全人代・政協会議の焦点

 

 中国の第9期全国人民代表大会(全人代=国会に相当)第5回会議が3月5日から15日まで、中国人民政治協商会議(政協)第9期全国委員会第5回会議が3月3日から13日まで、それぞれ北京の人民大会堂で開かれた。

 今回の両会議(いわゆる「両会」)の焦点は、農民の増収策や社会保障制度の完備、失業対策など、さまざまな社会問題への対応が討議されたこと。「比較的速い経済成長」(朱鎔基総理)を維持しながらも、社会の安定と発展を目指す中国の方針が明らかになった。(全人代の「政府活動報告」は、5月号の本誌付録をご参照ください)

        農民の増収策がポイント

 農業は、中国の国民経済と社会の安定にかかわる重大な問題である。世界貿易機関(WTO)加盟後の中国で、農業はより大きなチャンスと挑戦に直面するだろう。

 このため、朱鎔基総理は、今回の第9期全人代第5回会議の政府活動報告の中で、経済活動の重大な任務として、「農民の増収策」を強く示した。これに対し、両会議に出席した代表と委員は、いずれも農民の増収問題に注目し、大きな関心を寄せた。

 政協会議にかけられた議案のうち、「WTO加盟後の積極的な農業対策についての提案」は、今回の政協会議の第1号提案として記録された。また、出席者の多数が、具体的で実現可能な意見を出した。

政協会議で農民の増収策について語る肖万均委員

 政協の肖万均委員は、「農民の収入を増やすためには、農村の経済構造を整備し、さまざまな産業をバランスよく発展させることがカギだ」と指摘した。全人代の杜遠明代表は、「第2次、第3次産業を発展させ、農村における余剰労働力を適切に移動させなければならない」と強調した。価値論を専攻する蔡継明委員は、「農民が都市部で働くのは、収入増につながる一つの方法だ。これを制限してはならない」と訴えた。

     中等所得階層を示した呉敬l、蕭灼基両氏

 中国の改革・開放が進むにつれて、社会階層にも構造的な変化が現れてきている。中でも注目されるのが、社会の中間階層が広がりをみせていることだ。

 今回の政協会議の分科会の席上、経済学者・呉敬l氏と、北京大学の蕭灼基教授は、中等所得階層(中間階層)の区分とその役割について明示した。

 蕭氏は、こう考えている。中等所得階層は、マイホームを持ち、住宅の床面積は一人あたり約50平方メートル。マイカーを持ち、家族全員で毎年、国内リゾート地へ出かける余裕もある。さらに株式などへの投資も行っている。

記者の質問に答える呉敬l委員

 呉氏は、こう考えている。現代の中等所得階層は、専門分野の人々を主とする階層であり、「資産」がないのが特徴だ。初期において、中等所得階層が強調するのは「資本」であり、職業別にみれば、主に専門技術者や経理(責任者)、記者などの専門分野に就く人々を指す。

 蕭氏は、次のような5つの職業区分を、中等所得階層とみている。

 @科学技術関係の企業家、A金融・証券業の経営幹部、B仲介機構の専門家。たとえば弁護士、公認財務コンサルタント、公認会計士など、C私営企業家、株式・証券業者、D外資企業の経営幹部

 2人の学者は、社会・経済の発展における中等所得階層の役割について、「それは社会を安定させるものだ」と一致して認めた。蕭氏は「中等所得階層は貯蓄があるため、消費は安定して伸びていくはずだ。彼らが、市場の新潮流を導くという特徴は、安定した内需拡大を保ち、製品のグレードアップを促進する上で、重要な役割を果たすだろう」と語っていた。

    都市部の貧困層すべてに 最低生活保障制度を

 都市住民の「最低生活保障制度」の確立は、中国における社会保障制度の重要なポイントであり、両会の代表・委員たちが最も関心を寄せた話題の一つでもある。

 民政部(省庁にあたる)のドジェ・ツェリン部長は、2002年度の主な都市部の最低生活保障活動について、次のように明らかに述べた。

 「できるだけ速やかに、最低生活保障条件に当てはまる都市部の貧困層をすべて保障範囲に入れ、保障することを実現させよう」

 「各地方は3月末までに、現地の最低生活保障を受けるべき者を対象に再度、一斉調査を行い、保障任務に応じて活動スケジュールを作成する。4月からは、民政部は『カウントダウン』の掲示板を設置するとともに、全国レベルのメディアを通じ、各地方の活動進展状況を定期的に発表する」

 「各企業でも、特に貧しい従業員家庭の最低生活保障を確保する。また、災害や病気、突然の事故などにより、生活苦に陥った家庭に対し、『糧油カード』(食糧と食用油を安く購入できる証明書)の給付や、臨時救済などをもって、更に援助していく」

 民政部の統計によると、2002年1月現在、最低生活保障金の支給人口は、全国で1235万人に達し、昨年初めの382万人に比べて223%の増加となった。現在、中国では北京、上海、広東、江蘇、浙江、内蒙古、遼寧、黒竜江、重慶、貴州、海南など11の省・直轄市・自治区で、基本的にこの政策を実現している。

        一時帰休された800万人の雇用を

記者会見での李栄融・国家経済貿易委員会主任(右)

 一時帰休(レイオフ)された者の雇用問題は、国の経済発展と社会の安定に関わるものであり、重大な問題である。今回の全人代の記者会見で、国家経済貿易委員会の李栄融主任は、次のように語った。

 「今年は一時帰休された800万人を、新しい職場で雇用する」

 「昨年末、国有企業のリストラなどによる失業者総数は、2550万人だった。その中で、1700万人が再就職の機会を得、500万人近くが再就職への準備をしている。300万人余りは早期定年退職者である」

