劉世昭 タイ永東=写真 劉世昭=文 |
「カナダの透明で純白な雪の山並み、米国コロラド州の美しい原始林、ワイオミング州の大峡谷、イエローストーン国立公園にあるトラバーチン彩池の美しい景観……それらのすべてがここ黄竜に集まっている。これは世界的にも珍しい。黄竜は中国の財産であるばかりでなく、全人類共同の財産でもある」――米国のナショナルパーク管理局のスタンリー・アルバート西部地区局長。 |
黄竜風景名勝区は、四川省アバ・チベット族チャン族自治州の松潘県内に横たわる岷山山脈の南側、青海・チベット高原東部の縁から四川盆地にかけての地帯にある。風景区の地質構造は、氷河が残した地形や大河の源流の地形などをすべて完全に残している。またここには、珍しい生物の種の資源があり、景観の類型は豊富で、生態系は原始の状態を保っている。さらにここには色とりどりの池や浅い渓流、雪山、峡谷、森林があることでも世に知られている。 世界最大のトラバーチン(注)瀑布や浅い渓流があり、地下水に含まれている鉱物が沈殿してできた「高原辺石ーモ」によって造られた彩池(色のついた池)群がある。風景区の総面積は七百平方キロ以上で、黄竜溝、牟尼溝、丹雲峡、雪宝頂、雪山梁、紅星岩などの景観区からなっている。 (注)トラバーチン 平行な縞状の細孔を持つ無機質石灰岩。温水・湧水中で化学的沈殿として生成される。
およそ200万年前、地球の造山運動によって、岷山山脈が青海・チベット高原とともに急速に隆起した。黄竜溝もこの時期に、氷河によって削り取られ、典型的な 字谷となった。ここの地質構造は複雑で、古生代と中生代三畳紀の炭酸塩を主にした地層となっている。 黄竜溝の断層帯は、重要な地下水の通路となっており、炭酸水素カルシウムに富んだ地下水が深い場所で循環したあと、地面に流れ出してくる。これが黄竜のトラバーチン堆積の源になっている。 水は、黄竜溝の凸凹の河床を流れるにつれ、水流が淀んだり流れたりする。そのうえ、流れが木の根や葉によって遮られ、光合成によってトラバーチンが堆積する「生物カルスト」と呼ばれる作用が起こる。こうしたさまざまな自然の影響により、水中の炭酸カルシウムが沈殿し、大型の露天のカルスト堆積地形が形成されたのである。
黄竜の地表に形成されたトラバーチンの景観は、主に黄竜溝、牟尼溝に分布している。その中で黄竜溝は規模が大きく、さまざまな形をしている。標高3145〜3578メートルの間の、長さ3・6キロにわたる谷川には、3400以上のトラバーチンの彩池からなる八つの彩池群がある。それは、迎賓池、盆景池、明鏡倒映池、娑ツワ映彩池、争艶池、玉翠彩池、映月彩池、五彩池と名付けられている。 その中で、一番高いところにある標高3576メートルの五彩池が、もっとも代表的である。五彩池は、面積2万1000平方メートルで、大小693の彩池でできている。黄竜溝では一番広く、彩池の数が一番多い。山から見下ろすと、ひとつひとつの彩池が一枚一枚の碧玉のように、五彩池の中にはめ込まれている。
池の中には、明の時代(1368〜1644年)に建てられた石の家と石塔がある。その大部分はトラバーチンの堆積によって埋もれ、石屋根と塔の先端しか見えない。 明鏡倒映池と娑ツワ映彩池の間には、長さ2・5キロの動物の背のような斜面があり、「金砂舗地」と呼ばれる。ここには、炭酸塩が固まって池になる地理的な条件がないので、水はゆっくりと流れ落ちてゆく。水の底には黄金色をした鱗状のトラバーチンが固まった渓流となる。 遠くからこれを眺めると、太陽の光にキラキラと金色に輝き、まるで一匹の黄色い竜が雪山から飛び降りてきたように見える。これが黄竜溝という名の由来である。
科学者たちは、「金砂舗地」を調べた結果、これまでに発見された同じような地質構造の中で、もっとも良い状態で残され、もっとも広くて長く、もっとも色彩に富んでいる地表のトラバーチンの渓流であると認定した。 黄竜溝には二つの寺がある。玉翠彩池と映月彩池の間にあるのは、明代に建てられた仏教寺院の黄竜中寺である。また、五彩池からわずか40メートルしか離れていない平坦な土地にあるのは、道教の道観、黄竜古寺である。伝説では、黄竜真人がここで修行を積み、道を体得して天に昇ったという。
二つの異なる宗教の寺院が、500メートルしか離れずに共存し、何事も起こっていない。これは、黄竜では、道教と仏教とが融合し、独特の宗教的な特徴を持っていることを示している。 牟尼溝には、落差93・2メートルのトラバーチン瀑布であるザガ(扎嗄)瀑布がある。幅40メートルの瀑布は、乳白色のトラバーチンの山に沿って、何段もの階段を勢いよく降りるように流れ落ち、大きな飛沫をはねあげながら、雷のように大きな音をあげている。専門家によれば、これは世界一大きなトラバーチンの瀑布である。 黄竜溝の出口から東南へ向かうと丹雲峡に入る。ここは長さ35キロの高山の峡谷で、谷底には長江の支流であるク「江が流れている。
丹雲峡に四つの特徴がある。第一に峡谷が深く、曲がりくねっていること。第二に植物が繁茂していて、その種類がきわめて多いこと。第三に、秋になると、峡谷の両岸が紅葉でいっぱいになること。ここから丹雲峡という名が付けられた。第四に、この峡谷には奇妙な形をした石や峰、洞穴、瀑布が数え切れないほど多いということだ。 雪宝鼎(標高5588メートル)は岷山山脈の主峰で、黄竜溝の西側にある。チベット語で「シャドンルガボ」と呼ばれ、「東方に聳え立っている法螺貝のような神山」という意味である。チベット族の原始宗教であるボン教の七大聖山の一つに数えられている。言い伝えによると、雪宝鼎は観音菩薩のもつ法螺貝が変化したものだという。
また雪宝鼎は、長江の二つの支流である岷江とク「江の分水嶺であり、両江の水源でもある。ここには、現在も成長しつつある氷河があり、氷河の運動で形成された堰き止め湖もある。 自然景観のほかに、雪宝鼎では、敬虔で誠実なボン教の教徒が、左回りで「転山」(山を巡る)するのを見ることができる。「転山」は、チベット仏教とボン教の専門用語で、聖山を一周回ると、仏教の六字真言やボン教の八字真言を一億回念じたことに匹敵すると信じられている。 人々は、「転山」の最終地点である雪宝鼎の正面にたどり着いたときに、山の上から黄竜溝のすばらしい全景を俯瞰することができる。(2005年1月号より)
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