青海省玉樹チベッ ト族自治州・競馬祭り

騎馬民族の誇りを賭けて


文・写真 張臣 紅杏 

   

 玉樹チベット族自治州は青海省の西南の境、青海高原の奥地にある。毎年七月二十五日から、この地では、七日間から十日間にわたる競馬祭りが行われる。この地の人々、特に男性たちは何よりも乗馬を愛し、祭りはもちろん、婚礼など、祝い事にあたっては、必ず競馬を催す。

 玉樹チベット族自治州の州都である結古鎮の西三キロには、美しい草原があり、チベット語では「ザシカ」と呼ばれる。この言葉は、「吉祥の地」という意味で、毎年の競馬祭りは、ここで行われる。祭りの日、草原には、無数の白いテントが並ぶ。全州からチベット族の伝統衣装に身を包んだ人々が集まり、草原で繰り広げられる競馬、歌、踊りを見物する。草原にはたくさんの屋台も出て、そこで買い物をしたり、飲み食いをしたりするのもまた楽しみとなっている。

 競馬の歴史は、七世紀から九世紀にかけて、青海・チベット高原に成立した吐蕃王国の時代に遡るという。勇ましい騎馬民族であった彼らは、版図を拡大し、隆盛を誇った時期もあった。仏教がこの地に入って以来、人々は次第に殺生を忌むようになり、かつては武術を磨くために行われた競馬は、神をまつり、人々の娯楽のために行われる催しとなっていった。九世紀初め、吐蕃と唐が皇族同士の姻戚関係を結んでいた時期には、文成皇女が婚姻に向かう途中、この地を通過した折に競馬が催され、儀礼の一つとなっていたことがわかる。

 競馬の始まりにあたっては、マツとコノテガシワの枝が燃やされる。これは古代から続く厄払いの習慣であり、開幕の儀式でもある。競馬の競技には、騎射や射的などの競技のほか、疾走する馬の背に仰向けになる、馬上から「ハダ」(仏や目上の人などに捧げる神聖な白い絹布)を拾うなど様々な種目がある。

 騎射は、古代からの競技の一つだ。選手は吐蕃時代の軍装に身を包み、手には弓、腰には矢筒を付け、的中率を競う。  射的は、一定の距離のなかでの、動作の流れ、姿勢の美しさの完成度を競う。もしも選手の姿勢が悪く、動作がぐずぐずしていたりすると、馬が射程距離から走り出てしまうこともあるし、銃が発火しないこともある。そんな時、見物人からは盛んにヤジが飛んでくる。

 「ハダ」の競技は、さらに激しい。騎手は馬を全速力で走らせながら、道の両側に並べられたハダを拾い、その数で優劣を競う。

 また馬上での逆立ちや疾走する馬から手綱を放し、馬の首を足でつかんで背中に仰向けになる競技は、もともとは民間の伝統的な馬術の一つだったのだが、今では競技種目に組み入れられている。

 草原では馬の競技のほかに、様々な種目が繰り広げられる。

 なかでもヤクレースには会場が沸く。時には事前によく訓練したヤクが、会場に到着したとたん、聞き分けが悪くなり、騎手がどんなになだめすかしてもテコでも前に進まないことがある。また時には途中で突然向きを変え、逆方向に走っていくヤクや、見物客に向かって走り出すヤクもいる。だからレースの結果は、必ずしも優秀なヤクが一等とは限らず、意外な結果に騎手も見物客も大いに興奮する。

 馬やヤクの競技のほか、綱引きや、石や砂などをつめた麻袋を持ち上げるチベット式重量挙げなどすべての競技が終わると、祭りの日の一番重要な項目、歌と踊りが始まる。

 ここは、有名な歌舞の地でもある。「およそ話が出来る者は歌えるし、道を歩ける者は踊ることができる」。玉樹チベット族自治州にはこんな言葉がある。全州の六県には、様々な歌と踊りがあり、農業の村と放牧の村にはそれぞれその特徴が表れている。わずか数十戸の小さな村にも、独特の歌や踊りがあり、全州あわせると歌や踊りの種類は三百にものぼるほどだという。この地の踊りは、娯楽性に富み、演じられる内容も実に豊かだ。

 美しい自然、幸せな暮らしの賛美、また男女の愛情を表現した内容や、古代の戦争の場面を描いた勇壮なものもある。演じられる内容は、数カ月前に選ばれ、本番までに入念な練習が続けられる。歌声は高らかと遠くに響き、踊りは力強い。

 集まった人々の華やかな服装もまた目をひく。チベット族の居住地のなかでも、玉樹のものは、はっきりとした特色がある。祭りの日は、華やかな服装と高価な首飾りを披露する貴重な場であり、またそれは訪れる人々を迎える礼儀でもあるという。草原はまるで、チベット民族衣装のファッションショーのようになる。なかでも女性たちの髪飾りと、男性たちの髪型は、いちばんの特色といえるものだ。

 玉樹の人々、特に女性たちは服飾に限りない情熱を抱き、頭、編んだ髪、両耳、首、腕、指、腰、足と体の至るところに、玉や貴金属の飾りを下げる。玉樹の服装はこの地の人々の豪放磊落な性格にふさわしいものであると同時に、彼らの美学を内包し、世界の民族衣装と競うにふさわしいものだ。  美しい草原で古代の調べとともに演じられる踊りと歌は、祖先たちが繰り返してきたように、彼らの力と美を、そして騎馬民族の威風を示すものなのだ。 (2001年5月号より)