秘境アバの自然と民族 E


石に刻まれた膨大な数のチベット大蔵経

劉世昭=文・写真
 
『大蔵経』の山のすそには、後世の人々が祭った多くの仏像と経文、六字真言の石刻が置かれている

 チベット語で「草地にある寺」を意味するバントゥ(棒托)寺は、世界唯一といわれる、50万枚の石板に刻まれたチベット語の『大蔵経』と、40もの仏塔でその名を知られている。高さ9メートル以上に積み重ねられた『大蔵経』の「山」は、598平方メートルの面積を占める。

 チベット独特の修行が行われているツェンク(曾克)寺とともに、山に囲まれた、草深い地にある2つの寺院は、とても神秘的な異空間である。

三大塔群の一つ

バントゥ寺の塔群にある不思議な菩提塔

 ザムタン(壌塘)県城を離れ、延々と伸びたズェチュ川にそって、有名なチベット仏教チョナン派のバントゥ寺へ向かった。
 
 少し高くなった平地の前で、ズェチュ川はU字に曲がり、バントゥ寺はその平地にあった。
 
 バントゥ寺に属する1200平方メートル近くの塔群の敷地には、多くの仏塔が林立していた。

バントゥ寺に小山のように積み重ねられた石刻の『大蔵経』

 この塔群は、規模の大きさと勢いの雄々しさ、建築の精緻さから、中国のチベット族が住む地域の三大塔群の一つと呼ばれている。ほかの2つは、チベット自治区のザッチャン(扎降)寺の塔群と、四川省ガルズェ(甘孜)チベット族自治州のセダ(色達)寺の塔群である。
 
 バントゥ寺は、元代に建て始められた。現在ある仏塔のほとんどが、明と清、中華民国の時代に築造された。中心にある、高さ42メートルの万仏塔は、この寺で一番高い仏塔である。

不思議な仏塔と最古の仏塔

バントゥ寺の降妖塔内にある、きらびやかで美しい色彩の明代の壁画

 まず塔群の東側へ回り、高さわずか6メートルの小さな仏塔の前で立ち止まった。
 
 「これは菩提塔という、とても不思議な仏塔です」とズォチェンドルジ活仏が言うこの塔は、チベット暦の毎月10日と15日、この前で耳を澄ませると、中から朗々と経を読む声と、様々な法器の音が聞こえてくるのだそうだ。
 
 毎月この2日、僧侶と信徒は、不思議な響きを聞くためにわざわざやってくる。この塔は、地元の人たちからとても敬われているという。
 
 塔群の西側へ回ると、明代の1427年に建てられた降妖塔がある。これは600年近くもの歴史を持つ、塔群の中で最も古い仏塔だ。

バントゥ寺の塔群は、中国のチベット族が住む地域にある三大塔群の1つと称されている

 降妖塔の小さな入り口を潜って中に入った。塔の中には、「ツァツァ(擦々)」と呼ばれる、鋳型で作られた経文と仏像の小さな土のレリーフが多く積まれていた。チベット仏教では、「ツァツァ」を作ることはすなわち功徳を積むことで、作った者はそれによって幸せと健康がもたらされるといわれている。
 
 明代に描かれた壁画の一部は、色がまだらになり、壁の漆喰も所々はげ落ちていた。しかし、流れるような筆遣いとあでやかな色彩で描かれた、様々な仏像の生き生きとした表情は、年月の風化を乗り越えて、いまもはっきり見ることができた。

石に刻まれた『大蔵経』

バントゥ寺の『大蔵経』の山すそに置かれた六字真言と仏像の石刻

 塔群の中ほどには、石刻の『大蔵経』が小山のように積み重ねられていた。
 
 仏教がチベットに伝わったあと、経文と高僧の著作の多くが、チベット語に翻訳された。その集大成として編纂されたのが浩瀚な『大蔵経』であり、『カンギュル』(甘珠爾)と『テンギュル』(丹珠爾)という二部で構成されている。
 
 『カンギュル』は仏説部で、経部と律部の1100あまりの経典が収められている。『テンギュル』は論書部で、経典の注釈書のほか、多くの文法、詩歌、芸術、論理、天文、医薬、数学、工芸などの著述と作品、約3500の論書が収録されている。
 
 チベット族の信者は『カンギュル』と『テンギュル』をとても大切にし、多くの家の経堂には、この2つの経典が大事に収蔵されているという。
 
 バントゥ寺の石刻の『大蔵経』は、経典に書かれた順に積み重ねられている。

ミラ塔の9層の外で塔の最上部を回っているナムチュウラマ

 史料によると、バントゥ寺の『カンギュル』の部は、明の正統3年(1438年)、チベット語の経文の刻版と印刷で広く知られる、四川省のガルズェ自治州のデゲ(徳格)寺の版本をもとに彫られたもので、その価値はとても高いといわれている。
 
 『テンギュル』の部は、20世紀初頭、当時のバントゥ寺のリンチュ・ダルジ活仏の主宰で、60人以上の石工によって、約一億元の銀貨を費やし、9年の時間をかけて彫られた。
 
 経典からなる山は、高くて不規則な形をしている。石板の山を一回りすると、そのすそには、多くの仏像や、チベット語による南無阿弥陀仏の六字真言の石板が置かれていた。その一部は鉱物の顔料で色づけしているものもあった。これらの石板は全て、人々が代々仏への崇敬を表すためである。

ミラ塔は修行の場

大小異なる1108の多彩な仏塔に取り囲まれたツェンク寺。中央の三基は、神秘的なミラ塔である

 ザムタン県城から30キロほど離れた、川沿いの道路の両側には、大きさの違う1108もの多彩な仏塔の塔林が目に入った。これが、チベット仏教カギュ派のツェンク寺である。
 
 塔林の中ほどには、ミラ塔と呼ばれる、高さ約30メートルで9層の石塔が三基立っていた。西側のミラ塔は、当時のツェンク寺のジンメイオサ住職が、チベット自治区のロザツ(洛扎)県にあるミラ塔を参詣した後、それを模して1935年に建てたものである。

 9層の塔は9階大乗、6つの門は六波羅蜜、8つの窓は八尊、塔の金頂は釈迦如来をそれぞれ象徴している。
 
 寺院のナムチュウラマの案内で、ミラ塔の中に入った。塔内の各層は経堂になっていて、ラマが読経したり、こもって修行をしたりする場所である。
 
 修行に来たカギュ派のラマたちは、まず塔の初層から修行を始め、高い境地に達するごとに、上の層に進んで修行を続ける。もし9層での修行が順調に終われば、成仏できたことを意味する。

ミラ塔で、座禅を組んでいるナムチュウラマ

 各層には多くの仏像が祭られ、9層に安置されている菩薩の塑像は、3000体もあるという。また、初層から9層の壁に描かれた仏像は、2万体もあるそうだ。
 
 高さ25メートルの9層に上ったナムチュウラマは、思いもよらず窓を開け塔の外に出た。彼はさらに、幅20センチしかない石板の縁に沿って塔の最上部を、足早に回って見せた。

 危険なのではないかと尋ねると、手すり用のワイヤーロープがあるから大丈夫だというが、今まで不注意で落ちて亡くなった人もいたという。しかしそれでも、昔と変わらず敬虔に塔を回る信者は、跡を絶たない。
 
 塔から下を見下ろすと、塔林の周りの転経廊では、多くのチベット族の人が「マニ車」を回していた。ここはとても、神秘的で神聖な場所である。(2006年6月号より)


 

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