「鈞窯双耳三足香炉」は、元代の鈞窯の中でもとても貴重な品で、1970年、内蒙古自治区フフホト市の近くで出土した。同時に出土した陶磁器は六点あり、どれも大型で趣がある。
専門家の分析では、民間や宮廷で使われていたものではなく、有名な寺院に献上したものだと見られる。鈞窯にある記述の干支により計算すると、香炉が作られたのは、1309年だと思われる。
鈞窯は、北宋(960〜1127年)初年に作られ始めた宋代の五大名窯のひとつである。産地である河南省禹県の古鈞台一帯は、かつて鈞州と呼ばれていて、そこから付けられた名称だ。のちに、近辺の県や河北省磁県などの陶磁器の産地が、鈞窯を模倣するようになり、鈞窯の一大系ができるきっかけになった。
鈞窯は、「銅紅釉」の陶磁器と「窯変」(窯焼きの際の温度差によって起こるうわぐすりの化学反応)で有名だ。元代になっても人気で、多くの基本うわぐすりの色は、青地に紫がかった深紅のまだらである。
今回紹介した「鈞窯双耳三足香炉」の縁の両側には、対称に長方形の耳のようなもの、その下には、獣の形をした一対の取っ手がついている。炉の首に当たる部分には、三頭の麒麟がほどこされ、一頭は後ろ側、二頭は正面にある。
正面の二頭の麒麟の間には、凸型の四角い額のようなものがあり、上には、「己酉年9月15 小宋自造香炉一個」という楷書の銘文が彫られている。腹部には、獣の顔の模様がほどこされていて、香炉そのものは三本の獣の足で支えられている。
全体が青いうわぐすりで処理されているが、「窯変」により、うわぐすりの色がうつわの表面に流れているようになっていて、とても生き生きとしたつくりだ。美しく、力強いこの鈞窯は、元代の陶磁の特徴をよく現している。(2003年7月号より)
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