みに応じて鮮やかな模様を描いたり、買い手の名前を入れたりする売り手もいる。ちょっとノスタルジックで、おしゃれで、値段も高くないため、大好評だ。 また、手作りの布製の人形を売る女の子もいる。その人形はすべて切れ端を用いたハンドメードで、見たところ普通の店で売っているものほどには美しくなく、どこか少し「変」である。しかし、今の若者たちは、そんな怪しい可愛さをあえて好む。人形を売っている女の子は、「この人形を養女にして、一緒に旅行にいくのはいかが」と、道行く人たちに声をかける。彼女のそんな言葉を耳にした30過ぎの人々は、過ぎ去った自分の青春に想いを馳せずにはいられない。彼らにとって、そんな思いはもはやロマンチックすぎるだけだ。 露店文化の復興
「アイデア・マーケット」が盛んになり、「露店文化」というコンセプトが再び人々の視野に入ってきた。そう遠くない昔、私たちの生活は露店と緊密な関係を持っていた。朝、家を出てから、道端の朝ごはんの屋台で煎餅(小麦粉などをひいてのり状にしたものを、鉄板に薄くのばして焼いたもの)やワンタンを食べる。退勤後には、道端の屋台で新聞を買ってからバスに乗る。休日には、露天の野菜市場へ野菜を買いに行ったり、中古品市場へ掘り出しものを探しに行き、値段を掛け合ったりして、なんともいえない喜びを味わう。しかし今ではそんな生活から、私たちは次第に遠く離れつつあった。 中国の各大都市において、露店はかつて都市管理係員が重点的に取り締まり、整理を行う対象であった。街の景観を損ね、目ざわりで、公共衛生を脅かすうえ、売っているのはほとんどが偽物であり、市場の秩序を乱すためである。こうして屋台を営んでいた人々は、屋台を廃業したり、統一された規格で通りに設けられた店舗に移ったりしていったため、本物の露店の市場はいくらもない。比較的有名なもので、北京の潘家園市場、上海の呉江路、武漢の江灘、天津の曙光里などがかろうじて残っているくらいである。上海、北京などでは、市民の買い物に便宜を図るため屋台の取り締まりはいくらか緩やかになったものの、露店の品物に対する悪印象はそう簡単に変えられるものではなかった。 ここ数年、中国人の物質的な生活が日増しに豊かになるにつれ、個性的な消費が追求され始めた。そのため、整然と通りに並んだ店で売っている画一的な商品では、もはや消費者の需要を満たすことができなくなっている。そして人々は「アイデア・マーケット」のようなイベントに強く興味をひかれはじめた。「クリエーティブ」「トレンド」「ブーム」といった、新鮮なベールに包まれた親しみやすい露店文化が、新しい姿で再び盛り上がりを見せようとしている。 メディアが推進するトレンドキャンペーン
こうした「アイデア・マーケット」の一連のイベントには、注目すべき現象がもう一つある。これが、『城市画報』というメディアの発起によることである。北京でのイベントは『新京報』も共催した。前者は広州発行の都市新文化を提唱するトレンドマガジン、後者は北京で発行されている都市文化ひいては「新新人類」のライフスタイルに関心を持ち続けてきた新聞である。 近年来、中国各都市のローカル紙とトレンドマガジンの動きが非常に活発で、主にトレンドな話題を追跡し、紹介している。今回、『城市画報』が真っ先に「アイデア・マーケット」を中国に導入し、青少年に人気の「ブランド」イベントたらしめたことは、トレンドをリードする役割を果たしたと言える。今後、都市新文化の発展において、メディアがさらに大きな役割を果たすであろうことは想像に難くない。 |
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