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銀製の碗を手に、水かけ祭に参加する若い女性たち |
雲南省西南部にある景谷ダイ族イ族自治県は、北回帰線にまたがる亜熱帯地域にある。山地、渓谷、丘陵、盆地などが交錯する地形で、「山ごとに四季があり、十里ごとに天気が変わる」という気候が存在している。
ここのダイ族は、山間の台地や渓谷地帯の肥えた土地に暮らす。村の周辺は、ガジュマルや菩提樹、青竹、果樹などにおおわれ、魅力的な自然が広がっている。
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死者の霊を祭る「滴水」 |
他のダイ族地区と同様、景谷の水かけ祭は、ダイ暦6月17日から19日(太陽暦4月中旬)に行われる。同県には、雲南省の省都・昆明から車で約12時間かけて、ようやくたどり着いた。
水かけ祭は、ダイ族の新年のお祭りで、特殊な水かけイベントがあることから、水かけ祭と呼ばれるようになった。
景谷のダイ族は、ダイナというダイ族の一支族で、今でも伝統的な習俗を保ち続けている。もともと仏事とのつながりが強いが、ここでは、他の地区と比べて、より典型的な仏教色を備えている。
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水かけ祭に欠かせない五穀豊穣をもたらす縁起物の白象 |
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牛頭の面をかぶって踊る |
ダイ暦6月17日は、水かけ祭の初日であり、ダイ暦の大晦日だ。私たちは朝早く村に足を運び、村人たちが年越しの準備に忙しい様子を見た。掃除をする人、沐浴をする人、家畜を殺す人、もち米を蒸して餅つきをする人、甘菓子や「涼粉」(緑豆のデンプンで作ったトコロテンのような食品)を作る人など、手を休めている人はいない。長老たちは、寺院で祝日に欠かせない縁起物の白象や面を作り、女性たちは、井戸から水を汲んできて、寺院の内外をきれいに掃除した。僧侶たちは、この日のもっとも重要な活動として、仏像を清め、衣装を着せた。
ダイ族は、年越しに際し、仏像の一年のホコリを洗い清めることで、村人も家畜も加護されると信じている。この日、村の老若男女はそろって川辺に行き、砂で塔を作り祭事を行う。ダイ族は、大晦日に作った砂の塔を、仏塔や仏像と同様に神聖なものとみなす。砂の塔を祭れば、前世の罪を軽減できるだけでなく、精霊が村人を守り、新しい一年を無事に過ごせると考えている。
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自分でつくった竹ひごの面をかぶった緬じいさん |
雲南省の多くの地域の水かけ祭では、すでにこのような宗教色は見られなくなり、中には世俗化してしまい、単なるドンチャン騒ぎになっているものもある。私たちも、祝日の雰囲気に触れて、我慢できずにお祭りの喜びを分かち合った。そして、仏像を清めるために使う水で自分の身を清めれば、災厄をまぬがれることができると聞いた時、私たちも水の入った桶を手にした。
翌日(ダイ暦6月18日)は「空日」(空き日)と呼ばれている。ダイ暦によると、この日は旧年でも新年でもなく、新旧二つの年の間にある。
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献花するために寺院に向かう若い女性たち |
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仏壇に花を投げる女性たち |
早朝、村人たちは竹かごやひょうたん型の小瓶を手に仏教寺院に向かう。長老たちは、寺院で「滴水」(水をたらす)や「タン仏」(仏に供物を捧げる)の儀式を行い、僧侶の「滴水経」に耳を傾け、死者に供物を供える。境内には村人がうごめいているのが見え、家族ごとの集団になっている。彼らは、小瓶の聖水を地面にまきながら、こう唱えた。「ヒョウタンから聖水をまこう。聖なる水よ、こんこんと流れ出る涙のごとく、一滴一滴を悲しい土地に注ぎ、先に逝ってしまった親族の霊を祭る……」
ダイ族は、なぜ「滴水」や「タン仏」によって死者の霊を祭るのだろうか。
伝説によると、昔、国王の一人息子が不幸にも命を落とし、川の向こう岸に葬られた。悲嘆に暮れた国王は、毎日朝晩、侍女に供物を運ばせて祭るようになった。これは七年七カ月続いた。
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相手の肩や背中に水をかけ、お互いに祝福する |
ある日、大雨で川が増水し、侍女は川を渡って供物を届けられなくなってしまい、川岸に座ったまま泣き出してしまった。ちょうどその時、一人の和尚が通りかかり、侍女にどうして泣いているのかと聞いた。理由を知ると、和尚は侍女に、水を汲んで一滴一滴たらしなさいと言い、自分は侍女の傍らでお経を唱えた。その晩、国王の夢に息子の霊が現れ、七年七カ月はずっとお腹を空かせていたが、今日ようやくお腹いっぱいの料理を食べられたと話した。
これ以来、ダイ族は、死者に供物を届けるには、必ず僧侶の読経と「滴水」を行うことが必要だと信じるようになった。
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村の外で亡くなった人のために、寺院の前で「滴水」が行われた |
3日目(ダイ暦6月19日)は、いよいよダイ暦の新年だ。早朝、「象脚鼓」(ゾウの足に似た形の太鼓)と「芒鑼」(大きく中心部が突出したドラ)の大きな音に驚いて目を覚ました。村の太鼓隊と花摘み隊は、すでに活動をはじめていた。花摘み隊は、沐浴をして体を清め、きれいな衣装に着替えた若い女性によって構成された。彼女たちは、昼頃まで、山で美しい野花を摘んだ。
午後には、村中の人たちが広場に集まり、伝統的な娯楽活動を行った。それが終わると、献花が始まった。若い女性たちは、手に花を持って仏前にひざまずき、花を捧げて幸福を祈った。未婚の女性は、意中の人に出会えますようにとの思いを伝えた。
献花が終わると、水かけが始まる。
ダイ族は、水かけ祭の水を、神聖、純潔、友愛の水と見なしている。景谷では水かけの際、葉のついた木の枝を、生花をひたした清水につけ、軽く人の肩や背中に水をまき、互いに祝福の言葉を交わし合う。このような光景に、他のダイ族地区ほどの活気はなく、非常に荘厳で神聖なものだと感じられるが、それでも幸せな雰囲気にあふれている。
夜になると、広場で花火やガヤンと呼ばれる集団舞踏を楽しむ。老若男女が一つの輪になって、「象脚鼓」のリズムに合わせて愉快に踊りながら、「水、水、水」とあちこちで叫び声が上がる。そんな興奮は、深夜まで続く。(2002年9月号より)
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