秘境アバの自然と民族 D


あらゆる宝石を身につける「ザツォン祭」

劉世昭=文・写真
 
盛装したアバのチベット族の人たち

  アバでは、毎年9月15日から「ザツォン(扎崇)祭」という、物資交易会が開催される。

  それにあわせて様々な催しが行われる中、ひときわ目を引くのが、アバのチベット族の人たちの盛装である。金銀やサンゴなどの装飾品を全身につけた姿は、華やかな中に、彼らの民族の誇りと自信がうかがわれる。

収入源の漢方薬材

街頭でヤクの糞を売るチベット族の女性

 夜明けとともに、県城(県政府の所在地)に通じる道にやってきた。その傍らには、チベット族の女性たちが、燃料用の乾いたヤクの糞をロバに乗せ、それを買い求める客を待っている。

 県城にある、比較的大きな市場を訪ねた。そこでは、野菜や肉、布地、農機具が売られ、とりわけにぎやかだったのは、漢方薬材を買い取る店の周りだった。夏は、咳を止め、肺を潤す効能がある川貝(四川省産の貝母・アミガサユリの球根)を掘るには、とてもよい季節である。そのため、川貝を売りに来た農牧民たちが、商店の周りを取り囲んでいたのだ。

市場で川貝を買い付ける商人

 私は、川貝を売りに来ていたチベット族の男性に話しかけた。その人はナチュさんと言い、今年40歳。毎年、6月から8月の2カ月間、奥さんと4人の子どもを連れて、青海省あたりの山へ川貝を掘りに行くそうだ。約20日間で掘った20キロ以上の川貝は、1万元あまりで売れるという。

 「川貝を掘るのは家内と子どもたちの役割で、私は山にテントを張り、川貝を乾かして県城へ売りに行きます。川貝と冬虫夏草を売ると、1年間の収入は3万元ほど。普段、漢方薬材を取っていない時は、20ムー(1ムーは6.667アール)の畑で、ハダカムギを栽培しています」

「ザツォン大祭日」

チベット式の綱引き

 アバがこの地域の商業交易の中心になったのには、四川、甘粛、青海の三省の境に位置することと大きな関係がある。

 200年以上前、この地で行われていた「ザツォン(扎崇)」は、周辺の地域に影響を与えた交易の集まりであった。チベット語で「ザ」は陶器のつぼを、「ツォン」は市場を意味する。時が経つにつれ、この交易活動は、非宗教的で、多くの人が集まる「ザツォン祭」になった。土地の人々から「ザツォンチェモ」(ザツォン大祭日)と呼ばれている「ザツォン祭」は、毎年9月15日から始まり、長いときでは、3日から5日間行われる。

「ザツォン祭」が行われていた河支大ハ

 9月の中旬、「ザツォン祭」を取材するため、再びアバを訪れた。県城の多くの通りの両側には、臨時の掛小屋が建てられ、周辺各地から来た商人がすでに商売を始めていた。

 県城の外を流れる川のほとりにある河支大ハは、広くて平らな草地で、「ザツォン祭」が行われるメーン会場である。そこには大小数多くのテントが張られ、遠くから眺めると、まるで緑の草地に咲きほこる白い花のようだった。

豪華な装飾品

猟銃を肩にかけ、剣を身に着けたチベット族の男性

 9月15日の朝、人々はいっせいに河支大ハに向かった。「ザツォン祭」が行われるこの3日間、物資交易のほか、競馬やチベット式相撲、綱引き、グオズアン(鍋荘)踊りなどが催される。その中でも特に目を引いたのが、チベット族の盛装だった。

 日常、普通のチベット服を着ている人たちも、祝日を迎えるときは、一番いい服を身にまとい、美しくて豪華な飾り物をつける。それは、祝日の雰囲気に合わせ、自分たちの生活の豊かさを示すためである。

 会場の至るところで、美しいチベット族の盛装を見ることができた。その中でも圧巻だったのは、開会式で50人近くの盛装したチベット族の男女が、列を組んで人込みの中を歩いてきた時だった。

身につけている装飾品は、1人1人それぞれ違っているが、美しさの規準は、その多さや、大きさ、精巧さである。盛装したチベット族の女性は、自分の美しさと、裕福な暮らし向きを示している

 高価なヒョウやミンクの皮で縁どられたチベット族の衣装、毛皮やフェルトでできたさまざまな帽子、頭の上に飾られた金製の装飾品、大きな粒のサンゴやメノウ、トルコ石などの宝石。そんな彼らの首には、銀製の「ガウ」がかかっていた。「ガウ」は、活仏が清め開眼した仏像や、様々な仏具、高僧の仏舎利を入れる容器で、チベット仏教ではそれを身につけると、護身、魔よけ、鬼払いができると信じられている。

 男性の腰には、柄に宝石がちりばめられた刀がぶら下がり、弓矢を携えていた。女性は腰に、大きな宝石をはめ込んだ銀製のベルトを締め、手の甲や指には、純金のブレスレットや指輪などをつけていた。

 そして特に目立っていたのは、首にかけたサンゴのネックレスだ。普段、一本のネックレスをつけているチベット族の人は知っていたが、目の前にいる人たちの首には、少なくても3、5本、多い人では、12本のネックレスがかかっていた。

自分たちの誇り

 盛装した人の列の中に、県の旅遊局のズェランナムさんと、都市建設局のズェチェンナムさんを見つけた。一休みしている彼女らのそばに行き、一年に何度、今日のように着飾るのか尋ねてみた。 

盛装したさんズェランナム(右)とヅズェチェンナムさん

 「何回かですって? 年に一度あるとも限りませんし、一生のうちでも、せいぜい20回ぐらいです。この装飾は、身につけるのがとても面倒で、家族に手伝ってもらいながら、2時間以上かけます。けれど、それよりなによりこの装飾品はとても重くて、軽くても25キロ、重いと40キロを超します。一度身につけると、短くても半日はそのままですから、小さい子どもや年配の人には耐えられません」とズェランナムさん。

 普通の家庭が、どうしたらこのような高価で値打ちのあるものを買うことができるのだろうか。

 「それぞれの家で事情は異なりますが、アバの人は、周辺の人よりも裕福で、服装には特にこだわりを持っています。代々受け継がれたものがある家には、とても貴重な服飾品が残されています。『ザツォン祭』に参加する時は、代々伝わってきたものを身につける人もいれば、兄弟が持っている貴重な飾り物を集めて、その中の一人に身につけさせる場合もあります」。

 多くの装飾品で身をまとった人たちは、家族が事前に準備しておいた腰掛に座って休んでいた。ある家族は、身分が掛けた重いサンゴのネックレスを、首の後ろから持ち上げ、少しでも首への負担を軽くしていた。こんな大変な思いをしてまで盛装し、人前にその姿を見せるのは、アバのチベット族の人の誇りと自信の現れであることは間違いない。

 「今日は、私の弟と妹の主人も来ました。よかったら写真を取ってくれませんか」と、うれしそうに言うズェランナムさんだった。(2006年5月号より)


金でできた様々な手の装飾品


 

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