この館 この一点


鼓を叩いて今にも歌い出す
「撃鼓説唱俑」
 
     文=魯忠民 写真=王露


灰陶製 後漢(25〜220年) 
高さは66.5センチ


 

 殉死者の代わりに埋葬された、人や動物をかたどった俑は、漢代の彫塑の中で非常に重要な地位を占めている。

 その題材は広範囲にわたり、内容は豊富で、車馬に乗って遠出する様子から、家を守る侍や奴婢、台所や宴会、歌舞やさまざまな芸能まで、ほぼ何でも題材にしている。これは漢代の多彩な社会や生活を反映しており、写実主義の色彩が濃く、高い芸術的価値をもっている。

 中でも四川地区の漢代の俑は独特である。多くの俑が出土しているが、成都市ロッ県から出土した「撃鼓説唱俑」は代表的な俑である。この俑は、生き生きと活力に満ち、またユーモアのある一人の芸人を表現している。

 この芸人は、両足で立ち、身体は湾曲が誇張され、頭部は大きく、髪を巻いて髷を結い、額は皺が多く、胸と腹をはだけて、左手に円い鼓を抱え、右手に撥を握っている。その表情は豊かで、面白おかしく目配せし、口を歪めて舌を出し、まるで物語のヤマ場を唱っているかのように見え、人々を魅了する。この「説唱俑」の前には、素晴らしい芸に興味深く聞き入っている聴衆たちがいたことだろう。

 漢代の民間の彫塑家たちは、決して簡単に生活の中の情景を模倣して俑を造ったのではない。大胆にデフォルメして、芸人が瞬間的に見せる表情を表現することに重きを置いている。

 この俑の作者は、虚構を用いて見る者に連想させ、隠されたドラマチックな場面を造り出している。同時に、この作品自体が、漢代の芸術がもつ独特の生き生きとした気分を現しており、漢代の民俗や陶塑芸術を研究する貴重な歴史資料となっている。

 
 

四川省博物館

 

 
 四川省博物館は、成都市人民南路にあり、中国西南部の最大の社会、歴史、文化、芸術の総合的な博物館である。この博物館は1941年に建設され、当時は四川博物館と呼ばれた。52年に四川省博物館となり、65年、現在の場所に移転した。敷地面積は50ムー(1ムーは約6.67アール)あり、収蔵品は16万点を数える。

 同博物館はこれまでの40年間に、1000以上の古代遺跡や陵墓を発掘、整理し、素晴らしい成果を収めてきた。現在、常時陳列されている3300余点の古代から近現代までの文物以外に、各種の臨時の特別展や記念展が催されている。

 博物館に収蔵されている文物は、どれも濃厚な巴蜀(四川省)地方の特色をもっている。それらは、陶磁器、磚石、金属、貨幣、書画、民族民俗、碑帖、近現代史の8分野に分類されている。

 その中で、画像磚と画像石は、四川のもっとも特色のある漢代の文物である。陶磁器は、収蔵品の中で重要な構成部分となっていて、有名な後漢の「説唱俑」や「銅製搖銭樹」なども含まれている。

 現在、「巴蜀のルーツを探る」がこの博物館の基本展示のテーマとなっていて、展示品は数十万点の中から1000点近い逸品が選ばれ、その中の80%が初公開の文物である。

 21世紀の到来に際して、四川省重点文化プロジェクトとして四川省博物館の新館の建設が始まった。将来、博物館は14の展示ホールを持つ、全面的に巴蜀文化を展示する総合的なものとなるだろう。(2004年4月号)