雲南省大理 ペー族・火把節
炎が邪気を焼き払う
旧暦6月25日、雲南省の大理ペー族自治州のペー族は、火把節(たいまつ祭り)を祝う。火把節の由来は、字のごとく火と深い関わりがある。
唐の時代、大理には、六詔(六つの集団)が割拠していた。六詔の中で、もっとも強大だったのは、ピールオグが率いていたモンショ詔で、他の詔を取り込もうとたくらんでいた。ピールオグは、当地の伝統祭の名を借りた宴を張る計画を立て、各詔の長たちを松明楼(マツヤニをたっぷりと含んだ木材で作った建物)まで呼び寄せた。 ドンダンも呼び出された長の一人だった。ドンダンの美しく聡明な妻・バイジエは、ピールオグの野心を見抜き、夫に招待を断るよう勧めた。しかし、彼の暴威を恐れたドンダンは、招待を拒否できなかった。夫がまさに出発しようとしていたとき、バイジエは、鉄のブレスレットをプレゼントした。
五詔の長たちがモンショ詔に着くと、主人であるピールオグは松明楼で接待した。宴もたけなわの頃、ピールオグは理由をつけて席をはずし、彼の配下が計画どおりに松明楼に火を放った。五詔の長たちは、大火の中でひとり残らず命を落とし、彼らの家中の者が駆けつけたときには、誰一人判別できない状態だった。 バイジエは、手に傷ができ、鮮血が流れるのもいとわずに灰燼の中を手で探り、爪を赤く染めた。そしてついに、焼けて変形したブレスレットの残骸を見つけ、夫の亡骸を確認した。
ピールオグは、若く美しいバイジエを見初め、妃にしたいと考えた。しかしバイジエは死んでも屈するものか、と死んだ夫への貞節を誓い、湖に身を投げた。 バイジエの貞節を守る不屈の精神を記念しているのが火把節で、燃えさかる火把の前で、様々な活動を行う。 火把節の数日前、ペー族の若い女性と子供たちは、ホウセンカで爪を赤く染める。これは、バイジエが夫の亡骸を見つけるため、爪が血で真っ赤になるまで探した故事を記念している。同時に、ペー族の両親は、すでに嫁いだ娘、特に嫁いだばかりの娘を呼んで団らんする。しかし娘の夫がこの団らんに参加することは禁忌とされている。 火把節で、もっとも重要なのは、火把をつくる作業だ。子供は薪を束ねて小火把(小さいたいまつ)をつくり、大人は村の広場で大火把(巨大なたいまつで、火把節の「主役」になる)を束ね、最後に地面に立てる。各家の玄関先にも小火把を配置し、村の数カ所に大火把を立てる。
ペー族の慣わしでは、男の子を授かった若い父親は、火把を束ね、女の子を授かった父親は、火把を立てるための穴を掘る。これは、火把節と原始的な生殖崇拝に深いつながりがあることを暗示している。 大火把は、長さ10メートル前後の松の木を軸にする。軸の外側に、一層ずつ松の薪をくくりつけ、通常12層、うるう年に限っては13層の火把を作る。一番外の層には、麦わらとマツヤニを多く含んだ木を用い、点火しやすいよう工夫している。また、大火把には、手の込んだ彩色上絵をほどこした縁起物の紙を貼り付けた木製の斗を飾る。その斗の四つ角には、「国泰民安」「人寿年豊」「風調雨順」などの豊作や平安を祈る言葉が書かれた色とりどりの小旗を突き刺す。そのほかにも、「火把梨」や「花紅」などの地方特産の果物や爆竹、花火などを、カラフルな縄で大火把の周りにくくりつける。火把が燃える時には、爆竹の音が響き、火花が輝き、その華やかさに目を奪われる。
この日の夕方、競馬祭りも行われ、当時、バイジエのもとに一大事の知らせが伝えられた緊張した情景を再現している。 大理の海東郷では、火把節のこの日、竜船競漕も行われる。お祭りの前には、村ごとに、大きな木造の船を岸に上げ、彩色上絵をほどこし、マストに縁起物の大きな斗を差し込む。マストの左側にドラを引っ掛け、老人がドラを鳴らしてこぎ手の指揮を執る。各船には80〜120人のこぎ手が乗り込む。 競技は普通、午後一時ごろに始まる。当地の保護神である「放羊本主神」の「乗船」を待つためだ。「放羊本主神」は、朝方は山で羊を追い、昼頃ようやく戻ってくる。線香に火をつけ、チャルメラを吹き鳴らし、ドラを叩き、「放羊本主神」に「乗船」してもらって、競技開始だ。
夜になると、火把節のクライマックスとなる。火把に点火すると、若者と子供は小火把をかかげ、マツヤニの粉を詰めた布袋を腰に掛け、人とすれ違うと袋の中のマツヤニの粉をつかんで火把に投げ入れ、相手に炎を向ける。このとき、危ない目に遭わされた人は、なんと怒らないだけでなく、逆に心の底から喜ぶ。悪運を焼き払ってくれると信じられているからだ。ただ、ケガを防ぐため、マツヤニの粉は下向きに投げつける。
初めて火把節に参加し、マツヤニの粉をかけられる情景を目にすると、どうしても緊張してしまう。しかし、マツヤニの粉が体について炎が向かってきても、熱さは一瞬で、ケガはしない。服は少しだけ傷んでしまうけれど。 若者が年配者に出くわすと、「(マツヤニの粉を)ひとつかみ捧げます」と声を掛ける。そうすると、年配者はうれしそうに立ち上がり、敬意を受ける。若者は往々に、グループごとに行動し、火把を手に持ち、通りがかった人たちとマツヤニの粉をかけ合う。
若者や子供にとって、この日は一年で一番楽しく、日常を忘れられる祭日だ。ペー族の村々は熱気に包まれ、お祭りに陶酔する。叫び声や笑い声が響きわたり、火の海の中に溶けていく。この火は、ペー族に未来への光明や深い愛情をもたらし、守護神や祖先の平安を祈る力をもたらす。(2002年3月号より) |