銀糸象嵌の「青銅牛灯」は、中国語では「錯銀飾青銅牛灯」という(「錯銀」とは、銀糸で模様や文字などを象嵌する手法)。これは1980年5月、江蘇ハン江県甘泉鎮の後漢の陵墓から出土した。銘文によると、陵墓の主は、後漢(25〜220年)初期に葬られた広陵王・劉荊である。
中国でのランプの使用は、戦国時代(前475〜前221年)に始まったとされている。漢代には、すでに広く普及していたが、一般市民は陶磁器製ランプを用い、青銅製の使用者は大部分が貴族だった。
今回紹介した牛形の青銅製ランプは、「紅燭灯」と呼ばれ、灯台、油ランプ、カバー、フタの四部分から構成されている。ばらすことが可能で、拭き掃除にも便利だ。
油ランプの内部には、二枚の青銅製の半円形板があり、風を遮るだけでなく、光の角度や明るさを調節できる。フタにはキセルのようなパイプが付いていて、煙はそのパイプを通って牛の腹部の水に溶け込み、室内の空気を新鮮に保つことができるという、巧妙な仕掛けになっている。
このランプは、形が美しいだけでなく、全体に銀糸で精緻な模様がほどこされている。雲と螺旋模様を組み合わせた図柄を背景に、竜、鳳凰、虎、鹿、それに各種の神仙や妖怪などのイメージが描かれ、その奇特な構図や生き生きとした自然な姿は、最高傑作の一つと呼ぶにふさわしい。(2003年2月号より)
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