北京第二外国語学院日本語学部助教授  周潔   
 
変わりつつある中国の家族関係
 
 

 

筆者

 この二十数年来、中国社会は、過去にないほど大きな転換期を迎えている。経済発展につれて、社会的にも大きな変化と新たな問題が生じた。この中で、家族関係の変化は見逃せない問題の一つだと思う。中国の著名な社会学学者、費孝通氏が「家族は社会の細胞だ」と主張しているように、家族は社会を透視する有力な手がかりの一つとなっている。

教育過熱が生む歪み

 中国では一人っ子政策が実行されて、すでに25年になろうとしている。都市部の若者はほとんど、兄弟姉妹がいない環境の中で育てられてきた。「1―2―4」という言い方があるが、これは、子ども一人を両親と4人の祖父母で世話しているという意味である。

 子どもに良い生活をさせ、より良い教育を受けさせるため、親たちはいろいろ苦心している。普通の家庭でさえ、経済負担が重いにもかかわらず、一流の学校へ入れたいと、子どもたちを数多くの塾に通わせている。

 北京市には、重点高校といわれる有名高校は20校あるが、そこに入学するための競争はますますエスカレートしている。北京の名門高校である人民大学付属高校を参観した日本の衆議院議員代表団は、設備や生徒たちの素質の高さなどに感心したと聞いている。

 この高校の生徒たちは、親が高い学歴を持っているか、裕福な家庭の子どもがほとんどである。北京には、経済的に恵まれていないが優秀な子を受け入れる有名な学校、宏志中学がある。スタートした当時、経済状況が苦しく、成績が良い生徒を受け入れて、高い大学進学率を保ち、社会的に評判がよかった。しかし、その名声が高まるにつれて、裕福な家庭の子どもも争って入学するようになり、経済的に恵まれない子どもたちが入学し難くなってしまった。

 教育の過熱がもたらす弊害に、勉強さえできればよく、他人への思いやりに欠け、優しく豊かな心を持たない子が多くなったことが挙げられる。

 また、親子の間には、十分なコミュニケーションができず、子どもを放任している家庭も少なくない。たとえば、何に使うのかを聞かずに子どもに金を渡す親がいる。子どもはその金で、コンピューターゲームやネットに熱中し、家に帰らず、徹夜で遊んでいる。

 一昨年、北京のあるゲームセンターで火事が起こり、多数の死傷者が出た事故があった。調べによると、その大多数は高校か中学校の生徒だった。

 都市部の親子関係には、コミュニケーションの欠如、子どもへの精神的なサポートの不十分さなどの問題が目立つ。他人とのコミュニケーション能力に欠け、利己的な子どもたちが、豊かな人間になるにはどうしたらよいのか。親たちばかりではなく、全社会に問いただすべき時期に来ていると私は思っている。

疲れきっている女性たち

英語を勉強する冬季キャンプに参加した北京の子どもたち

 一人っ子政策の実施によって、もたらされたもう一つの変化は、核家族化である。核家族化につれて、家庭内での夫婦関係は、「民主」「友愛」「愛情」といったものを基礎に成り立つ関係へと変化し、新しい夫婦関係が強調されるようになってきている。愛情がなければ別れるという若者層の愛情観は、近ごろ、大都会ではかなり受け入れられるようになってきている。また、未婚の母や片親の家族、「ディンクス」(結婚後、子どもを持たず、夫婦とも仕事を続ける家庭)など、いままで考えられない家族形態が続出している。

 共働きの多い中国で、キャリア女性たちは、競争が激しくなってきた職場で男性と同じような仕事をし、家に帰ってから家事をしなくてはならない。仕事と家庭とを両立させようとして、社会と家庭という2つの面からのプレッシャーなどを強く感じているキャリアウーマンたちは、心身ともに疲れ切っているといっても過言ではない。

 そのため、「一生懸命働くのがいいのか、それともお金持ちと結婚して裕福な生活を送るのがいいのか」というテーマが大学生の間でよく議論されている。南京のある大学の修士課程を修了した才色兼備の女性は、住宅と車を持っていることを条件に結婚相手を募集して、社会的に大きな反響を呼んだ。ごく一部であるが、北京の外資系の会社に勤めている女性の中に、仕事をやめて、専業主婦に専念している女性もいる。

 夫との離婚、失業など人生の難関に立たされている女性もいる。離婚した場合は、財産分割、住宅問題、子どもの扶養問題、再就職問題など、女性は往々にして弱い立場に立たされる。

 人権の面でも女性は弱い立場に立たされている。今年、北京で、初めてのセクハラ裁判が行われた。被害者の女性が名誉回復と損害賠償を求めたことで、北京の各新聞はこれを大々的に報道した。

 このように、中国の女性たちは、これまでに経験したことのない多くの問題に直面している。しかし、生活のあり方や生き方は、ますます多様化に向けて着実に進んでいる。

 男女平等はこれまで制度上の考え方に過ぎなかったが、今はあくまでも自分の力で自分を把握し、自分の力で生きていくことが社会的に認められる時代になってきている。これは中国社会の一つの進歩であるといえるであろう。

 (この文章は、名古屋市で上映された中国映画『上海家族』(原題『假装没有感覚』、呂麗萍主演)のプレミア・ショーで講演した内容に手を入れたものです)(2006年2月号より)


 

 
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