【あの人 あの頃 あの話】I |
北京放送元副編集長 李順然
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「誠心誠意」が生んだ麺食いの本
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近畿日本ツーリスト北京事務所の所長をしていた坂本一敏さんから、その力作『中国麺食い紀行』(一星企画)をいただいた。 27年かけて、中国大陸の450ほどの街を訪ね、その土地、その土地の麺をみずからの五感で採点し、それを記録した本で、ご本人撮影の写真も豊富に添えられていて、実に面白い。中国の書籍を扱っている東京神田の東方書店の中国に関する日本語書籍月間ベストテンでも、1位にランクされたことがある。 この本が面白いのは、その行間に感じられる坂本さんの人柄によるところが大だと思う。坂本さんはこの本の「あとがき」で、27年間、中国旅行の仕事を楽しくこなせたのは「天の時、地の利、人の和に恵まれたからだ」と書き、さらに次のように述べている。 「人の和は、中国の旅行社の人たちに、決して嘘をつかない、そしてお世辞を言わないが、誠心誠意、人に接するという私の人間性を認めてくれた人が多くいたということだ」 坂本さんは人間性といっているが、もっとくだいていえば人柄だろう。誠心誠意、人に接するという坂本さんの人柄が、中国大陸の各地に、進んで坂本さんにその土地、その土地の麺情報を提供し、進んで坂本さんの麺食いの旅の道案内をかってでる仲間を生んでいったのだろう。坂本さんの誠心誠意が、こうした仲間たちの誠心誠意の声援を呼び、この本が誕生したことが行間からうかがえるのだ。 私のまわりにも、熱烈な坂本ファンがいた。北京放送の同僚で『中国の旅』という番組を担当していた王民君だ。王民君は、坂本さんが「酸湯子」という麺は聞いたことはあるが見たことも、食べたこともないと知ると、自分の姉さんが「酸湯子」を作れるといって、坂本さんを遼寧省遼陽市の姉さんの家に案内して、姉さん手造りの「酸湯子」をご馳走した。
北京から夜行列車で遠く遼陽まで、1杯の麺を食べに行った坂本さんの熱心さにも、また坂本さんを暖かく迎える王民君姉弟にも頭がさがる。王民君は坂本さんの誠心誠意にすっかり惚れ込んでいた。 坂本さんの優れた観察力、描写力もさることながら、坂本さんの人柄にひかれた多くの人々のバックアップも、この本を面白くした大切な要素だと思う。 日本では、『中国人との付き合い方』とか、『中国人と日本人、ここが違う』とか、中国人との関係処理についての本が、いろいろ売り出されている。旅行業というトラブルの起きやすい仕事の、そのまた第一線で、中国人と付きあってきた坂本さんの『中国麺食い紀行』は、「誠心誠意」という4文字で、中国人をも含む人間同士の付き合い方に解答を出しているといえるだろう。もちろん中国人に対する日本人の誠心誠意とともに、日本人に対する中国人の誠心誠意も欠かせない。この2つがあって始めて人の和が成立する。坂本さんの『中国麺食い紀行』には、この道理が語られている。 ちなみに、坂本さんは京都大学文学部哲学科(美学美術史専攻)卒業という、旅行会社社員にしてはちょっと珍しい学歴の持ち主である。1994年1月号の『人民中国』に坂本さんの秀作「中国麺行脚 麺の故里を訪れる」が掲載された。(2005年10月号より) |
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