上海に新しい披露宴の スタイルを 経済成長を続け、刻々と変化する上海で、新しい結婚披露宴のスタイルを上海に根付かせようとする男たちがいる。 婚礼プロデュース会社の「上海成世禮儀有限公司」を共同経営する程鋼さん(45)、周寧さん(42)、唐芸さん(40)の三人だ。 ある統計によると、上海市では毎年、八万組のカップルが結婚している。新居にかかる費用をのぞいた結婚関連消費は一組あたり平均14万元(1元は約15円)で、上海のウェディング市場は年間百十二億元に達している。 現在、中国人カップルの結婚に欠かせないアイテムのひとつに、婚礼写真のアルバム作りがある。上海ではほとんどのカップルが結婚する二、三カ月前に婚礼写真館を訪れる。 婚礼写真館は、90年代半ばに台湾から上陸した。中国大陸部にも婚礼写真を撮る習慣はあったが、貸衣装屋とスタジオは別々の会社だった。消費者にとっては婚礼写真館が登場したことで便利になったと同時に、写真の撮影がイベント化してきている。新婦はウェディングドレスやチャイナドレスを基本に五着、新郎もそれに合わせて衣装をまとう。スタジオとロケを含め、撮影は一日がかりだ。撮影の後は、写真を選ぶ。そうして披露宴の一カ月前にはゴージャスなアルバムが手元に届く。 この撮影や写真選びに、家族や友人を同伴してくるカップルは少なくないらしい。中国では、いわゆる結婚式がなくて酒席(披露宴)だけを行う。婚礼写真の撮影は、夫婦となる二人にとって結婚に向けてのセレモニーの役割を果たしているようだ。また、周囲の人たちにとっても、二人の結婚を認めたという感覚を味わうことのできる儀式になっているのかも知れない。 飲んで食べるだけの 披露宴は古い? 婚礼写真館が浸透し、披露宴での純白のドレスが定番化した今、新婚カップルは新たな何かを求め始めたのではないか――。周寧さんらは、そんな上海の人々の変化をキャッチし、新たなブライダルシーンを演出しようとしているのだ。 「これまでの中国の披露宴というと、飲んで食べるだけでしたが、今はロマンティックな披露宴をしたいというカップルが増えているんですよ。キャンドルサービスやケーキカット、シャンペンタワーなどはとても人気がありますし、郊外の別荘を借り切っての結婚式も一味違った雰囲気になると好評です。また、誓いの言葉を新郎新婦が述べて、証人にサインをしてもらうという式のスタイルも提案しているのですが、最初は恥ずかしがっていた新郎新婦からも一味違う披露宴になったと喜ばれています」(唐芸さん) 会社設立は、1998年3月。二年目には、地元の新聞やファッション誌『ELLE』などのメディアに、新しい形の披露宴として紹介されるようになり、ビジネスも軌道に乗り出した。昨年、彼らの会社で手がけた結婚式は約百件。同業者もここ一、二年で増えたという。さらに、昨年末には、彼らのプロデュースした結婚式に参列したことのある民間企業の経営者から「ぜひ、自分の会社の設立一周年記念パーティをプロデュースしてほしい」という依頼も受けた。ビジネスに広がりも見えてきた。 日本で学んだことは サービスの本質 三人はそれぞれ80年代末から九〇年代にかけて日本へ留学した。上海に戻ったのは、唐さんが1994年、周さんが96年、程さんが97年だった。 程さんは留学を終えた後、横浜中華街のレストランの宴会部で四年間働いた。上海に戻って起業の準備を始めていくうちに、日本の結婚式をつぶさに見てきた経験を生かそうと考えた。ほかの二人は帰国すると、それぞれ日系企業などに勤務したが、程さんが起業すると同時に唐さんが、その約一年後には周さんもビジネスに参画するようになった。 「海外で勉強したことや海外の良い所を故郷の上海の人たちに教えられるって、いいことだし、楽しいでしょう」(周さん) 彼らは、日本で何を学んだのだろうか。 「サービスとは、何かということです。お客様は神様ですという姿勢を学んだ」。そう、三人は口を揃える。だから、披露宴が終わって、新郎新婦と家族の満足そうな顔、参列者の喜んだ顔を見るのが一番嬉しいのだという。そんな彼らからは、欧米文化や日本のビジネス習慣を中国風にアレンジして、上海に今までになかったものを作り出しているという自負が伝わってくる。 三人三様性格が違うが、それぞれの長所がうまく引き出されて会社は運営されている。陽気で接客のうまい唐さん、留学前に地方裁判所に勤務していたこともあり法律に明るく、慎重に物事を運ぶ周さん、そして視野が広くて様々な側面から物事を見ている程さん。 時にケンカもするが、それも一種のストレス解消とかで、オフィスの雰囲気は和気藹々としている。オフィスを訪れたカップルは、きっと自分たちの結婚披露宴のプロデュースを三人に任せたくなるだろう。 彼らの次なる目標は、上海に総合的なサービスが提供できる結婚式場を作ること。今後、彼らは上海の人々にどんな新しいブライダルシーンを見せていくのだろうか。(2001年7月号より) [3人のプライベート] [筆者略歴] 日本での出版社勤務後、留学。北京週報社・日本人文教専家を経て、現在、復旦大学大学院生 |