この館 この一点

侍女の心が伝わる
「長信宮灯」
 
 魯忠民



青銅器
前漢(前206〜紀元25年)
高さ48センチ

 


 前漢の青銅器である長信宮灯(ランプ)は、1968年、河北省満城県の漢代の中山靖王だった劉勝と妻の墓(満城漢墓)から出土した。かつて、劉勝の祖母である竇太后の長信宮に置かれていたため、この名がつけられた。

 秦漢時代に、青銅工芸は、精巧で実用的な生活用品と、鑑賞用の芸術品という二つの方向に発展した。彫刻装飾がほどこされた灯籠は、早くは三千年以上前の殷代に現れ、漢代の職人が、先人の伝統を継承し、さらなる創造を加え、数多くの逸品を生んだ。同ランプは、漢代の代表的作品で、実用性と高い芸術性を兼ね備えた工芸美術品である。

 材料には、純度の高い黄金が使用されている。ランプの高さは48センチあり、表面には65の文字が刻まれている。デザインは非常に精巧で、侍女がひざまずき、左手でランプの下を支え、右手はカバーと一体化している。全体は、頭、胴体、右腕、ランプの台、受け皿、カバーの六つの部分からなっていて、それぞれを鋳型に流し込んで成型したあと、接合されている。

 受け皿には可動性があり、カバーは照らす方向と明るさを自由に調節できるように設計されている。女官の右腕と体は内部でつながっていて、煙が右腕から体内に入り、すすは空洞になっている内部にとどまるため、室内の汚染も抑えられる。

 注目に値するのは、侍女の形だ。袖の部分が大きく広がった長衣を身につけ、自然な美しさがあり、顔立ちは清楚で美しい。また、頭を少し前にかしげ、一点を凝視し、少し疲れたように見えるが、とても注意深い様子が伝わってくる。当時の下級の若い侍女の心理的特徴をよく現している作品である。(2003年5月号より)

 
 

河北省博物館
文・魯忠民
 写真提供・人民画報出版社
 


 河北省博物館は、石家荘市長安区に位置する河北省最大の総合博物館である。1953年に保定市に創建され、現在の場所には82年に移転し、従来の省展覧館と省博物館が合併して新博物館となった。

 2階建ての同博物館は、北京の人民大会堂を模していて、面積は1万9500メートルある。所蔵文物は約15万点にのぼり、特に貴重な文物だけでも100余点ある。至宝と呼ぶにふさわしい文物に、満城県にある漢代の中山靖王・劉勝とその妻の墓(満城漢墓)から出土した金縷の玉衣(古代に、貴人の死体を包むために使った衣装)、長信宮灯をはじめ、曲陽市出土の北朝(北魏、北斉、北周の3王朝、386〜581年)の石像、保定市出土の元代(1279〜1368年)の青花磁器などがある。

 また、近代の文物も豊富に所蔵されていて、現在、「河北古代略史陳列」「満城漢墓復元陳列」「河北革命史陳列」の3つの常設陳列がある。そのうち、「満城漢墓復元陳列」ホールは、2パートに分かれ、2つの墓から出土した300件以上の文物を展示していて、観客は、漢代帝王の墓の様子を知ることができる。

開館
火曜日〜日曜日
(夏)  8:30〜11:30、15:30〜18:30
(春秋)8:30〜11:30、14:30〜18:00
(冬)  8:30〜11:30、14:00〜17:00
(月曜日及び祝祭日は休館)