 一時帰休者の雇用を効果的に進めるため、今年、政府は次のような活動を行う。

 1つは、社会保険料を増やし、一時帰休者の地域社会での斡旋(就職先)を確保すること。2つは、一時帰休者の再就職訓練センターの確立と、彼らの素質や就業能力を高めるとともに、中小企業を発展させ、就業の機会をさらに増やすこと、である。

    18人の政協委員が 環境センサス実施を呼びかけ 

 環境問題は、世界的に注目される問題である。生態環境が悪化し、自然災害が頻発するため、中国政府は生態環境の改善を国の最重要項目の一つとしている。今回の政協会議では、18人の委員が、環境センサスの実施を呼びかけた。

 『中国の持続可能な発展に関する報告』を4年連続、主に執筆してきた専門家の牛文元委員は、次のように語った。

 「人口、土地資源と同じように、国の生態環境の状況とその変化は、国情を理解し、法律を定めるための基本的なより所となっている。これまで20年あまり、中国の経済はめざましく発展したが、同時に生態環境も破壊されてしまった。いったいどの程度まで破壊されたのか、全国の統一的な答案がなければならない」

 「WTO加盟後、生態環境は中国の経済と社会に与える影響がますます大きくなるだろう。国としては、基本的な統一データを出して、これまでのデータの多様化という状況を改めなければならない。科学研究面から言っても、統一データが必要となる。今後はさらに進んだ観測も可能になるだろう」

 「環境状況の実態調査は、部門別から全国規模に格上げしなければならない。それは、中国における生態の基本状況だけでなく、中国の基本的な国情もはっきりとつかむことができるのである」

 牛委員が半年をかけて練り上げた提案は、他の17人の政協委員の賛同を得た。提案書にはそのサインが記され、それは共同提案の形で提出された。

       7%成長の実現は問題ない

 国際的な経済情勢と、中国のWTO加盟がもたらす衝撃と挑戦――。人々は今年、中国経済が持続的に成長できるかどうかを懸念している。

記者会見での曽培炎・国家発展計画委員会主任(右)

 それに対し、国家発展計画委員会の曽培炎主任は、「7%成長という今年の経済目標は、われわれの努力により、実現できることだ」と訴えた。

 「今年は中国のWTO加盟の初年度だ。そのため一部の業界や企業は大きな衝撃を受けるし、国内でも多くの問題を解決しなければならない。経済成長にも確かに難しい局面はあるだろう。しかし、有利な条件もかなりそろっている。内需拡大の方針や積極的な財政政策、安定した貨幣政策の実施、それに1500億元の国債発行などは、いずれも投資や消費の加速に有利だ」

 「さらに企業の経営効率が高まるにつれ、投資が増える。WTO加盟後は、外資も増えよう。この2年間、都市部住民の所得は持続的に増加し、特に農民の収入が回復的に増加した。住宅や観光旅行、教育、車などは新たな消費ブームとなっている」

 曽氏はまた、次のように述べた。「今年の輸出は比較的大きな困難を伴うかもしれないが、有利な要素も少なくない。WTO加盟は中国に新しいチャンスをもたらし、成長企業の場合は、輸出がさらに伸びる可能性もある。輸出品には日常商品が多いが、その輸出もある程度伸びる見込みがある」

        社会保障に関わる提案は100件に

 中国の社会保障制度のスタートは遅く、そのシステムはまだ不完全である。21世紀に入り、高齢化問題や社会改革、経済構造の整備によって、社会保障に新たな要求がつきつけられている。

社会保障問題に最も関心を寄せる薄熙来代表

 今回の両会では、社会保障問題にもっとも多くの関心が寄せられた。政協会議では、社会保障問題に関わる提案が100件あまりにも達した。

 マスコミに「提案の王」と称される卜仲寛委員は今回、政協会議に39件もの提案を出した。うち6件が、社会保障問題に関わっている。彼は、4カ月あまりの調査・研究の結果、「社会保障の範囲を拡大する」「都市部住民の最低生活保障レベルを高める」「社会保障の財源確保のため、社会保障宝くじを発売する」などの提案を出した。

 また、李維屏委員はこう述べた。「社会保障の重点は、職種や都市・農村の差、年齢差に関わらず、全国の国民を社会保障システムに組み込むべきだ。国の立法機関はできるだけ早く社会保障に関する法律を制定し、社会保障システムを法的軌道に乗せるべきだ」

      代表たちの提案 大型連休を9日間に

 黄金週間(一週間の大型連休)は、観光業や関連産業の発展を促し、内需を拡大するために効果的である。調査に基づき、李樹田代表は「メーデーと国慶節(10月1日)の法定休日を、現行の7日間から9日間に延ばす」ことを提案した。

 北京市鉄道局局長でもある李氏は、次のように語った。

 「1999年、メーデーや国慶節、春節(旧正月)の法定休日は1日から3日間となった。それに前後2週の土日を合わせて、7日間の大型連休になって以来、すばらしい経済効果を収めた。2001年の3度にわたる連休中、国内の観光客はのべ1億8000万人に達し、年間総旅客数の23%に上った。観光事業収入は736億元に達し、それは年間観光事業収入の14.7%を占めた」

 李氏は、さらに語った。「中国では多くの人が、都会から離れた場所に住んでいる。旅行を望んでも、列車で片道2日間以上はかかってしまう。そのため7日間の休日では足りないのである」

 李氏はまた、「メーデーと国慶節の法定休日をそれぞれ2日間増やすか、あるいは法定休日を増やさずに、前後の土日からさらに1日ずつ移して、9日間の大型連休にする」という意見を出した。